イル・ポスティーノ
30年くらい前に見て、感動した、思い出の映画を見てきた。
イル・ポスティーノ、南イタリアの小さな島を舞台にした、詩人と内気な郵便配達人の友情を描いた作品。日本では1996年に公開。
そのころ私は下高井戸に住んでいて、下高井戸には小さな映画館があって(今も健在)必ず、毎週一本は映画を見る!と決めていた。ほとんど、直感で見る映画を決めていたので、「あたりの映画」もあれば「はずれの映画」もあり、どちらかというと、たいして印象に残らないものが多かったけど、この映画は、「大当たり」だった。
見ているうちにどんどん引き込まれていって、見終わった時「私、こういう映画が好きなんだ~」と感動している自分に驚いた。話題の映画でもなかったし、派手な演出とかもなく、素朴な映画なんだけど、青年マリオと詩人ネルーダの言葉のやり取りの面白さ、マリオが恋をした時の心の揺れとか、ネルーダの粋な計らいの数々、島の自然も出演している役者さんも、陳腐な表現しかできないけど、美しかった。
今みたいにSNSはなかったから、その時の感動って誰にも話すことができなくて、ただひたすら、一人で、いい映画だったな~と余韻に浸り続け、翌日、もう一回見に行った。
そのあとはあまり思い出すこともなかったのだけど、何年か後にふと、この映画のことを思い出し、検索したら、主演で監督を務めたマッシモ・トロイージは映画の完成をみることなく、41歳の若さで亡くなっていたということを知って、また衝撃を受けた。どこかはかなげで、でも、この世の中にある美しいものをすべて残らず見ておきたい!感じておきたい!みたいな、ぴんとはった糸のような生命の輝き、は、死を予感していた演技だったのかも…あの時感じたことが一致した。
まさか、映画館でもう一度見られるなんて、
久しぶりに見たけど、はじめて見た時とまったく同じように、映画の中に引き込まれていった。
言葉が寄せては返してきた。 船酔いになったみたいだ。言葉の中に漂う、小舟のようだ、父親の投げる網は…悲しき網…
言葉を通して私も感じる…
昼になれば消えてしまう露のようなきらめき
私の心の中で輝く純粋なきらめきは消えることはない