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西武ライオンズに息づく根本陸夫イズム新首脳陣と古賀輝希選手の指名から見る

2024年シーズン、西武ライオンズは49勝91敗3分け、勝率3割5分と低迷しました。

西武ライオンズはかつて、1980年代から90年代にかけて黄金時代を築いたチームです。球界の盟主といわれた読売ジャイアンツを幾度も日本シリーズで倒し、「新たな球界の盟主」と呼ばれた時期もありました。

Aクラスは当たり前。常に優勝争いに顔を出し、「常勝軍団」の名を欲しいままにしていたのです。

栄光の時代を知る西武ファンにとって、今シーズンの成績は、かつての強者の面影を完全に消し去るほどの屈辱的な数字となりました。

今シーズンの成績を受けて、西武球団は「初心に還った」と私は感じています。その理由としては2点ありますが、共通して言えることがあります。

それが「根本陸夫イズム」継承です。
言い換えるならば、球団のアイデンティティを改めて見直し、再度本腰を入れて実践していこうという姿勢が見れるということです。

根本陸夫氏については詳しい書籍も出ておりますので詳細な説明は省きますが、西武ライオンズ球団創設時から監督・GM(管理部長)として選手獲得、チーム編成に奔走し、黄金時代の礎を築いた方です。

石毛宏典、辻発彦、秋山幸二、工藤公康、伊東勤、渡辺久信など、黄金期メンバーのほぼすべての獲得に携わるだけでなく、広岡達郎・森祇晶両監督の招聘に成功したことも、すべては根本管理部長の球団強化策の一環です。

では根本イズムが新シーズンのライオンズに垣間見れる2点とはなにか

  1. 外部からのコーチ招聘

  2. 古賀輝希選手に見る独自のスカウティング

1から説明します。

西武は2024年シーズン終了後、西口文也新監督の就任を発表。
それに続き、アッと驚くようなコーチ人事の発表を行いました。

ヘッドコーチ:鳥越裕介
野手チーフ兼打撃コーチ:仁志敏久
内野守備走塁コーチ:大引啓次

「チームを劇的に変えたいときは、人を変えるのが一番だ。コーチを外部から連れてくる」(髙橋安幸.暗躍の球史より引用)

根本陸夫がかつて語っていた言葉が書籍で紹介されています。

思えば西武ライオンズ創設元年の1979年、根本監督率いるチームは見るも無残な成績からのスタートを切っていました。

45勝73敗12分。
どん底のチームを、根本はドラフトとトレードで一新にかかります。
メンバーのほとんどを3年間で入れ替えました。

自身が4年間チームの土台を築き、1982年に名将・広岡達郎氏を招聘。
西武ライオンズは圧倒的な強さで球界を牽引するチームに変貌しました。

今年、2024年
西武ライオンズは1979年の創設時に立ち返ったかのような状況です。

相次ぐ主力のFA・海外移籍で、否応なく戦力ダウンが続く現実。
期待の若手がなかなか育ち切らない現実。
松井稼頭央監督の長期政権計画は、成績不振による途中休養で頓挫。

長らく編成として尽力された渡辺久信GMが監督代行となりました。
しかしながら負の連鎖を止めるには至らず退団。

ひとつの時代が終わり、チームは一から生まれ変わらなければならない状況となったのです。

そこで根本氏の先ほどの言葉が思い起こされます。
これまでの縁や繋がりを超え、他球団から若さと実績を備えたコーチを招聘したとき、西武というチームの原点を見た気がしたのです。

西武の真骨頂は、2で挙げたスカウティングです。
根本氏はスカウティングのこだわりを西武スカウトに植え付けました。

「スカウトは群れるな。色んな視点・角度から選手を見ること」
「自分の判断と感覚を大事にして選手を見ること」

一般的にスカウトは、球場のバックネット裏に複数人で陣取り、カメラやストップウォッチ、スピードガンを片手に選手を視察します。

しかし、根本はそういったやり方を良しとはしませんでした。
そしてそれは、秋山や伊東といった最高級の素材を発掘し、ドラフト戦略で他を圧倒するチーム作りに成功した実績となって昇華したのです。

2024年ドラフトで7位に指名された古賀輝希選手こそ、西武独自のスカウティングの象徴といえるでしょう。

クラブチームの選手を、下位とはいえ支配下で指名するということは、球団がしっかり選手を分析して評価し、将来の戦力と期待していることを意味します。

担当の鈴木敬洋スカウトのコメントが物語っています。
「どうしても取りたい選手だった」

普通、下位指名の選手に対してこのような内容のコメントはなかなかしません。クラブチーム所属という知名度と注目度の低さから指名順位は低くなるものの、鈴木スカウトがしっかりと古賀選手を分析・評価していたことの証でしょう。

西武のスカウトは、しばしば野球雑誌に特集されているような選手ではない、いわゆる「アッと驚く」指名をします。

しかしスカウト本人や球団にとっては驚くことでも意表でもなんでもなく、しっかりと一人の選手として評価し、指名しているに過ぎないのです。

多くのスカウトは、ストップウォッチとスピードガンを持ちながら選手を視察します。

打席から1塁までのタイム、捕手の2塁送球タイム、投手の球速、投手のクイックタイムなどを逐一計測しながら視察するからです。

一方、西武のスカウトに視点を当てていると、そういった選手の能力値だけを見ているわけではない気がします。

もちろんストップウォッチやスピードガンの計測も行うのでしょう。
しかしどうも大事にしているポイントは、「試合を通して選手がどのような長所をもち」「ゲームで力を如何に発揮し」「将来どのように成長するか」を見定めること、のように感じられるのです。

前述の古賀選手の場合、スカウトは「広角に打てる長打力」を評価したとコメントしています。

これはつまり、「通算〇〇本塁打」「〇〇大会優勝」といった能力や実績ではなく、視察された試合を通して鈴木スカウトにそう感じさせる打撃を、古賀選手が披露していた。そしてそれをしっかりとスカウト陣が評価したのだと感じました。

もちろん、クラブチームの試合だけではまだまだ実力も未知数なのは確かですし、すぐにプロ野球で通用するほど甘くはないでしょう。

しかし持ち前の広角打法を活かし、うまく成長すれば、「同年の知名度が高いアマチュア選手よりも飛躍できる」との判断なのだと、私は推測します。

野球ゲームに例えるならば、パワーや走力・守備力のような能力値ではなく、いわゆる特殊能力を持った選手の発掘に力を入れているのが西武ライオンズという球団の伝統のような気がします。

古賀選手でいうならば、「広角打法」という特殊能力です。

前述のように、今季はコーチ陣を大きく改革しました。
豊かな才能を開花させる環境が、徐々に整っています。

指導力の熟成と、持ち前のスカウティング。
この2点を取り戻し、継続的に行っていくことこそ、西武ライオンズ再生の道ではないでしょうか。

2025年が黄金期再来の幕開けとなることを期待しています。


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