〈高校の卒業式後〉3学年担当の教員はなにをしているか
今年も3月前半に各高校で卒業式がおこなわれた。
長い春休みを迎えた卒業生たちは、きっといまごろ、すこしのさみしさと大きな解放感を抱いていることだろう。
それは卒業生を送り出した3学年担当の教員たちも、まったくおなじである。
生徒がいなくなって荷物もすべてなくなった教室は、びっくりするほど静かになる。
担任は座席をまだはっきりと覚えているので、誰もいない机に向かって、思わず名前を呼びたくなってしまうかもしれない。
ああ、もうあの子たちたちが毎日登校していた賑やかな日常には二度と戻れないのかと思うと、しみじみとさみしくなるだろう。
その一方で、担任の胸には大きな解放感が押し寄せてくる。
やっと卒業させられた!
もう授業も試験も成績処理も進路活動も調査書作成も三者面談も違反の指導もなーんにもない!
やったーーー!!!
込み上げる嬉しさを何度も噛み締め、それでもまたじわじわと込み上げてくるので噛み締める。
その幸せな繰り返しはしばらく続くはずだ。
そのため3学年担当の教員たちは、卒業生たちとおなじように、いまごろすこしのさみしさと大きな解放感を抱いていることだろう。
さて、そんな3学年担当の教員たちは、卒業式を終えたあと、毎日なにをしているのだろうか。
おそらくまずはこのように予想するだろう。
やることがなくて暇なのでは?
肝心の生徒がいなくなったのだから当然の予想である。
でも実際はそんなに甘くなく……
という〈教員=激務〉であることが裏付けされるような展開もまた予想できるかもしれないが……
実際はたしかに暇である。
なんの変哲もない答えだが、そりゃあいままでに比べて、仕事量は減るに決まっている。
では、具体的になにをしているのか。
第一に浮かぶのは掃除である。
掃除を侮ってはいけない。
3学年担当の教員たちはジャージ姿になり、空っぽになった教室や廊下や階段などを掃除し、仕上げにワックスをかけたり壁にペンキを塗ったりしているかもしれない。
そのあとは下駄箱や玄関などの共有スペースを掃除し、晴れている日はブラシでごしごしと磨いたり高圧洗浄機でぶしゃーと水をかけたりしているかもしれない。
それから事務的な整理もいまのうちに済ませておきたい。
卒業生たちに関する不必要な書類などはひたすらシュレッダーにかけ、すぐ満杯になるのでゴミ袋を取り換え、またシュレッダーにかける。
なお、ゴミ袋を取り替えたら細かな紙クズが辺りに散らかるので、きちんと掃くなり掃除機で吸い取るなりしておくことも忘れてはいけない。
そういうところは意外と見られているものだ。
新年度に向けた授業準備もできるだろうか。
まだ担当授業は決まっていないと思うので難しいかもしれないが、授業を問わずに使えるプリントなどを作ったり、もし確実に担当授業が決まっている状況であれば準備を進めたりできるだろう。
また、少数派かもしれないが、時間があれば研究会も行けるかもしれない。
上の記事でも書いたが、わたしは特に教科指導に関する研究会が学生のころから大好きだ。
もちろん、分掌や部活動は学年に関係ないため、平常通りおこなわれている。
分掌によってはこのタイミングでどかっと重めの作業が入ることもあるだろうし、部活動によっては春の大会などに向けて練習を強化することもあるだろう。
まあ、大体、そんなところである。
つまり、3学年担当で、そのなかでも特に3学年の授業しか持っていない教員は、卒業式を終えたら暇になるのだ。
しかしなかには、暇を暇として受け取れず、1年中忙しそうにしているまじめなタイプの教員もいる。
たとえば1、2学年担当の教員たちはまだ成績処理をしているので、自分たちだけ暇になることに対して申し訳なく思うのかもしれない。
しかしそれぞれに忙しい時期とそうでない時期があるのだから、周囲に合わせて申し訳なく思う必要はまったくない。
現に3学年担当の教員たちは、夏休みにほかの教員たちがのんびりしているとき、進路活動で忙しくしていたはずだ。
ほかにもたとえば忙しくしていることを良しとして、仕事する姿勢を停滞させてはならないと思うのかもしれない。
「なにか仕事はないかな」
「いまのうちにできる仕事をしておこう」
などと考えて新たな仕事を探し始める。
それは意識が高いというよりも、わたしからすると非効率で、優先順位のつけかたや時間の使いかたが下手なように見えてしまう。
現に教員の仕事は、新たな仕事を探し始めると尽きることがなく、無限に出てくるものである。
暇なときに暇だと自覚して暇を謳歌することのなにが悪いのだろうか。
上の記事でも書いたが、まじめすぎる教員は要注意だとわたしは常々感じている。
3学年担当の教員にとって卒業式後の貴重な時間は、無事に卒業生を送り出したことに対する特典のようなものだ。
わたしは3学年を担当することがわかると、その時点で、年度末の貴重な時間が楽しみになる。
最後にどれだけ有給を消化しようかな、なにをどうやって満喫しようかな、とわくわくしながら計画し、それが日々の業務の励みにもなる。
そのため、3学年担当の教員たちは特典を素直に受け取り、誰にも遠慮せず、めいっぱいだらだらしたほうがいいだろう。