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ギレルモ・デル・トロ「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)123分

 タイトルに「ウォーター」とあるのだから、オープニングタイトルの水中のシーンに驚きはなかった。水中に沈むテーブルとその周辺を漂うイス。水中で生活していた痕跡だろうか。そしてよくある「これは◯◯の物語である」というナレーション。おとぎ話風の演出だが、これも聞いておかなければならない。

 この映画はネタバレを避けるのが難しい(だからストーリーには触れません)。映像のことを言えば、「哀れなるものたち」(2023、こっちの方が新しいけど)を思わせる少しセピアがかった色合いと広角・魚眼レンズの併用による少し現実離れした世界を感じさせ、美しい。中でも主人公女性の「ひとり」の映像は、孤独と異質を際立たせている。バスの中でも、他の乗客の姿はあっても、座席にひとり座り窓に映る本人の加工映像も「ひとり」。この主人公の孤独と異質の表現こそ、この映画の最大の見どころではないか。

 そして美術セットのクラシックさ(1960年代ってあんなに古いのか!)。特にクラシックなアパートに住む主人公と、米国風の家に住む副主人公の対比も面白い。どちらもどこか懐かしくて色合いもビビッドなのだが、まったく印象が異なる。住む世界と志向と嗜好と思考の違いが、美術セットで表現される。

 主人公の住む古いアパートの廊下でたびたび使われる、一点透視図法を使ったドリー映像が効果的だ。廊下の手前から、主人公の家の前までのこの短いストロークで、「不安」「怒り」「懇願」「恐怖」が見事に表現されている。ストーリーと映像の見事な融合といえよう。視覚がどれほど主観によって左右されるのか、映像の教科書のような描き方である。

 登場人物は少ない。どの役者も達者だが、見知った顔はいない(私が無知だからだが)。そして主人公以外の人物描写もさほど深くはない。それも主人公の孤独と異質を印象づけているのだろう。映像にこれだけ固執すれば予算的にも?なんて勝手に邪推してしまった。フォックスだからそんなに安くはないか。

 公開当初に見ていた友人は、この作品を「暗いよー」と言っていた。映像的には暗いとも感じられるが、つまりは大人のおとぎ話である。
 ただエンディングで、脳裏にオープニングの映像がふわっと浮かんできた瞬間、「お見事!」とうなるほかなかった。

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