【旅日記】東京2024秋|5.エターナル・サンシャイン 〈Bunkamura ル・シネマ〉
彼女たちと
道玄坂からふたたびスクランブル交差点を通って(ほんとうに多種多様な人。しつこいですが)、移転営業中のBunkamura ル・シネマ へ。映画「エターナル・サンシャイン」を観るため。
この映画が公開された20年前のある日、わたしは出張で東京に来ていた。学生時代に暮らした東京ではあったけれど、その頃はもう地元に戻っていて、東京は数年ぶりだったと思う。滞在中にぽっかり空いた自由時間に、新宿の大きな劇場(名前は忘れてしまったけれど)で観たのが「エターナル・サンシャイン」だった。
ジム・キャリーとケイト・ウィンスレットが演じるカップルの愛の物語をわたしはえらく気に入り、特にその音楽と劇伴を好きになって、地元に帰るとすぐにサントラを買った。ELO(Electric Light Orchestra)のMr. Blue SkyやThe Polyphonic SpreeのLight&Dayに心をときめかせ、ジョン・ブライオンのスコアを聴きながら穏やかな夜を過ごした。「エターナル・サンシャイン」の音楽がそのままわたしのその年の、日常を彩るサウンドトラックになったのだ。
そして今年、公開20年記念でフィルム上映があるという。公開されるのは、わたしがすでに旅の予定を立てていた日程と重なる時期で、場所はル・シネマ。旅の目的のライブがある、東京・渋谷の劇場だった。もう、これは、観に行くしかない。
移転営業中ということで、どうやら普段とは別の場所にあるらしかった。街中の雑居ビルのエレベーターを上がり、ドアが開くと、さっきまでとはまるで違うフォーマルな雰囲気の空間が広がっていた。
ほの暗いロビー、サインのフォント、上映予定映画のラインナップ、置いてある書籍。目に入るもろもろの、すべてが好みだった。ホテルみたいに高級感のある化粧室にも心が躍った。
いくつかのフライヤーをもらい、内田百間先生の本を購入して、ホットコーヒーを片手に劇場内へ入った。紫色の椅子に深く腰をかけたとき、体の中にいるハタチ過ぎのわたしに声をかけられた気がした。「久しぶり♪」。ああ、わたしは、この子と一緒にこの映画を観るんだ。みずみずしくか細かった、あの頃のわたしと一緒に。
途中、何度も泣いた。頭は置いてけぼりにして、心で観た。観終わって、やっぱり好きな映画だった。ジム・キャリー演じるジョエルも、ケイト・ウィンスレット演じるクレメンタインも、好き。どちらの気持ちも分かる。20年経ってもわたしの根っこは変わっていない。わたしの中で、ハタチのわたしも泣いていた。
そして同時に、今のわたしは、もうあの頃のわたしではないんだとも思った。ハタチのわたしはもっと彼らの心に入り込んで、”彼らになってしまう”くらいの感受性で見たんだろう。けれど今日、涙とともにエンドロールを見送っていちばん心に残ったのは、この映画をたくさんの大人たちが、真剣に、心を込めて作ったという事実だった。そして最後にふたりが言葉を交わしたラストシーン。不器用でも、ぶつかっても、わたしたちは愛し合いたい。愛を叫び、愛を学んで、愛を与え合うことができる。
観に来られてよかったなあ、連れて来てもらえてよかったなあ、と思った。わたしはずいぶん変わったけれど、全然変わっていない。
席を立ち、化粧室へ急いだ。鏡の前で、すっかりはげてしまったお化粧を直す。目元におしろいをはたいていたら、わたしの隣でも幾人かの女性がお化粧を直していた。わたしは彼女たちとハグしたい気持ちだった。そして、彼女たちの中にいる女の子たちとも。いっぱいになった胸とともに、劇場を出た。
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