ヴィム・ヴェンダース「パリ、テキサス」(1984)147分
冒頭の、テキサスと思しき荒涼とした山と砂漠の空撮から圧倒される。ライ・クーダーの乾いたギターが、荒涼感をさらに増す。そのエコーの効いたギターが鳴らない時、今度は逆にその静寂がまた荒涼を感じさせる。21世紀の今見返すと、この映画は「ホワイトプア」に着目した先駆的作品だったのだと気づかざるを得ない。
ナスターシャ・キンスキーが美しく描かれた映画のはずだが、肝心のキンスキーはなかなか出てこない。冴えないテキサスを放浪する男と、ロスで事業に成功した弟夫婦、そしてその弟夫婦が面倒を見る甥っこの少年(テキサス男の息子)のシーンが延々とつづく。
まもなく8歳になる金髪の少年は、「クレイマーvsクレイマー」の少年を彷彿させるませた賢い男の子だ。一人遊びが得意なところも共通している。両親がいなくなってから、叔父夫婦を「パパ」「ママ」と呼んできた少年だが、その美しい金髪は、明らかにジェイン(キンスキー)の遺伝子を体現している。4年前にテキサス男が失踪して以来、叔父夫婦に育てられた少年が、突然現れた実父との関係性を取り戻してゆく映像は素晴らしい。
小学校まで迎えにきたテキサス男は広い2車線道路の左側の歩道を、一方の少年は右側の歩道を、2人は交わらず並行して家に向かう。しかし家が近づいてきた時、ついにテキサス男は道を渡って少年の側に合流する。この映画の最も美しいシーンの一つである。
そして少年の母ジェインを探す旅に出るテキサス男と少年。ついにジェインの働く場所を突き止めるが、そこでテキサス男を牽制する店の男を演じているのがジョン・ルーリー。ジム・ジャームッシュの「パーマネント・バケーション」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」に主演した曲者である。そのジョン・ルーリーの傍で振り向くキンスキーの圧倒的な美しさ。ヴェンダースは、ルーリーを太刀持ちにして、横綱の登場を見事に描く。そう、この映画はこのシーンのためにあると言っても過言ではない。
ジェインを追うテキサス男と少年は、2人とも赤シャツを着ている。一方で、ついにジェインと少年が再会するシーンは、2人の金髪と緑の服がシンクロして一つになる、実に美しい。映像も音楽も色彩も、完璧にコーディネート(計算)されたすごい作品である。