世界一幸せになれる席
車両で適当な場所を探して立つ。
土曜日だから流石に席が結構埋まってる。探せばどこか空いてるだろうけど、強いて座ることもない。
女の子を席に座らせて、その前に立っていたお母さんがいた。女の子はお母さんと手を繋ぎながら、座りづらそうにもじもじしていた。5、6歳くらいだろうか。
すると、隣のヘッドフォンをかけた男の子がパッと立ち上がって、お母さんが「いえいえ、大丈夫です」と手を振っている中、一回だけペコっとして、何も言わずに車両の向こう側へと歩いて行った。
おお、優しい。なんだか心が温まる。
お母さんは男の子の去っていた方に何回か目をくれて、それから空いた席に座った。女の子は、今度は嬉しいそうに大人しく座っている。やっぱり何をするにもお母さんと一緒がいいよね。
それからまた2、3駅くらい過ぎた頃だろうか。子どもを左手に抱えたお母さんが乗車して来て、電車内を見渡してから私の近くに立った。抱えられた子どもは3、4歳くらいだろうか。お母さんの肩に頭を預けて、寝ているような感じだった。
3、4歳くらいの子どもの重さを考えた。しかも片手。うーん、腕が大変そう。
子どもの頃の記憶を辿る前に、視界の端に、先ほどの座ったお母さんが手でちょいちょいとやっているのが見えた。女の子を自分のひざに乗せて、自分が座った席を空けたのだ。
でも、私の近くに立ったお母さんは、そちらに背を向けていたので、私は座ってるお母さんの方をもう一瞥して、立ったお母さんの腕をちょんちょんと叩いて、席の方を指した。
座ったお母さんと立ったお母さんはお互いにぺこぺこして、にこにこして、先ほどまで私の近くに立ったお母さんは、私の方にも振り向いて笑顔でぺこぺこしてくれた。私は笑い返した。
そして二人は並んで座った。子どもを膝に乗せて。
もう最高に幸せな気分になって、楽しくないことなんて、悲しいことなんて何もかもどうでもよくなった。この瞬間だけは、私は世界一幸せなんだ。
2023.12.16 星期六 晴れときどき曇り