戦闘機に残されていたぬいぐるみ
日本の戦争にまつわる歴史博物館は、平和教育を中心として構成されていますが、フランスでは史実を淡々と紹介している印象があります。ただ、その中でもひとつ心に残っている展示がありました。
パリの中心地にある、アンヴァリッド廃兵院内にあるフランス軍事博物館の軍服の展示コーナーでみた、ペンギンのぬいぐるみです。そこにはひとこと「戦闘機で亡くなっていた兵士と共にいたぬいぐるみ」と。 このペンギンは、彼が我が子から託されたものでしょうか。それとも、自分が幼い頃から一緒に過ごしてきたものでしょうか。様々な想いが交錯し、涙が溢れました。
ノルマンディー上陸作戦の地を訪ねる
先日、ノルマンディー上陸作戦の地に行きました。
フランスの田舎町は、どこもとても可愛らしい町並みをみることができるのですが、北の海岸沿いだけは例外です。北フランスの主要な港町は、第二次世界大戦中に激しい空爆を受け、あらかた破壊されてしまったのです。そのため、戦後に建てられたコンクリートの無機質な町並みなのです。
その中でも特に被害が甚大だったのが、ノルマンディー上陸作戦の地、オマハビーチ周辺。ノルマンディーとは、フランスの北の海辺周辺の地域を指し、モン・サン・ミッシェルが有名です。
行く前に、ノルマンディー上陸作戦をよく知るために、映画プライベート・ライアンと、Youtubeの解説動画で予習していきました。この軍事作戦は、第二次世界大戦中、フランスがヒトラー率いるドイツ軍に占領されていたところを、アメリカ軍を中心とする連合軍艦隊が反撃に出て、ノルマンディーから上陸したというものです。
アングラ軍モノ博物館
オマハビーチ周辺に到着したので、実際の上陸地に向かう前に博物館で勉強してから行くことに。Google Mapで検索すると、D-Day Museumと、それらしい名前の博物館がヒットしたので、そちらに向かうことにしました。こぢんまりとしていて、すぐ見終わってしまいました。この博物館、マネキンがなんとなくちゃっちくて、熱海などにある秘宝館的な雰囲気も。凄い戦いだったのに、博物館は意外とこんなものなのね、と思いつつ、後にしました。
それでも、私が気になった展示品トップ3。
1つ目はパラシュートにくくりつけられた人形。上陸の際、海上から攻める以外にも、空から攻めるパラシュート部隊がいました。この人形は実際の兵士の人数をかさ増ししてみせたものです。実際の人よりは小さめなのですが、遠くから見たら縮尺はあまり気にしなくても敵を欺けたのでしょう。
次に、ドイツ軍のゴム引き塗装されたBMWのバイク。職業柄、乗り物の塗装は気になります。ゴム系の塗料は耐久性がある印象がなかったのですが、軍が使っていたということで、どういった利点があったのか、ちょっと調べてみたくなりました。
最後に、伝書鳩の持ち運び巣箱。きっと、当時は巣箱を携帯することですら画期的で、移動する巣箱に対して、鳩にも特別な訓練がされたのだと思うのです。携帯電話ならぬ、携帯伝書鳩。
その後、プライベート・ラインの映画冒頭にも出てきた、ノルマンディー米軍英霊墓地に向かいました。すると、その真横に巨大なコンクリートの建物が…。どうやらそちらが、メインの博物館だったようです。ガガーン!!!
では、先程みたものは何だったのか。総合案内に置いてあったガイドブックをみると、個人所蔵のコレクションの展示だったようです。どうりで、ちょっとマニアックな展示内容だったのですね。
怒涛の戦争博物館群、でも何かが足りない
悔しかったので、次回訪れるときのために、その周辺の上陸作戦に関する博物館を調べてみたところ、ななななんと、その数、30近くもあるようです。
・Arromanches 360° Museum theater
・Landing Museum
・Memorial Museum of the Battle of Normandy
・Caen Memorial
・Normandy Victory Museum
・Liberation museum
・Big Red One Assault museum
・Visitors information center
・Overlord Museum
・D-Day shipwrecks museum
・Juno Beach Center
・1944 Radar museum
・Civilians in the War Memorial
・Maisy battery museum
・Merville battery museum
・Coudehard-Montormel memorial
・Atlantic Wall museum
・No 4 Commando museum
・World War 2 museum
・D-Day Experience – Dead Man’s Corner museum
・Pegasus Memorial
・Omaha Beach Memorial museum
・The 1944 Bocage Breakthrough museum
・Airborne museum
・Utah Beach museum
・1944 Tilly-sur-Seulles battle museum
・America Gold Beach museum
・D-Day Omaha museum
(D-Day Oberlord.com参照)
私が米軍英霊墓地の近くでみた大きく立派な博物館は、Overlord Museumといって、アメリカの退役軍人協会と繋がりがあり、サイトも英語表記がメイン。ですが、ここも一個人のコレクションから始まった博物館でした。サイトからバーチャル訪問もできるのでみてみましたが、私達がみた博物館と規模の違いはあれど、内容は同じような印象。30近くある博物館は、どこも個人所有のコレクションからできたものばかり。これらの博物館からは、何かが欠けているように感じたのです。このモヤモヤ感が何かがわかったのは、米軍英霊墓地でのことでした。
平和教育とは
海風が心地よく見晴らしの良い丘に、整然と美しく立ち並ぶ大量の墓標。ここで眠っている人達の最期を想像したとき、誰一人として安らかなものではなかったのだと気づき、戦争の恐ろしさを再確認しました。
これらの博物館に足りないものは、その悲痛さを訴える、平和教育的な観点だと思うのです。当時実際に使われていた軍モノグッズはカッコよく並んでいるのですが、その中に隠された個人のエピソードが見えてきません。冒頭のペンギンのぬいぐるみのような、激しく感情が揺さぶられるようなものがないのです。ノルマンディーは連合軍の反撃の地であり、その軍隊としての誇りが博物館の数にも現れているのでしょうけど。
平和教育とは、ただ残酷な写真を並べればいいというわけではなく、個人の感情に訴えるものが必要だと思うのです。そのためにも、戦時中、個々人が何を感じ、どのような生活を強いられてきたのかを、もっと伝える展示の必要性を感じました。そういえば、私が戦争について興味を持つきっかけになったのは、小学生の頃の課題図書、アンネの日記だったことを思い出しました。
さて、ノルマンディー上陸作戦の海岸。今ではすっかり平和なビーチになっており、海水浴を楽しむ家族で賑わっていたのでした。この風景がいつまでも続きますように。