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【宝石の国】魅力語り・感想 あらゆる点において好き

宝石の国について語りたいことはたくさんあるが、ひとことで表すと「あらゆる点において好き」。
美しく謎多きこの超大作の魅力を、思う存分ここに書き出していく!
熱量高め、アツアツな魅力語り回です。

致命的なネタバレは避けていますが、ストーリーに触れている部分もあるのでご注意を。


画が美しい!キャラクターデザインが良い!

まずはビジュアル面につきまして。

私のタイプのど真ん中を射抜いた、市川春子氏の絵。
イラスト調の可愛らしさとレトロな画風がたまらない。高野文子氏の影響を受けているそうなのだが、このお方は私の大好きなアニメ「平家物語」にも関わられているのでもう高野様は神様です。
第一印象はレトロな感じが強い一方、スーパーモダンでスタイリッシュな背景やコマ割りも出てきて、それらが違和感なく融合しているという不思議な様式。(だんだんとキャラクターデザインもモダン寄りに変化していくけれど、どの絵もかわいい)

イラスト調ながらもハイクオリティーな漫画として成り立つのは、やはり氏のとんでもなく高い画力があってこそ。シンプルな画をもってこれだけリアルに宝石たちの生きる世界が伝わってくるのは、的確な造形描写とデフォルメセンスの賜物でしょう…!

また、斬新な漫画表現が詰まっておりアーティスティックな作品になっているというのもポイントのひとつ。絵画としても成り立つような美しいページに視覚からも感情を揺さぶられる。
特に印象的だったのはこのコマ↓

宝石の国 6巻「自戒」より

頭部から突き出た合金がフォスの割れた欠片を掴んでおり、髪が花びらのようにそれを飾る。彼が宝石であることが活かされた表現でございますね。
フォスの精神状態と暴走する合金の狂気がありありと伝わってくる、グロテスクで美しい絵。感嘆しすぎて酸欠。

そして服のデザインにも込められた愛とこだわりも見どころ。
詳しく知りたくなった私は「図説 宝石の国」(宝石世界・月世界の風俗資料集みたいなもの)も買った。宝石の服の内側には刺繍が施してあったり、月のお姫様の頭飾りは兎のような形になっていたり、ダイヤちゃんのスカートが蓮の花の形になっていたり(刺々しさも表しているとのこと)。どの服装もデザインが素敵かつ意味が込められていたりして、設定の細やかさにも楽しみがある。

遊び心にも富んでいて、主人公であるフォスの表情豊かでチャーミングな動きも良いし、よく見たらなんかいる…(5巻でアレキが運ぶ資料に乗せられた重石に顔がついているなど)みたいなエンタメ性まで備えている。

言わずもがなだが、表紙も素敵。中表紙にも仕掛けがある。
家に揃えたくなる、まるで宝石のような本。
私のお気に入りは6巻と7巻。物語にシビアさが吹き込んでくるようになり、表紙もこれまでの可愛らしいものからトーンが変わってシックな装いに。色合いもデザインもお洒落!

ちなみに「図説 宝石の国」の絵もとても好き。
こちらではカメラが無かった時代の西洋の植物図鑑や昆虫図鑑を思わせるクラシックな筆致が用いられている。私が持っているのはハードカバー版で、この装丁がまた良いのです…持っているだけで賢く見える(※個人の感想です)、洗練されたデザイン。

あと…何気なく私の心をときめかせるのが市川春子氏の手書き文字。
柳を連想させる、古風な淑やかさを湛えた形がたまらないですね…。


ファンタジー、学園生活、コメディー、SF、戦闘、文学、ミステリー、詩、仏教観… 要素てんこ盛り!

はんなり学園ものかと思いきや、徐々に敵の正体について・自分たちの成り立ちについての謎が明かされていくミステリー要素も出てきてページをめくる手が止まらなくなるのがこの作品の妙。その間に描かれる宝石社会の人間(石)模様に心を抉られる。最後に描かれるそれぞれの行先…宝石の国ってSFでもあったのかという驚き。
これは何漫画ですかと問われたら、レポートを手渡さないとちゃんと説明ができない。

ファンタジーだけじゃない!SF大賞受賞作品の世界観

先日発表された第45回日本SF大賞を受賞された本作。
美しくも脆い宝石たちが月人なる敵と戦う物語というなんともファンタジーな世界観だが、宝石たちの起源や月人という敵の謎、さらには宇宙まで広がる舞台についてなるほど~~~と唸ってしまうような斬新な設定がなされている。
サイエンス・フィクションとしても認められた世界観は、漫画やアニメより小説派という方も楽しめるはず!

説明しすぎない描き方が生み出すミステリー作品としての魅力

ナレーションがほぼない本作では、何が起こっているのかや登場人物の感情を台詞や絵から読み解かなければいけない。謎が多く研究欲を駆られる作りになっており様々な考察記事が立っている。
謎が多いとはいえよくよく読むとちゃんと書いてある・物語全体の流れを鑑みると推理できるようになっているのが絶妙なところ。明示的な伏線回収をしているわけじゃない部分も多いので理解するには読み込みが必要だが、そこが好奇心旺盛な読者を惹きつけて離さない所以である。

ただ原作者様による解説はまだないので、推測止まりになっている謎も多い状況。いつか裏設定なども含めた解説本、もしくはファンブックのようなものが出版されるといいなとこっそり願っている。

宝石社会の妙にリアルな石模様が人間の心にも染み入る

自分のポンコツさを気にしない根明な宝石がいたり、自分の特性を気に病んで自ら孤独になる宝石がいたり、賢く危うい者、優しく怖い者、塞いでしまう者、恋のプールで泳ぐ者、攻撃的になってしまう者…。
個性的なキャラクターたちが、時にチクっと人間の心も刺すようなことを言ったりする。そんな文学的な側面も作品に深みを与えているのです。

絶妙なユーモアに癒される

宝石の国はギャグマンガではないので派手な演出は無いのに、宝石たちのちょっとしたかけあいに絶妙な面白さがある。ワードセンスがいいのと、みんなかわいいのがタネなのだろう。
私が特に好きなのは、
・カンゴームにへりくだるフォス
・すっごい性格わるい流氷に心配される、落ち込みフォス
・「僕行きたくないんだけど…」が全員から黙殺されるベニト
です。

仏教をベースにした哲学的なテーマの数々

仏教の価値観や、仏教にまつわるモチーフが取り入れられているのもこの作品の特徴。
フォスの身体の七宝や、煩悩の数でお話が完結するなどは有名なところだが、物語が提示する「無」「自然」「知足」などなど仏教的価値観も非常に面白い。この作品を読んで、仏教の教えに助けられながら"幸福"や"人間"について突き詰めて考えてみるのもまた一興。


宝石の個性が光る、愛くるしいキャラクターたち

この漫画に出てくるキャラクターたちのチャーミングさは筆舌に尽くしがたい。みんなかわいいというのは再三述べてきたことなので置いておいて…。

宝石をキャラクターとする上で面白いのが、割れやすさ・ある温度以上では液体化する・多重構造になっている・光の当たり具合で色が変わる・帯電するといった宝石の性質が彼らの個性にも反映されているところ。自身の宝石としての性質が戦い方やコンプレックス・執着などの性格に繋がっていたりする。

特に私がすごい!と思ったのはゴーストクウォーツにまつわるお話。
単純に二重人格な子なのかと思いきや、身体の二重構造と名前の"ゴースト"がうまく活かされた、そうなるかあァ!と唸るほどの展開が中~後半に出てくる。

ちなみに私の一押しキャラはイエローダイヤモンドです。
クールなようで実はお茶目な最年長。周囲が身を挺して守りたくなる気持ちがよくわかる、でもその結果長く生き残って大変な目にも遭い心が疲れてしまった哀しく美しい宝石。


最後に

これだけの魅力があると書き出すのはなかなか大変だったが、自分の中でも好きをより強固にする良い機会になったので大変満足。自己大満足。

この作品の芸術性の高さや仏教をモチーフにした世界観は海外でも評価されると私は確信している。特に欧州で好まれそう(もし海外での広報のお仕事があったら立候補したいわア)。

まだまだ書きたいことはあるので、細かい感想は別途まとめていこうと思います。

ここで本当に最後に一言。
一押しはイエローおにいさまと書いたが、ペリドットも同じくらい好き。
紙っていいよね。


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