猫になりたいわけ
テレビ朝日の関ジャム 完全燃SHOWで、大ヒット曲に隠れた名カップリング曲特集なるものをやっていた(https://www.tv-asahi.co.jp/kanjam/backnumber2/0010/)。
この番組は構成やテーマに忖度が無くて、拘りがあって、昨今テレビ離れが進む中にあって価値のあるとても良い番組だと思っています。
多くのアーティストの隠れた名曲が紹介されました。そういえば、最近Youtubeのコメント読んで納得したことがある。音楽にも時代の流れがある中で、こんなにたくさんの天才が同じ時期に活躍していることはない(もちろんデビュー時期は異なりますが)。これは主観ですが宇多田ヒカル、椎名林檎、藤原基央、野田洋次郎、米津玄師、尾崎世界観、草野正宗、後藤正文。こんな時間を生きられる自分は幸せ。
さて、スピッツ「青い車」のB面である「猫になりたい」。スピッツ好きな人にとってはもはや隠れた名曲ではなく、数あるスピッツの曲の中でも多くのファンに愛されています。
スピッツは「ロビンソン」や「空も飛べるはず」、「チェリー」などが広く知られており、爽やかで時に切ないメロディに懐かしさや青春を感じるという意見も多いです。
が、しかし僕が感じるのは草野さんの「夢と狂気の王国」。宮崎駿さんが作る映画のような。ジブリの映画って面白いですけど、裏に隠された設定とか怖いものがありますよね。もちろん、ラピュタみたいな冒険活劇的な浪漫やトトロにあるようなユーモアタッチで描かれる日本古来の神様のような夢もあるんですが、ナウシカの終末観とか紅の豚の戦争テーゼとかもののけ姫の死とか千と千尋の美しくも不気味な世界とかね。もう少し言及すると、ルイスキャロルのアリスの世界に通ずるものがあるなと。歪みと偏愛。美しく見えるものには裏が合って整合性が無くても存在(想像)することが出来る身勝手で自分本位な狂気の世界。
「誰も触れない二人だけの国」「宇宙の風に乗る」「幼い微熱を下げられないまま神様の影を恐れて」「悪魔の振りして切り裂いた歌を春の風に舞う花びらに変えて」
束縛にメランコリー、アンビバレンス。そして意味不明な言葉選びと遊び?とにかく草野さんはヤバい人に見える。
そんなスピッツの中でも愛されつつ難解な「猫になりたい」について。
番組ではマカロニえんぴつの(このバンド名のセンスも大好きです。aikoさんの深海冷蔵庫とか、ホルモンのROLLING1000tOONみたいな)はっとりくんは、猫の目線という解釈をしてくれました。とても面白かった。
さて、歌詞を見てみましょう。
灯りを消したまま話を続けたら
ガラスの向こう側で星がひとつ消えた
からまわりしながら通りを駆け抜けて
砕けるその時は君の名前だけ呼ぶよ
広すぎる霊園のそばの このアパートは薄ぐもり
暖かい幻を見てた
灯りを消したままに話を続けていくと星が消える。空回りして、君の名前だけ呼ぶ。その場に君はいないんですね。薄ぐもるアパート、暖かい幻。どちらも不安で不安定なものです。
猫になりたい 君の腕の中
寂しい夜が終わるまでここにいたいよ
猫になりたい 言葉ははかない
消えないようにキズつけてあげるよ
猫になりたい。猫は自由気ままに何をしても怒られない。寂しい夜=破滅した恋だけど、別れた君の傍にいたい身勝手な気持ち。言葉で何を言っても伝わらないから、僕はひっかいて噛みついて傷を残したい。猫ならば笑って済まされるから。
目を閉じて浮かべた密やかな逃げ場所は
シチリアの浜辺の絵ハガキとよく似てた
砂ぼこりにまみれて歩く 街は季節を嫌ってる
つくられた安らぎを捨てて
どうしようもない状況に考えた逃げ場所は、シチリアの美しい浜辺(妄想)。現実は全然美しくないから逃げたい場所は美しい絵葉書。リアルに美しいものが更にベタに誇張されたもの。砂ぼこりはチェリーの黄色い砂を連想させますね。嫌なもの、迷惑なものからは逃れたい。つくられた安らぎとは、勝手な僕の理想像です。相手のことを想って共有するのではなく、自分だけの世界を創りたい。
猫になりたい 君の腕の中
寂しい夜が終わるまでここにいたいよ
猫になりたい 言葉ははかない
消えないようにキズつけてあげるよ
その世界は僕が「猫」であり、自由気ままに君を愛していても何も怒られることのない自己中心的な世界。それを忘れないように、キズをつくる。
ここからは僕の解釈。最初は「死」を連想する唄だなと思っていました。「広すぎる霊園」 とか、「暖かい幻」、「つくられた安らぎ」。全て終わってしまった後のような印象。
しかし、スピッツの中に死はあまり描かれないんですね。どちらかというと、破滅的な恋愛のようなものを感じます。これが草野さんの狂気。初期に多いんだけど、「アジサイ通り」「俺の全て」「HOLIDAY」「空も飛べるはず」の原曲「めざめ」「君が思い出になる前に」。別れ、もうすでに終わってしまったことや終わりそうな時に生じる苦しみや痛み、自分の思い通りにならないもどかしさ、誰かを自分のものにしたいエゴ。
「消えないようにキズつけてあげる」ここから僕はエロティックなものを感じました。~してあげるっていう言葉使いには上から目線で相手を支配したい、征服したいという欲望が読み取れる。僕の自由に、あくまで自分中心に、猫のように思うがままに君をキズつける。そこに奔放な性欲があるように思う。
もちろん、付き合っていく中で相手に合わせないとか自分を優先するといった人付き合いである可能性もあるんですが、それよりも、もっとストレートに相手に肉体的なキズをつける(残す?)という気持ちに感じる。ただ、それは暴力ではない。ただ単純に自分の独占欲を満たしたい。そこにエロスがある。だったらキズは身勝手で相手を傷つけることさえ厭わない自分本位な性欲かなと。
勝手に解釈して勝手に楽しんで聴いていればいい。時々、誰かに自分の好きさ加減を伝えるともっと楽しい。少なくともこの曲は僕にとっては色々な歪みを持つ、大好きな曲。僕は猫になりたい。
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