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随想:亡き詩人のことばに触れ
私が絵を描くことを応援してくれている友人が、たくさんの画集と額縁を持って県をまたぎ訪ねてきてくれた。
友人は私の十ばかり上の素敵な女性。彼女の母も私のとっちらかったアトリエをみたいと、遠路はるばる来てくれた。
画集と額縁を狭いアトリエになんとかしまい、珈琲と地元の菓子を囲みながらみんなで会話に花を咲かす。
ふと、彼女が私に数冊の黒い表紙の本を見せてくれた。
それは彼女の祖父の綴った詩を纏めた本たちだった。
身体が弱かったそうで。
いつも布団の中で紙とペンで言葉と戯れていたらしい。
黒い表紙の中で静かに並ぶ詩たち
彼の言葉たちをその場で少し読ませてもらった。
とても優しかった。
戦争の最中、持って生まれた身体から戦場へ行くことは無かったと教えてもらった。
戦時中をままならない身体で生きるのは、決して易しくない世間の目もあったと思う。
けれどとても優しかった。
まるで生きているように印刷された文字が彼の静かな強さを語ってくれた。
彼が綴った詩たちは、どれも優しさの中にあたたかな厳しさを抱いている気がした。
ままならない身体に宿る心で紡ぐ言葉は、一種の寂しさがあって
けれど諦めた人間の擦れた嫌味とかではなく
この世の物事は流れるように、成るように、ただ在るように、人間もそんな中の一粒。
と、敷かれた事実を柔らかく解き教えてくれるような、そんな寂しさ。
私は彼に会ったことも無ければ、姿を見た事も、声を聞いた事もないので、どんな人物かなんて想像すらできないけれど
私はこの、亡き詩人のことばに触れて
生きることはままならないが
こんな広い世界で、ちっぽけなちっぽけな
一人でも
流れるように、成るように、ただ在るように、懸命に生きていれば、誰かと心をほんの僅かでも寄せあい触れ合わせた時
人生はまるでユーモレスク!
なんて叫んで笑いたくなるくらいの幸せを感じれるんだと教えて貰った気がした。
亡き詩人へ
あなたのことばでわたしはすくわれたのです
あなたが綴った膨大な詩のほんのひとさじを音も無く口の中で飴玉のようにころがし読んで
わたしはすくわれたのです
わたしはあなたのことばに触れることしかできませんが
叶うなら感想を聴いてほしいとおもいました
人生の途中で幸運にもあなたのことばに触れた、とおりすがりのままならない夢追い人より