ご存じですか?就職先としての学振
独立行政法人日本学術振興会
安東正隆
今のご職業に就くと決めた時期は?
大学入学前から研究者志望で博士課程進学を決めたため、研究職以外への就職は全く考えていませんでした。ところがD2の時に家庭の事情が急変し、在学中は学振(特別研究員DC)をもらっていたのでよいとしても、その後に不安定なポスドク等を何年も続ける(しかも何年続くかわからない)ことが経済的に厳しくなったことから、D2の年末くらいに急遽いわゆる一般就職を考えるようになりました。
今のご職業に就くためにどう動きましたか?就職に成功した秘訣は?
上記の通り急な方向転換をせざるを得なくなったこともあり、全く白紙で就活をすることになりました。何をやりたいか頭の中を整理してみて、やはり何らかの形で研究に携わりたいと考えたため、まず考えたのは公的な立場で研究支援ができる職業でした。
といっても思いついたのは当時でいう国家公務員I種試験くらいでしたが、これはさすがに半年弱の準備期間で合格するほど甘いものとは思えず、これから学位論文を書くことなどを考えても現実的ではなかったのでそれ以外の研究支援職がないか探すことにしました。
そこではじめて自分が日頃お世話になっていた日本学術振興会を就職先として意識し、ウェブサイトを(はじめてまともに)見たところ、ちょうどその時期に採用情報が出ており、具体的な仕事のイメージなどは全くつかめなかったのですが、自分がもらっているようなありがたいフェローシップを出している組織なのだからきっと研究をきちんと支援しているに違いないという直感で即座に受験を決めました。
ただ試験対策等についてはどこを見ても情報がなく、検索してほんのちょっとだけ出ていた口コミを元に地方公務員用の問題集を一つ買ってやったのと、いわゆるSPIの問題集を一冊やっただけで本番に臨み、幸い筆記試験をパスできました。
面接では「自分が学振をもらっています、他の併願先としては特別研究員(PD)を一応出しました」と言ったら面接官サイドが急にざわざわし始めたのを覚えています(多分そんな人が受けに来ると思っていなかったのでしょう)。
質問されたこととして唯一覚えているのは、若手研究者を取り巻く現状をどう考えるか、というものでしたが、結局はパーマネントの研究職を適切な数に増やさなければいろいろな問題は解決しない、と答えました。このあたりがどう影響したかはわかりませんが、無事内定をもらって今に至ります。
ちなみに他の研究系法人も一つ受けましたが、採用説明会に出てみると研究のとらえ方や考え方が完全にミッションオリエントで研究というよりは開発に近いものをイメージしているらしく、基礎研究も応用研究のための要素開発といったニュアンスで捉えていて、自分のそれと全く合わなかった上、最終面接でとある理事の言動を見ていてそれを一層強く感じたことから、内定はもらいましたが辞退しました。
博士修了者とは言え一応新卒なので、就職サイトに登録して普通の就活生と同じように民間企業を受けることもやろうとはしましたが、条件などを見ると日本企業はどこも博士修了者には興味がないのがみてとれ(ちなみに外資系投資会社などはピンポイントで博士終了者採用を行っているところもあるなど、日本企業とは随分温度差があります)、であればやはり自分の興味がある方向性で考えたいと思って、結局民間企業は受けませんでした。
今にして思えば綱渡りでしたが、長い目で見れば少しでも自分がやりたいことに近い仕事ができた方がやりがいや充実感といったものも得られやすいと思いますので、私に関しては結局これでよかったのかなと思っています。
他の進路と比べて迷ったりしましたか?
就職活動を通じて、学振以外に研究(者)支援そのものずばりをやっている組織が見当たらなかった(同じ研究支援でも、学振以外では「研究によって得られるはずの成果」に重点を置くことがほとんどです)ので、特にほかと比べて迷うことはなかったです。今見渡してみてもその状況は全く変わっておらず、むしろ近年中央省庁の雰囲気が変わってきて、研究者の方を向けるのは本当に日本中探しても学振くらいしかなくなっているのではないか、と感じることも増えました。
今のご職業を含め生活の満足度、やりがい、夢をお聞かせください
既に採用されて10年以上勤務しており、この間科研費をはじめとしてさまざまな事業に携わってきましたが、この職場を選んでよかったと思うことは多々あります。
学振の持つ事業を担当した場合、一番のやりがいは研究者の顔が見える環境で仕事が出来て、その善し悪しが大小はあれほぼ例外なく研究現場に直接跳ね返ることです。それだけ責任も重いですが、時々自分の関わった案件で応募者や審査員の研究者から「○○がこう変わってよかった」というような話が伝え聞こえてくると素直に嬉しいです。
一方、その逆のことをしなければならないことも多く、そうした場合は如何に現場の被害を最小限にとどめるかといった工夫や説明が重要です。どちらかというとそういう仕事の方が多いですが、これは表には出て行かないため、これまた「なんで○○は○○なんだ」といったご批判が聞こえてくると、密かに「実はこれでもだいぶマシになったのよね・・・」と思ったりします。
また、事業の種類も様々で、研究者だけではなく様々な業種業界の方と仕事をすることができるのも面白いですし、私の場合は英国への研修・赴任を合わせて3年ほどさせてもらう機会があり、特に赴任時はCOVID-19のパンデミックの発生・拡大期のオフィスマネジメントをやったこともあって、いつも日本でやっている仕事とは全く違う文脈で大変貴重な経験ができました。
JSPS London Newsletterより:
「コロナ下のJSPSロンドン(前編)(後編)」
ということで振り返ると大変なことも多かったですが、これまでのところ満足のいく職業生活が送れていると思います。私の場合は博士課程を経験して採用されたということもあって、日頃からそういう経験のある人が研究の世界の外側で何をすべきか自問していますが、少なくともこの職場はそれがあるとないとでは仕事の質が大きく変わることがあります。
最近学振で博士課程修了者向け採用を行っているのもそうした事情からですが、まだ始めたばかりということもあって組織の内部がそれを前提に回るまでには至っておらず、外部の有識者に頼る構造は変わっていません。
研究のように高度に専門化された世界ではプレイヤーだけでなくその周辺もプロ化しなければ効果的なマネジメントは行えませんが、今がそういう過渡期だと思ってできることはやりたいという思いはあり、夢というほどのものではありませんが、この組織やその周辺にそういう意識が根付き、少しずつでもよい方向に向かえばいいなと考えています。
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