見出し画像

『虚無への供物』久生語り(ネタバレなし)

中井英夫『虚無への供物』。とってもいいですね。日本推理小説三大奇書の一冊。後の二冊は『ドグラ・マグラ』と『黒死館殺人事件』。個人的な感覚としては三つの中で一番まとも? でも決して薄味って意味ではないです。哲学的だし、メタ推理小説としての仕掛けも満載。ぜひ手に取ってみてくださいね。

今回はメイン登場人物の中で紅一点、「奈々村久生(ななむら ひさお)」について。

事件を語るメインキャラクター勢の中でも、彼女がめちゃくちゃいちばん目立っています。

20代の女性。ラジオ台本作家が本業で、シャンソン歌手もやってて、推理小説作家志望。とにかく、行動的、おせっかい、ある意味でしゃばり。

彼女のファッションの描写がすごいんです。和装の時も洋装の時も、華やかで細やかな描写。着物の帯の生地や模様、スーツ姿の時のかっこいいシルエットまで。

男性作家がよくこんな描写ができたなと思ってたんですけど、これは著者のの友人で歌人の尾崎左永子のアドバイスで書いたものらしいです。

尾崎左永子、奈々村久生のモデル。この小説の出版パーティーの時に、ご芳名帳に自分の名前じゃなくて「奈々村久生」と堂々と署名したと言うエピソードが残っています。

2ちゃんねる、中井英夫スレで久生について「物おじしないで男性グループに混じっていて平気な感じ、なんか腐女子みたい」と評されていて「案外とらえてる」と思った。ここでは最近の広義の一般的「腐女子」じゃないかも。文学少女が成長したような女性。昔で言うと、栗本薫さんみたいな、知的でパワフルな女性というか。

彼女に関して思い出深いのが、この小説を読み終わった三島由紀夫が好きな登場人物として彼女を挙げたこと。

三島由紀夫からみて、イキイキしてずうずうしいくらいの女性である久生が好きって面白いなと思ったんです。とても三島が描くようなタイプのキャラクターじゃないから。

案外、男性作家のミューズって、美しくて儚い女性とは限らず、ガンガン押してくる文学少女みたいなのだったりしてと思いました。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集