生成AIを活用して爆速ペルソナ分析!【データ利活用の道具箱 #15】
はじめに
今回の記事では、これまで数か月かけていたペルソナ分析を、生成AIを活用したことでわずか数日に短縮した事例を紹介します。
我々コンサルタントはデータ活用のプロですが、この事例のお客様の業界は未経験で知見がありませんでした。
それでも、データと生成AIの力をフル活用し、スピーディにペルソナ分析を実施することができました。
ぜひ参考にしてみてください。
ペルソナ分析とは?
この記事では、マーケティング業務の一つであるペルソナ分析に注目します。
「ペルソナって何?」という方は、過去の記事で詳しく紹介しているのでこちらを参考にしてください。
ペルソナについてここでも簡単に説明します。
ペルソナとは、サービスを利用する顧客を特定のモデルとして定義するものです。
例えば、都内在住の共働きDINKsカップルで世帯年収が1200万円の層と、地方在住の60代単身者で世帯年収が500万円の層がいるとします。
これらの層は、それぞれ異なる住居環境やライフスタイルを求める傾向があります。
このように、異なるニーズをもつ顧客層を区別し、ターゲットとする層の解像度を高めるのがペルソナ分析です。
ペルソナを明確にすることで、企業は新しいサービスの開発だけでなく、マーケティングの方向性を具体化したり、サービスイン後の改善施策を迅速に実行できるようになります。
従来のペルソナ分析のデメリット
ペルソナ分析は非常に手間がかかり、専門的な知識が求められるプロセスです。
これまでは、街頭調査やアンケートを実施したり、自社が保有するデータを分析して顧客ニーズを探る手法が一般的でした。
しかし、この手法では膨大な時間とコストがかります。そのため、データ収集や分析の段階で修正が必要になったとき、やり直すハードルがとても高い点がデメリットです。
特に、ビジネス変化が激しかったり、顧客層が多様な場合には、時間をかけてペルソナを作りこむこと自体が、逆にボトルネックになりかねません。
試行と修正を繰り返しながらクイックにペルソナの精度を高めていきたい・・そこで、生成AIの出番です。
生成AIの活かしどころ
ここからは事例を交えながら、生成AI活用したペルソナ分析の手法をご紹介します。
なお、ここで紹介する事例は、記事として公開する都合上、実際の案件を多少デフォルメしていますのでご了承ください。
今回のお客様は、不動産を手掛ける企業でした。この企業は、オンライン上で賃貸物件に特化した不動産情報を提供する事業を展開しており、ユーザーが物件を探せるプラットフォームを運営しています。
特に、若年の単身者や結婚したばかりのDINKsなどをターゲットとし、他社にはないユニークな物件選びの体験を提供することを目指しています。
この企業は新規サービスを提供するにあたり、ユーザニーズを具体的に把握する必要がありました。
しかし、現時点では保有している顧客情報が少なく、顧客のデータからニーズを把握することは難しい状況でした。
そこで、公開されている外部データと生成AIを活用して、ターゲットとなる顧客層のニーズを分析することにしました。
具体的なステップは後述しますが、今回の活動で生成AIを活用した箇所は次の2つです。
①信憑性のあるデータの調査と取り込み
②データ分析の結果を要約
① 信憑性のあるデータの調査と取り込み
冒頭に書いた通り、今回の案件を実行する上での課題の1つは、我々がその業界に関して十分な知見を持っていなかったことです。
データ活用のプロとして、データ分析には自信がありますが、業界特有の顧客ニーズや市場動向に関しては、一般的なメディア情報や自身の経験に頼るしかなく、情報の偏りや精度の低さが懸念でした。
世の中にはペルソナ分析を生成AIで簡易化するツールも多数存在しますが、それらは「なぜ、そのペルソナが最適なのか」を明確に説明することができません。
なぜなら、生成AIが参照するデータソースの詳細が開示されていないため、出力結果の根拠を確認できないからです。
こうしたツールを使えば、素早く「ペルソナらしきもの」を出すことは可能ですが、その結果が本当に信頼できるかについては不透明であり、アウトプットの精度や質を評価することが難しくなります。
そこで我々は、生成AIが参考にするデータソースを、国や業界大手企業などが発信する統計データのように信憑性の高いものに限定し、そこから得られる情報だけでアウトプットするようプロンプトを自作することにしました。
② データ分析の結果を要約
今回はもう1つ、あるオンラインサイト上の口コミ情報も使いました。
信憑性という点では今一つですが、実際に物件を選んだユーザのリアルな声として、統計データとは違った視点からニーズを拾える可能性があるため、部分的に利用することにしました。
しかしこのデータは数万件にも及び、記載フォーマットも統一されていないため、そのまま生成AIに取り込むと情報が発散しすぎて精度が落ちる懸念がありました。
そこで自然言語処理を用いて口コミ情報から関心度の高いテーマ(共用設備の充実やマンションの外観など)を抽出し、それらに関連する口コミに限定して生成AIで要約させることにしました。
生成AIを活用してペルソナの解像度を上げるステップ
ここからは、実際に行ったペルソナ分析のステップと、生成AIを活用した様子を具体的に紹介します。
1. 初期ペルソナの設定
ターゲット層をやみくもに拡げると時間がかかりすぎ、分析の精度が下がる恐れがあったので、最初の段階である程度の顧客イメージを作ることにしました。
ペルソナの候補はいくつかありましたが、近年は在宅勤務などライフスタイルが変化しつつあるDINKs層に絞って分析することにしました。
お客様と相談しながら設定した初期ペルソナのイメージはこちらです。
2. データの収集・選定
次は、ペルソナを分析するために使うデータを集めるステップです。
今回は生成AIが利用するデータソースを信憑性のあるものに限定するため、公開されているものの中から信頼できるデータソースだけを集めるようプロンプトには以下のように指定しました。
不動産を手掛ける企業が、若年層や結婚したばかりのDINKsをターゲットにした賃貸物件紹介サービスの開発を検討しています。
今回は特にDINKs層のニーズを深掘りします。
世帯年収や家族構成などが似た属性の人たちは似たような不動産物件を好むことを仮説とし、これを検証する調査を行います。
この検証を行うのに最適な外部データソースを5つ、公開情報から選定してください。
条件は以下です。
#初期ペルソナ
・30代前半のカップル
・世帯年収800万円
・都内在住
・夫は出社の日が多く、妻は在宅勤務
・子供はすぐには計画していないが、ペットを飼いたい
#外部データソースを選ぶ条件
・初期ペルソナにマッチした情報をもつこと
・客観的に信頼できる信ぴょう性の高いデータであること
アウトプットされたのは、総務省統計局や国土交通省など国が公開している統計や業界大手の企業が出しているレポートで、信憑性という観点では◎だったので採用することにしました。
3. ペルソナのニーズを具体化
次に、ステップ2で選定したデータソースのみを参照するよう生成AIに指定し、先ほどの初期ペルソナのニーズを具体化しました。
すると、重視する5つの観点(「立地と通勤アクセス」「居住空間の間取り」「物件の設備と安全性」「価格帯と家賃予算」「周辺環境」)が浮き彫りになり、以下のようなニーズが見えてきました。
実際の回答では、それぞれの根拠として指定したデータソースのうちどれを参照しているのかも示されていたので、信頼して使うことができると判断しました。
4. ペルソナのブラッシュアップ
ステップ3までで終わらせることもできましたが、もう少し精度を高めるため、初期ペルソナの属性に近い情報をもった口コミデータをネット上で収集し、リアルな声も見てみることにしました。
数万件もあるデータから、なるべく初期ペルソナに近い属性の口コミを選び、約数千件のデータを対象に分析しました。
すると、ステップ3で重視するポイントとして挙がった「立地と通勤アクセス」に関しては、「駅から近く、通勤が便利」「スーパーやコンビニが徒歩圏内に揃っている」「飲食店や病院などの生活に必要な施設が近くにある」といった口コミが多数ありました。
これらは統計データの分析結果の裏付けとして使えそうです。
さらに、いくつか重要な発見もありました。
ステップ3では出てこなかった「デザインや外観」に関する口コミも多かったのです。
口コミデータを自然言語処理し、頻出ワードから関心の高いテーマとキーワードを調べてみると、「デザイン」「〇〇感」「外観」「内装」といったワードがよく登場していました。
こうした感覚的な情報は、統計データからはなかなか入手できないものなので、具体的なワードを拾うことができたのは収穫でした。
5. ペルソナの完成
口コミから新たに見出したニーズを生成AIに追加でインプットし、あらためてペルソナを定義させてみたものがこちらです。
差が分かるように、ステップ3の文章に追記しました。(太字部分)
本当に爆速だったのか?
ここまで、公開データや生成AIを活用したペルソナ分析のステップを見てきましたが、果たして本当に爆速だったのでしょうか?
街頭調査やアンケート、自社保有データの分析といった従来の手法と、今回の手法を比較したものがこちらです。
実際には様々な条件が加わるので簡単には比較しづらいですが、生成AIを活用することで、従来の手法では特に時間のかかるステップ2,3をわずか数日と、大幅に短縮できていることが分かります。
また、ペルソナの精度を高めるために行ったステップ4,5を加えても、その効果は大きいことが分かります。
最終的に出来上がったペルソナは、お客様からも違和感のないものに仕上がったとコメントを頂くことができました。
その分野に知見がなかったり、既存のデータが使えなかったとしても、生成AIを活用してある程度の精度でアウトプットできるのであれば、単なる時間短縮だけでなく、未知の領域においても迅速に初版をつくる手段として非常に期待できます。
まとめ
今回は、これまで一部のプロフェッショナルが時間をかけて行っていたペルソナ分析を、生成AIを活用して誰でも迅速に、かつ再現性のある形で実行する方法を紹介しました。
データ利活用の現場では、生成AIをうまく取り込み、業務の生産性を向上させることが重要になりつつあります。
生成AIを活用することで、競争力を高めつつ、ビジネスにスピード感を持って対応する時代に適した取り組みが可能です。ぜひ、今後のデータ活用の参考にしてみてください。
おわりに
今回のこの記事が、皆さんの理解の一助となりましたら、幸いです。
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