雨の日は大学に行かなかった。一日中家から出ず、ゲームをしたり、漫画を読んだり、やけに長い映画を観て過ごしていた。物の少ない部屋の中に時間だけが無限にあった。終いには映画を内容ではなく、上映時間の長さで選んでいた。母から、やたらとパスタと缶詰が送られてくるので、買い物に行く必要もない。母の気遣いとは裏腹に、息子はますます不健康になっていく。画面が暗転するタイミングでモニターに映る自分の姿を見ないように目線を外す。窓の外、マス目状のレトロな学生街はいつもより少しだけ静かだった。
🐟おしらせ🐟 第3回北海道デジタル絵本コンテストにて、最優秀賞をいただきました! タイトルは「うみはなにいろ?」 山と海をつなぐサケが主人公です たくさん生き物が登場する楽しいお話なので、ぜひご覧いただけると嬉しいです🦭 ↓こちらのHPで全ページ公開されています hoppa.or.jp/ehon3#awarding
ポケモンSVのダブルバトルのランクマッチ、WCS影響で盛り上がったような気がします。シーズン9はなんと過去最高の最終60位、最終レート2005でした。初めてのレート2000越え。全てのバウッツェルファンのため、再度記事を書きます。 『構築経緯』レギュレーションDで色々なポケモンを使ってみたのですが、最終的には愛犬のバウッツェルと一緒に戦いたくて、シーズン7でも使っていたコータス・バウッツェル・イーユイを軸としたチームで上位を目指しました。 トルネロスによるあまごい・追い風と
TNたろうでポケモンSVのランクマッチをこつこつやっていたのですが、目標だった最終二桁を達成しました。全てのバウッツェルファンのため、自分の備忘録も兼ねて、初めての構築記事を書いてみます。 『構築経緯』レギュレーションCの主役は解禁された四災+カイリュー+ハバタクカミと考えていました。 そのため、まずは四災に強い並びを考え、コータス+バウッツェルを並べ、噴煙でこんがりボディを発動しつつ、火傷を狙い、ボディプレスで圧倒する動きことを軸にしようと決めました。 晴れ下でハバタクカ
青春とは縁のない人間だった。雪が全てを覆い尽くした冬の森に独りで入り、物言わぬ樹に背を預けて一日の大半を過ごす。人と関わることで発生する、小石を飲み込むような我慢が鬱陶しく感じ始めたのは中学生になった頃だ。そんな事は男子中学生ならよくあることだと知っていたし、深刻に感じていなかった。隣の席になった子が話しかけてくれても良い返しができなくて、会話が切れてしまうことを繰り返している内に、脳が耐えられなくなった。帰り道にいくら反省して、次はこう返そうと考えていても、同じ人と同じ会
穏やかな海の呼吸が揺らす青空を、柔らかな朝の風に膨らむ帆が鮮やかな白の三角形に切り取る。遠く霞の中に眩しい緑が萌える島が見えた。真ん中には高い山があって、裾野に小さな白い建物が集まっている。ヨットに乗って旅をしていたドードーとオオウミガラスと私は久しぶりの地面に喜んだ。私たちのように飛べない生き物は、やはり、大地に足を下ろしている時が落ち着くのだ。 「身体が島に慣れるまで、しばらく砂浜に寝そべることにしよう」 理知的な言葉で飾っているが、オオウミガラスはただ寝っ転がりたい
ノートの端を噛む子供だった。ほとんどのページに歯形が付いていて、時には涎もついてしまい、よれよれになっていた。「きたないきたない」と言われても、どうにも止められなかった。 ランドセルはリュックに変わり、今度は水筒から麦茶をこぼして、ノートをよれよれにした。やがて、麦茶はコーヒーになり、年齢とともに深みを増した皺と滲みを作るようになった。 頑張って働いた分、少し奮発して買ったペンはまだ少しひんやりとしていて、思わず姿勢を正した。馴染みのノートを開く。その時、私の指先は少年
「ケーキ買ってくるから」という言葉がだんだん特別じゃなくなってきた朝。ちょっとしたことで私が怒ると、彼はいつもそう言って逃げるように仕事に向かう。 ケーキを買えばいいってことじゃなくない?、と問い詰めてしまえばもう終わりなので、ぐっと堪える。いつもいつもケーキ。ケーキを2つ買ってきて、好きな方を私が食べている姿を見て、許されたつもりなのだろうか。 ムカムカしながら湯を沸かす。お気に入りの茶葉を茶漉しに入れて、湯を注ぐ。紅茶と一緒に怒りが湯に溶けていく。 心をうまく
故郷に帰り、再び海に対峙した。かんかん照りの青空の下、厳しく鍛えられた肉体が弾けた。海を渡り、都会に出て何者かになろうとした彼は、顔を隠した者たちが強かに生きる姿を呆然と眺めることしかできなかった。彼らの心の強さ(あるいは鈍さ)を彼は持っていなかった。 道着に身を包み、白砂に根を張って拳を突く。彼が海と対話する唯一の方法だった。波が引くのに合わせて海を突く。潮騒と両腕が風を切る音だけが彼の耳に届く。 長い対峙の中で不意に訪れる一瞬の静寂。身を翻し、見えない敵に蹴りを放つ
「箱は?」 先輩はチャイを顔の前に持ったまま、私に訊いた。カップの中で揺れる液面が紅茶色の髪に似合っている。 「すぐそこの」 私が指さした小劇場の方向に、先輩の大きな眼が動いてから、小さく「あー」と独りごちた。 「幕も、壁も、床も全部黒で、雰囲気が合ってるかなって」 「よく押さえれたね」 「久々なんで、無理言ってお願いして」 結局口をつけないままカップは置かれ、芝居ががった動きで天井を見た。釣られて見上げると、吊るされたライトが視界を焼いた。 「良い箱だし、頑張ってね」
分かれ道を前にして、できるだけ行き止まりの宝箱が置いてある方を選びたいのは、ゲームの中だけだろうか。現実の行き止まりに着いてしまった時、私は何を思ってきたのだろうか。そこにあるはずの宝箱を見逃してしまっては、いなかっただろうか。 「人生やり込まなくてもさ」 勇者になっても愚痴を溢す私に、その戦いを見ていた彼は言った。四苦八苦している私の顔も見ずに。横顔に表情はついていないけれど、少し馬鹿にした声色で。 「装備が弱くて死んじゃうかもでしょ」 むっとして言った。
あの頃の僕は、近所の山の頂上まで走って登り切ることに情熱を燃やすような、香ばしく日に焼けた少年だった。 頂上から僕の住む街を一望できるこの山は、全体が自然公園になっていて、舗装された広くて平坦な道と、濃い粘土の匂いのする狭い道とが交互に続く。土の上を走るには強く蹴る必要があって、頭を使う。脇には藪が広がり、奥にはよく蛇がいて、こちらを見ていた。 さらに狭い道を進む。絡み合う植物がちぎれ、名前を知らない虫が四方に飛び去った。陽射しが過去の視界を曖昧にしていく。道の先に誰か
てんやわんやと仕事を片付けて、とりあえず休みに入った。休み明けのことは一旦忘れ、冷蔵庫で固めていたコーヒーゼリーをスプーンで粗く崩す。クリームをホイップしている間に、バニラアイスを少し溶かして、柔らかくする。コーヒーを濃いめに淹れ、牛乳で割ってカフェオレを作る。冷やしたグラスにクラッシュしたコーヒーゼリー、カフェオレ、生クリーム、アイスの順に盛る。 スプーンに全部を載せ、一口。二口。三口目においしさが一気にやってきて、夏を感じた。空になったグラスの底に乳色の渦が巻いている
親に秘密が増えて、僕は大人になっていく。周りの波に流されて自習室に籠っていたけれど、受験の直前に志望校を変えた。「なんとなく、この学力なら都内のこの辺の大学に」という道が、無機的な街灯にぼんやりと照らされていて、両親も「そんな感じに」と応援してくれている。それが急につまらなくなった。 知っている大学の中で、一番遠くの大学に行きたくなった。自分の経験が何も通用しない、そんな場所に、自分の夢が落ちている気がした。図書館にも、ネットにも、友達との話の中にも見つからなかった景色が
空を見上げると、樹の匂いがした。近所の庭にある、名前も分からない樹から漂ってくる、大好きな匂い。目を瞑ると匂いが強くなる。瞼の裏は早春の空気より少し暖かく、星のように煌いている。近くを通る車の音。過ぎ去ったエンジンの振動に続いて、足の裏から響く鼓動。何の鼓動なのか確かめようと目を開ける。いつもと変わらない夕焼け色のスニーカーだった。 十年前に義務教育化した大学に通いながら、職業適性試験を兼ねたアルバイトを続ける日々に、正直嫌気が差していた。学校という集団から離れ、孤独にな