連載小説「メイドちゃん9さい!おとこのこ!」10「誘拐」ゆうやけ!
前後編式小説後編。
伝統と文化の街、倫敦。
この物語は、倫敦のちいさなお屋敷を舞台にお届けする。
9歳のちいさなメイドちゃんと、お年を召した奥様の、1日かぎりの非日常です。
あわれ囚われメイドちゃん。
かどわかされて、繋がれて。
両手を縛る、ガムテープ。
暗き1室、扉の向こう。
悪漢どもの宴会です。
齢はたったの9つの。
恐怖に怯える少年の。
幼い運命はやいかに。
「楽しんだら帰してやるか?」
「さあなあ……。ビビって声も出やしねえし」
「にしてもあのババア、何がグラウンド・ゼロだよ」
「笑わせるぜ。パパが大砲担いできて、ママが逮捕状持ってくるのか」
どっちも、どっちも違いますけれど。
怖くて、怖くて、涙をこぼし。
小さく、小さく、願います。
「奥様……、お迎えに来てよお……」
願った瞬間、ドカンと一発。
大きな音。
ついで、ドカドカ大きな足音。
「両手を頭の上で組んで床に伏せろ!」
男の人の大声がします。
「なんだてめえら!」
そして、そして、聞こえます。
コツ、コツ、コツ、コツ。
聞こえます。
「聞いて驚けえ。今、ドアを吹っ飛ばしたのが英国特殊部隊。外を封鎖してるのがスコットランドヤード。MI6のおかげで報道もされない。逮捕もされないから安心しな。なんせ、俺たち英国中のマフィアが勢揃いだ。逮捕なんかしちゃあもらえねえ。てめえら運が悪かったな」
落ち着いた足音が聞こえます。
「この国にゃあ、絶対怒らせちゃいけねえ女が3人いてな。1人はサッチャー、1人はエリザベス2世、最後の1人がこのお方」
光!
扉を開けて立ちたるは。
若草色のワンピース。
白く変わりし赤毛を流し。
細い体の足にはヒール。
ヴィクトリア朝を、想わす気品。
「ローザ・テーラー。この婆さんに世話にならなきゃ、英国でチャカを触れねえ」
凛と毅然と立たれています。
「奥様ーっ」
待って焦がれた奥様です。
「ユーリ!」
抱きしめられる、メイドちゃん。
ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう。
奥様のドレスに埋もれます。
もう奥様しか見えません。
「怖かったわね。帰りましょうね」
「奥様、奥様、奥様あああ」
わあわあと泣くメイドちゃん。抱きしめる腕は暖かく。
解放された小さな手。一所懸命しがみつき。
いつもはぎゅうっとしてもらえたら、香水の香りがするのですけど。
「あらっ、あんたおしっこしちゃったの!」
珍しいです。奥様の、常にはあらぬ言葉遣いです。
「大丈夫よ。帰りましょうね。シャワーで洗ってあげますからね」
奥様と帰れる!
メイドちゃんは嬉しくてたまりません。
嬉しくてたまらないのですけれど。
一緒にシャワーを浴びるのは、恥ずかしいな、と思ったメイドちゃんでした。
next おひさま!
2021/06/28
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表紙は花兎*様(Twitter:@hanausagitohosi pixivID:3198439)より。ありがとうございました。
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