転倒のリスクを評価!BBSについて解説
こんにちは、リハビリナレッジです。
今回は転倒のリスクを評価!BBSについて解説していきます。
転倒のリスクを評価するための一つの重要なツールとして、Berg Balance Scale(BBS)があります。BBSは、特に高齢者や神経障害を持つ患者において、バランス能力を評価し、転倒のリスクを予測するために広く使用されています。この評価は臨床現場で標準的に用いられており、その結果はリハビリテーションや介護計画の立案に役立つツールであると思っています。
BBSとは
BBSは、1992年にKatherine Bergらによって開発された評価法で、バランス能力を総合的に評価するための14項目からなるテストです。このテストは、座位や立位でのバランス能力を測定するだけでなく、静的および動的な状況下でのバランスも評価します。それぞれの項目は0点から4点のスケールで評価され、総合得点は0点から56点の範囲になります。高得点ほどバランス能力が高いことを示し、逆に低得点ほど転倒のリスクが高いことを示唆します。所要時間は約20分。対象は高齢者、脳梗塞の患者です。
BBSの評価項目
BBSには、日常生活で頻繁に行われる動作が含まれており、これらを基にバランス能力を評価します。以下に、BBSの主な評価項目を紹介します。
必要な道具
椅子(背もたれあり・なし)
ストップウォッチ
定規またはメジャー
15cmの段差
座位から立ち上がり(Sit to Stand)
目的: 患者が座位から立ち上がる能力を評価することで、筋力とバランスの評価を行います。
評価方法: 患者が手を使わずに、また介助を必要とせずに椅子から立ち上がれるかどうかを観察します。
スコアリング:
0点: 立ち上がれない
1点: 座り直して再試行が必要
2点: 手の介助が必要
3点: 立ち上がりに苦労するが、手の助けなしに立ち上がれる
4点: 自力でスムーズに立ち上がれる
立位から座位への移行(Stand to Sit)
目的: 患者が安全に立位から座位に移行できるかを評価します。転倒リスクを考慮するため、座位に戻る際の制御を確認します。
評価方法: 患者が制御されたスピードで安全に椅子に座れるかどうかを観察します。
スコアリング:
0点: 介助がなければ座れない
1点: 座る際に手の介助が必要
2点: ゆっくりと制御しながら座るのが難しい
3点: 軽度の不安定さがあるが座れる
4点: スムーズかつ安全に座れる
座位でのバランス(Sitting Unsupported)
目的: 患者が背もたれのない椅子で自立して座れる能力を評価します。これは、コア筋力と体幹バランスを測る指標です。
評価方法: 背もたれなしで、安定して2分間座り続けられるかを確認します。
スコアリング:
0点: 背もたれなしでは座れない
1点: 介助が必要
2点: 短時間のみ座位保持可能
3点: 若干不安定だが、ほぼ座位保持可能
4点: 2分間安定して座り続けられる
立位でのバランス(Standing Unsupported)
目的: 患者が介助なしで静止した立位を維持できるかを評価します。これは、静的バランスを測定する重要な指標です。
評価方法: 介助なしで2分間立ち続けられるかを観察します。
スコアリング:
0点: 立位保持ができない
1点: 10秒以上立てない
2点: 30秒未満しか立てない
3点: 30秒以上立てるが、バランスを崩す可能性がある
4点: 2分間安定して立ち続けられる
目を閉じた立位(Standing Unsupported with Eyes Closed)
目的: 視覚情報を取り除いた状態でのバランス能力を評価します。視覚依存度が高い場合、目を閉じることでバランスが崩れやすくなります。
評価方法: 目を閉じて、介助なしで10秒間バランスを保てるかを確認します。
スコアリング:
0点: 立てない
1点: 目を閉じた状態で立つことができない
2点: 目を閉じて3秒未満しか立てない
3点: 目を閉じて10秒未満しか立てない
4点: 目を閉じて10秒間安定して立てる
足を閉じた立位(Standing Unsupported with Feet Together)
目的: 足を閉じた状態での静的バランスを評価します。狭い基底面でのバランス保持能力を測ります。
評価方法: 足を揃えた状態で安定して立てるかを観察します。
スコアリング:
0点: 立位保持ができない
1点: 足を揃えて立つことができない
2点: 10秒未満しか立てない
3点: 足を揃えて立てるが、非常に不安定
4点: 足を揃えた状態で1分間安定して立てる
前方への手を伸ばす(Reaching Forward with Outstretched Arm While Standing)
目的: 重心を前方に移動させた際のバランス能力を評価します。この動作は、日常生活で物を取るなどの動作に関連します。
評価方法: 患者が腕を前方に伸ばし、どれだけ前方に到達できるか、その際のバランスを観察します。
スコアリング:
0点: 前方への手を伸ばす際にバランスを崩す
1点: 前方への手を伸ばすことが困難
2点: 前方へ手を伸ばせるが、バランスが不安定
3点: 前方へ安全に手を伸ばせるが、軽度の不安定さあり
4点: 安全かつ安定して前方へ手を伸ばせる
物を拾う(Pick Up Object from the Floor from a Standing Position)
目的: 床に置かれた物を拾い上げる際のバランスを評価します。腰を曲げたり、前屈する動作でのバランス能力を確認します。
評価方法: 床に置かれた小さな物を拾うよう指示し、その際のバランスを観察します。
スコアリング:
0点: 物を拾う際にバランスを崩す
1点: 物を拾うのが困難でバランスを失う
2点: 物を拾えるが、バランスが非常に不安定
3点: 物を拾えるが、軽度のバランス崩しあり
4点: 安全かつ安定して物を拾える
段差を昇降(Standing on One Leg on Step or Stool While Standing Unsupported)
目的: 足を段差に置いての片足立ちバランス能力を評価します。段差を使うことで、上下動の中でのバランスを測ります。
評価方法: 片足を15cmの段差に置いて、もう一方の足を持ち上げて立つ際のバランスを観察します。
スコアリング:
0点: 段差に足を乗せて立てない
1点: 段差に足を乗せる際にバランスを崩す
2点: 段差に足を乗せ続きます:
3点: 段差に足を乗せた後に不安定さが見られるが、立ち続けられ
4点: 安定して段差に足を乗せた状態で10秒間立ち続けられる
足を一歩前に出して立つ(Standing with One Foot in Front of the Other)
目的: タンデム立位と呼ばれる足を一列に並べた状態でのバランス能力を評価します。このポジションは狭い基底面でのバランスを測るのに有効です。
評価方法: 患者に片足を他方の足の前に置いて立つよう指示し、その際のバランスを観察します。
スコアリング:
0点: 立位保持ができない
1点: 足を前に出すことが難しく、立てない
2点: 短時間のみ立位を保持可能
3点: 軽度の不安定さが見られるが立位を保持可能
4点: 安定して足を前に出して立位を保持可能
片足立ち(Standing on One Leg)
目的: 片足でのバランス能力を評価し、体幹と脚部の安定性を測ります。この動作は、片足での歩行や階段の昇降に関連します。
評価方法: 患者に片足で立つよう指示し、その際のバランスを観察します。
スコアリング:
0点: 片足で立てない
1点: 片足で立つことが難しい
2点: 短時間のみ片足で立つことができる
3点: 軽度の不安定さが見られるが、片足で立つことができる
4点: 安定して10秒間片足で立つことができる
BBSのスコアリングと解釈
BBSは14の動作課題それぞれで0~4点のスコアを付け、合計点数で患者のバランス能力を評価します。合計スコアは最大で56点です。
41~56点: バランスが良好で、転倒リスクが低い
21~40点: 転倒リスクが中程度
0~20点: 転倒リスクが高い
0点 - 不能(Unsuccessful)
0点は、患者がその動作を全く行えない場合に与えられます。動作を開始することができない、あるいは安全に実施できない場合、例えば立ち上がろうとしてもバランスを崩してしまう場合などが該当します。
1点 - 大部分を介助(Needs Maximal Assistance)
1点は、患者が動作を行うためにかなりの助けが必要である場合に与えられます。患者は動作を試みるものの、大部分の介助がなければ実行できない場合に評価されます。例えば、立ち上がる際に他者のほぼ全ての支えが必要な場合です。
2点 - 最小限の介助または監視が必要(Needs Minimal Assistance or Supervision)
2点は、患者が最小限の介助や監視で動作を行える場合に与えられます。動作は比較的自立して行えるものの、少しの補助や監視が必要とされる状況です。例えば、立ち上がる際に少し支えてもらう必要がある場合や、監視下でなら安定して動作を行える場合です。
3点 - 自立して行えるが制限あり(Independent but Limited Performance)
3点は、患者が動作を自立して行えるが、ある程度の制限がある場合に与えられます。患者は動作を安全に行えるものの、動作の範囲や速度、安定性に制限がある場合です。例えば、立ち上がることはできるが、バランスを維持するためにゆっくりと行う必要がある場合です。
4点 - 正常に自立して行える(Independent and Normal Performance)
4点は、患者が動作を正常に、かつ自立して行える場合に与えられます。患者は全くの自立で、制限なく動作を実行でき、バランスも良好であると評価されます。例えば、素早くかつ安全に立ち上がることができる場合です。
具体例
例えば、「座位から立位への移行」の項目では、
0点: 患者は全く立ち上がることができない。
1点: 立ち上がるために最大限の助けが必要。
2点: 少しの助けがあれば立ち上がれるが、監視が必要。
3点: 自立して立ち上がれるが、速度や安定性に制限がある。
4点: 完全に自立して、正常な速度と安定性で立ち上がれる。
カットオフ値
56点は機能的なバランスを示す。45点未満は、転倒の危険性が高いことを示します。
)Berg KO, Wood-Dauphinee SL, Williams JI, Maki B. Measuring balance in the elderly: validation of an instrument. Canadian journal of public health= Revue canadienne de sante publique. 1992 Jul 1;83:S7-11.
BBSの臨床的意義
BBSの得点は、転倒リスクの予測に直接結びつきます。研究によると、BBSのスコアが45点以下の場合、転倒リスクが高いとされています。特にスコアが40点を下回ると、転倒リスクが急激に増加することが確認されています。これにより、BBSは高齢者や神経障害患者の転倒予防において重要なツールとして機能します。
また、BBSは治療の進捗を評価するためにも使用されます。リハビリテーションを受ける患者のバランス能力が時間とともに改善しているかどうかを確認するために、定期的にBBSを実施することが一般的です。このように、BBSは評価と治療の両方に役立つ多機能なツールです。
BBSの利点と限界
BBSの最大の利点は、その包括的な評価能力です。BBSは多様な日常生活動作を網羅しており、バランス能力を総合的に評価することができます。また、特別な機器を必要とせず、簡単に実施できる点も評価されています。そのため、多くの医療施設やリハビリテーション施設で標準的に使用されています。
しかし、BBSにはいくつかの限界も存在します。例えば、BBSはバランス能力を静的および動的に評価するものの、全てのリスク因子を網羅しているわけではありません。特に、認知機能の低下や感覚障害など、転倒リスクに影響を与える他の要素を直接評価することはできません。また、BBSのスコアが高い場合でも、個々の患者の転倒リスクを完全に排除することはできません。
さらに、BBSはある程度の時間がかかる評価であり、高齢者や重度の障害を持つ患者にとっては実施が困難な場合があります。このような場合には、他の評価ツールとの併用が推奨されることがあります。
BBS(Berg Balance Scale)の特徴と注意点
特徴
包括的な評価項目: BBSは14項目のテストで構成されており、静的および動的なバランスを幅広く評価できます。これにより、日常生活でのバランス能力を総合的に把握できます。
簡便で特別な機器が不要: BBSの実施には特別な機器が必要なく、手軽に行えるため、多くのリハビリテーション施設や医療現場で標準的に使用されています。
得点の信頼性: BBSの得点は、転倒リスクの予測において非常に信頼性が高いです。特に、45点以下のスコアは高い転倒リスクを示唆します。
治療効果の評価に役立つ: リハビリテーションプログラムの進捗を評価するために、定期的にBBSを使用することで、治療効果を定量的に確認できます。
注意点
認知機能や感覚障害の評価が不足: BBSは主にバランス能力を評価するツールであり、認知機能の低下や感覚障害などの他の転倒リスク因子を直接評価することはできません。したがって、これらの要素を考慮するためには、他の評価ツールとの併用が必要です。
スコアが高くても転倒リスクがゼロではない: BBSのスコアが高い場合でも、患者が転倒しないことを保証するわけではありません。個々の患者のリスクプロファイルに基づいた継続的な評価とモニタリングが重要です。
一部の患者にとって難易度が高い: 高齢者や重度の運動機能障害を持つ患者にとっては、BBSの一部の項目が実施困難である場合があります。このような場合には、簡便なバランステストとの併用や、代替手法の使用が推奨されます。
評価者の訓練が必要: BBSの正確な評価には、評価者が適切にトレーニングを受けていることが重要です。評価者間のばらつきを減らすため、統一された基準に基づいて評価が行われる必要があります。評価を行う際には、評価者の主観がスコアに影響を与えないように、明確な基準を持って評価することが重要です。また、患者がどのような環境下で評価を受けているか(例:自宅、病院、リハビリセンター)を考慮に入れることも必要です。これにより、スコアの信頼性が高まり、適切な介入計画を立てることが可能になります。このように、BBSのスコアリングシステムは、患者のバランス能力を詳細に評価するための効果的な方法であり、リハビリテーションや介護計画の立案において非常に重要な役割を果たします。
まとめ
Berg Balance Scale(BBS)は、高齢者や神経障害患者のバランス能力を評価し、転倒リスクを予測するために非常に有用なツールです。14の評価項目を通じて、日常生活でのバランス能力を総合的に把握することができます。BBSの結果は、リハビリテーション計画の立案や治療の進捗確認において重要な役割を果たします。
しかし、BBSだけでは評価できないリスク因子も存在するため、必要に応じて他の評価法との併用が推奨されます。臨床現場においては、BBSを効果的に活用することで、患者の転倒リスクを減少させ、より安全な生活をサポートすることが可能です。
BBSは、臨床現場で広く使用されるバランス評価ツールであり、その簡便さと包括的な評価能力から多くの利点があります。しかし、BBSだけでは評価しきれない要素もあり、適切な患者選定や他のツールとの併用が重要です。正確な評価を行うためには、評価者の適切な訓練も必要です。
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