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一日一頁:香山リカ『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』ちくまプリマー新書、2017年。

聞くまでもないことをあたかも価値自由を装い論破ゲームに明け暮れた崖に残された荒野を見よ。

人間が人間らしく生きていくためには、「おまえ、間違ってるよ」って言い切る勇気が必要だ。

一時期、「どうして人を殺しちゃいけないの?」という問いがあちこちで議論されたことがありましたが、そのときも「どうして?」と理由を考え始めることじたい、いけないだろう、と思いました。作家や哲学者の中には、「どうして?」と問うのは自然なことであり、「考えることも間違っている」と制するのはよくない、と言う人もいました。しかし、「どうして人を殺してはいけないのか」という問いに真正面から向かい合うと、その答えは「「いけない』という理由は実ははっきりしなかった」となりかねません。「戦争で自分が殺されそうになったら、相手を撃ち殺すこともあるではないか」「人間は動物を殺して食べるではないか」などと突き詰めで考えていくと、「そうだよね、絶対殺しちゃダメなのだ、と証明することはできないんだよね」となってしまうからです。
 では、論理的に証明することができなければ、人を殺してもいいのでしょうか。それは違います。私たちは人間として、なるべくお互いに言頼し合い、心を落ち着けて暮らしていくためにも、「人は人を殺さない」というのを基本ルールとする必要があります。
 そこには、厳密な論理も正確な理由もないはずです。

香山リカ『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』ちくまプリマー新書、2017年、164-165頁。

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氏家 法雄 ujike.norio
氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。