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雪国へ(3)飯田線 小和田へ
最終日の朝は早くから辰野に向かい、飯田線に乗り込みました。
ひとまず飯田でちょっとだけ下車。
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ここは乗り継ぎで降りたのか、たんに降りてみたかっただけなのか……おぼえてないけど、たぶん後者な気がする。
いま振り返っても過去の自分がなにを考えていたのかよくわかりません。
飯田駅を改札の外側から見て満足したので、つぎは天竜峡で下車。
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特急停車駅だし観光名所もあるようなので、お昼ごはんを食べられると思っていたのです。
とにかく寒いので、お蕎麦とかうどんとか、温かいものを食べたいのです。
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うーん……あいてるお店がない……
たぶん年末だからですね。
どうしよう。
食べ物なにも持ってない。
これはもう豊橋までなにも食べられないパターンかも。
どうしよう。
うろうろしていると、小さな商店があいてる!
命拾いしました。
おむすび弁当を購入。
飢えずにすんだことに感謝。
ぶらぶらと歩き、「天竜峡」の石碑の前で記念撮影(自撮り)などを済ませたので、ホームに戻りました。
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時刻表や路線図帳を手繰りながら豊橋方向行きの電車を待っていると、二人連れのご婦人方に声をかけられました。
見たところ私の母と祖母の中間ぐらいのご年代でしょうか。
「あなたは旅行?」
「はい、一人旅で」
秘境路線と呼ばれるあたりで女性に会うことはあまりないので、私もちょっと嬉しくなって世間話をしました。
ご婦人方は埼玉から、飯田線の景色を楽しみに来られたそうです。
電車に乗って、ご婦人方と私は同じ車両のすこし離れた席に座りました。
電車が走り出します。
きたきた。
千代、金野……
夏の旅を思い出して物思いにふけっていると、先ほどのご婦人方がカメラ構えて右往左往しておられます。
「あれはお茶畑かしら」
「え? 見えなかったわ」
などと話しておられます。
ここで立ち上がる私。
教えてあげなきゃ!!!
「この先に田本っていう、ものすごい駅がありますよ。田本は左側の窓に見えてきます」
「あら、本当! ありがとう!」
電車の中はガラガラなので、ご婦人方は左側の席に落ち着き、窓の外に注目します。
「あらー!」
「すごい駅ね」
「ね、断崖絶壁の駅って有名なんです。私は夏に降りました」
次はこっちの窓を見てたら駅がありますよ、あれが天竜川で……などと、見どころを話していると、
「プロのガイドさんみたいね」
と喜んでもらえました。
飯田線の成り立ちとか歴史を勉強してきたばっかりだったので、ちょっと誰かに話したかったんです。えへ。
ご婦人方となんとなく連絡先を交換しあい、私は小和田で下車。
窓から手を振り合って、電車を見送りました。
このご婦人方とは現在も交流が続いているのですが、それはまた別のお話ということで。
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うう、寒い……
え!
この寒いのに私以外にも降りた人がいる!
ホームのちょっと先を金髪の青年が歩いています。
ここから次の電車がやってくるまでの長い時間を、ふたりで過ごすことになるのを考えるとちょっと緊張します。
あまり話が続かない感じの人だと、なかなか地獄だぞ……
などと勝手に逡巡していたのですが、青年はさっさとどこかへ行ってしまいました。
地元の人なのでしょうか……?
まあいいや! これでしばらく小和田駅は独り占めできます。
寒くてたまりませんが、せっかく降りたのにずっと駅舎で座っているのも悔しいです。
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この小和田駅は秘境駅として有名ですが、1993年の天皇陛下と皇后雅子様ご成婚の際、雅子様の旧姓・小和田(おわだ)と漢字の並びが同じだということで盛り上がった歴史があるそうです。
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駅からちょっと出て歩いてみると、それらしいものをすぐに発見できました。
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座ったらなんか負けた気持ちになれるベンチです。
その先もすこし歩いてみましたが……
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ダメだ。
怖い!!
遭難しそう。寒い。人いない。怖い。
ムリだ、やめよう。
早々に駅舎に戻っておむすび弁当を食べ始めました。
食べられるだけありがたいけど、やっぱり冷たい……
しばらくトイレにも行けませんから(駅舎にトイレはなさそうでした)、あまり身体が冷えないようにしたいところです。
よし。
こういうときはあれだ。
大声だ。
お腹が満ちた私は全力で歌いました。
いろいろ歌いました。
しばらく歌うとだいぶ温まりました。
歌うことに飽きて本を読み始めると、さっきの金髪の青年が戻ってきました。
黙って座っていても気まずいので、なんとなく話し始めました。
彼曰く、「ものすごくバカげた一人旅」の途中なんだそう。
学生で所持金が乏しいので、特急をいっさい使わず北陸本線やらあいの風とやま鉄道やらを乗り継いできた、小和田はどんな駅か見てみたくて降りた、というようなことを言っていたと思います。
「さっきどこ行ってたんですか?」
「この先の集落まで歩いてみようと思ったんですけど、あまりにもなんにもなくて途中で帰ってきました」
「ここで私が歌ってる声聞こえてました?」
「いや、ぜんぜん。
ていうか、何の音も聞こえない……風と、自分の足音以外、なんにも」
「ねえ、写真撮ってあげましょうか。
一人旅だと自分が写ってる写真ないでしょ」
「いや、俺、写真とか撮る習慣がないんで。SNSやってないし。LINEすらやってません」
ものすごく希少な若者に思えました。今時の大学生でスマホを持っているのにLINEをやってないなんて。素敵!
「でもせっかく来たんだし、一枚ぐらい撮っといたらどうですか? たぶんもう来ないでしょ」
「それはまあ、そうなんですけど」
彼は大人しく私にスマホを差し出し、特に笑いもせずシャッターを押されました。
たくさんしゃべるわけでもなく、よく笑うわけでもなく、決して愛想がいい人ではないのですが、しっかりと芯があって悠々と自立した人、という印象。
素敵だなぁ。
小和田で待ち時間を一緒に過ごすには最適のタイプかもしれません。
さっき車内でお話ししたご婦人方といい、この彼といい、謀らずもなんだか素敵な人と出会うことができました。
いい旅になったな。
気ままなひとり旅の醍醐味です。
話し飽きて各々勝手に好きに過ごしていると、帰りの電車の時刻になりました。
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電車がやってきたら、なんとなく軽く会釈しあって各々好きな席に座りました。
ここからはまたひとり旅です。
それにしてもSNSやってない若者って、電車の中でなにして過ごすんだろう?
ふと不思議に思い、彼の方を見てみると、黙々と本を読んでいました。
なに読んでるんだろう。
金髪に本って、似合わなくてめちゃくちゃ素敵。
暖かい車内にほっとしてまどろんでしまいます。
ゆっくり眠って飯田線を降りたら、せわしない年の瀬の空気に包まれた東海道本線に乗って、家に帰ろう。
両親と年越しの準備をしなくては。
完