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一日一頁:斉藤幸平『NHK 100分de名著 ヘーゲル 精神現象学』NHK出版、2023年。

一気に読み始めた。

他者とともに自分らしく生きる鍵は弁証法と相互承認に存在する。

時間がなくても1日1頁でも読みないことには進まない。

 意見の対立を前にして、「一人ひとりが自由ならバラバラになってもいいじゃないか」「オレはオレの好きなように生きていくぜ」という人もいるかもしれません。しかし、これもいうほど簡単なことではありません。
 そもそも、人間が一人で生きていくことは不可能です。物理的に難しいだけでなく、人とのつながりを断てば、社会や他者に認められるころもないし、自分の能力をそもそも開花させることもできないでしょう。コロナ禍で隔離生活を経験した私たちは、自分がいかに他者と関わりながら生きていたかを思い知ったはずです。
 ここには、近代社会の自由がもたらす難題があります。つまり、人間は一人では生きていけず他者の存在が必要な一方で、自由な諸個人は他者と完全に理解しあうことができず対立や衝突を不可避に生む、というジレンマです。
 要するに、近代社会に、もはや完全な調和は見込めません。だから、ヘーゲルは、『精神現象学』において、古代ギリシャというかつての理想像を捨て去ります。調和なき社会における対立と自由ーーヘーゲルが『精神現象学』で考えようとしたこの問題は、現代を生きる私たちにとっても重要な課題であることがわかっていただけたでしょうか。

斉藤幸平『NHK 100分de名著 ヘーゲル 精神現象学』NHK出版、2023年、19ー20頁。


氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。