山月記の続きとエンディングテーマを考えてみる。
今年は高校2年生を担当しています。現代文では1学期に中島敦「山月記」、2学期に夏目漱石「こころ」を扱います。1年の芥川龍之介「羅生門」、3年の森鷗外「舞姫」の2つと併せて高校現代文文学教材BIG4の一つであるこの作品は、やはり読みごたえがある。読みの強度はわからない。知的で硬派な文章は生徒たちにとって読みにくさもあるが、同時に新鮮さもある。日本語の乱れとか正しい日本語使えとか言われる若者(僕も一応含む)も、何かしら感じるものがあるストーリー。教材論についてはまた後日まとめます。
本文の読解を終えて、今回は発展学習として、①続きを考える②エンディングテーマを考えるを設定しました。①は初読の感想で生徒からの要望があったから、②は連続テキストである小説の理解を深める総合的な体験を行いたいから、です。
①では2つの事を動機付けしました。1つは、中島敦の文体に併せる形で創作すること。もう1つは、一度完結した物語を解体し、自らが望む結末で終わらせること。思想表現力は僕の現代文において身につけてほしい力の1つで、様々なアプローチを試みています。今回は名文と呼ばれる文豪の表現を真似ることで文章力を鍛える、そして自分の思考を他者の思想に重ねながら独自性を加えて表す。また、続きを考える中で意識する原著との整合性は、原テクスト+自分の思想という小論文の構造に似たものとなります。
②に関しては、他のテキストとの相互効果を意識させることを目指しています。文字だけでなく、絵・音楽・映像という他の知覚要素との組み合わせで、より総合的となり実体験に近いものになることを感じてほしい。
そんなわけで現在進行中なのですが、例が必要ということもあり2つほど自分で書いてみました。
① 袁傪、丘にて李徴を思う
袁傪は丘の上で、一時の休息を望んだ。誰も反対するものはいなかった。そして、誰も口を利かなかった。その理由は、この夜に起きた怪異と、袁傪を慮る気持ちからである。
袁傪は一人丘に坐して旧友との思い出を振り返った。共に進士の第に登った頃、登用後に立場は違えど励まし合った日々。 その全てが走馬灯のように袁傪の脳裏をよぎり、李徴という、唯一無二かけがえのない友人の不幸を嘆じた。
なぜ、李徴は虎になってしまったのだろうか。 考えても考えても、袁傪には分からなかった。超自然の怪異と言ってしまえばそれまでだが、原因を求めることで少し李徴が救われるような気もした。彼の人間性は、確かに褒められたものではなかったかもしれない。しかし、外形を虎に変え、心までも侵食される病にあって苦しむべき業など少しも思い当たらなかった。なぜか。親友の為、ただその一点のみを考えた。役人として極めて優秀である袁傪であっても、この問の答えは持ち合わせてはいなかった。
いつの間にか残月は完全に消え去り、日が昇っていた。袁傪は重い腰を上げた。問に関する答えは出ない。ただ、袁傪の中には一つの思いが生まれていた。この答えのない問を考え続けることで自身の中に袁傪は生き続けるであろうと。いずれ忘れ去られるのであれば、せめて自分だけは李徴のことを覚えておこうと。 ひとときの休息を経て、袁傪一行は出発した。先ほどの茂みを振り返ってみたが、長く伸びた草がただ風に揺れているだけである。この夜の出来事について、袁傪は共に話を聞いた部下とも語ることはなかった。果たして虎が李徴であったかどうかも定かではない。
エンディングテーマ 夜の東側 サカナクション
https://www.youtube.com/watch?v=kddWJQjxKyA
ああ 伸びた髪を僕は耳にかけたら テレビの灯りだけで夜を読んでた
僕らはこれからどこへ行くのかな さりげなく君に話してみようかな
ああ 輪ゴムのように僕の心が伸びた 言えなかった言葉をするりと言えそうで
僕らはそろそろ気づいてきたかな 立ち止まった夜に話しておこうか
さよならする夜の東側 ゆっくり そう ゆっくり暮れる 隣り合わせの明日を待つだけ
赤い空 終わる月 夜間飛行の続きは夢の中
さよならする夜の東側 ゆっくり そう ゆっくり暮れる 隣り合わせの明日を待つだけ
頼りない僕は左に右に揺れる そうゆっくり揺れて 月と僕との秘密を話しておきたいんだ
② 袁傪と李項
その後、故郷へと還った袁傪は李徴との約束を守り、妻子に目を掛けてやった。李徴と名乗る虎に出会ったことは伏せた上で、友と交わした最後の言葉を忠実に遂行したのである。妻子は突然の申し出に当初は戸惑っていたが、袁傪に感謝し、不自由することなく幸せに暮らした。
月日は流れ、李徴の息子は大きく成長した。父の才気を受け継いだ子は、名を李項と言い、やはり郷党の鬼才として広く知られる存在となった。父よりも若くして官吏に登用された李項は、命の恩人である袁傪の右腕としてその手腕を存分に発揮するようになった。
ある夜、職務を終えて共に盃を交わしながら李項はふと袁傪に尋ねた。父親である李徴とはどのような人物であったのかと。 袁傪は、少し考え込み、やがて口を開いた。
「李徴は知っての通り、才能を持ちながらも詩人になるという夢に破れ、人知れず姿を消した。世では誹謗を浴びることもあるだろう。しかし、一つだけ確かなことがある。」
それはなにかと聞き返した李項に対して、袁傪は次のように述べた。
「李徴は誰よりも人間らしい人間であった。完璧な性質を持った人など、どこにもいないのだ。私など足元にも及ばない才能を持ち合わせていた李徴であっても、世間からは疎まれることがあったように。しかし、人間とはつまりそういうものだ。人から好かれるだけでなく、妬み恨みを買うこともある。また、人にとっては全く同じ性質に対しても逆の感情を抱いたりするものだ。李徴はそのような意味で、誰からも人間らしかったといえよう。才能は誰からも認められている。そして、人間としてもいつまでも私の大切な友人であるよ」と。
エンディングテーマ ムスタング Asian Kung-fu Generation
偽りはない 虚飾などない もともとはそんな風景画
絵筆を使い書き足す未来 僕らが世界を汚す
彩りのない あまりに淡い 意識にはそんな情景が
忘れられない いつかの誓い それすら途絶えて消える
頬を撫でるような霧雨も強かに日々を流す
君は誰だい ガリレオガリレイ? 誰も描けない風景画
何が正しい 何が悲しい 僕らが世界を汚す
偽りはない 虚飾などない そんな冗談は言うまいが
誰にも言えない いつかの誓い それだけが僕の誇り
鮮やかな君の面影も僕は見失うかな 窓を叩くような泣き虫の梅雨空が日々を流す
嗚呼…なくす何かを ほら 喪失は今にも口を開けて僕を飲み込んで
浜辺で波がさらった貝殻 海の底には想いが降り積もっているんだ
偽りはない 虚飾などない もともとはそんな風景画
忘れられない 君との誓い それだけが僕の誇り
心映すような五月雨もいつかは泣き止むかな 頬を撫でるような霧雨が強かに日々を流す
どんな結末が生まれるか。現代文の授業の可能性は無限大です。