今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅳ まとめ~各教科等を合わせた指導、本音の魅力~-
植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長
名古屋 恒彦
特別支援学級における各教科等を合わせた指導の在り方を考えてきましたが、最後に、各教科等を合わせた指導の魅力、それも現場の本音としての魅力を3点ほど述べます。
1点目は、本物の生活に取り組める魅力です。授業には模擬的な活動を行うものもあれば、まったく生活とは関係なく学問的に学ぶものもあります。多様な学びがあってよく、それぞれに魅力があるのであり、互いに他を否定するものであってはなりません。
そのことをわきまえつつ、各教科等を合わせた指導の魅力を述べるとすれば、それは本物の生活に取り組める魅力です。誰であっても、本気になれる本物の生活は魅力です。通常の教育でも、文化祭や運動会、部活動などにはその魅力があります。各教科等を合わせた指導の魅力と通じるものです。
2点目は、主体的に取り組める魅力です。これは「主体的・対話的で深い学び」が叫ばれる今日、すべての学習に普遍的であるべき魅力ですが、各教科等を合わせた指導では、前述の本物の生活に取り組める魅力と相まって従来からこれを大切にしてきました。すなわち、本物の生活であれば本気で取り組みたくなります。本気で取り組みたい思い、そこに本物の主体的な取り組みがあるのです。
3点目は、前述の二つの点、本物の生活に取り組める魅力、主体的に取り組める魅力を、教師自らも子どもと共に、存分に共有できる魅力です。各教科等を合わせた指導の授業において、筆者の恩師、小出進先生は、子どもと共に生活する教師であることを説き続けられました。そのような教師は「指導者というよりは(引用者注:『指導者ではなく』ではないことには留意)支援者である」(小出、2014)と言われました。教師は、子どもと思いを共にし、活動を共にする共同生活者です。
子どもが本物の生活の中で主体性を存分に発揮するように、教師もまた、子どもと共に、本物の生活の中で主体性を存分に発揮し、その喜びを子どもと共に分かち合えること。このことが、実は、筆者自身が感じる、各教科等を合わせた指導の本音の、そして最大の魅力です。
「できる状況づくり」に努め、本来の生活場面を学校生活でつくり、そこでどの子も、自立的・主体的に生活できれば、それは、どの子も、自分の力を、自分の思いに即して、精一杯発揮している生活に他なりません。力は発揮されることで確かに身につくものです。
力をつけるよりも、力を発揮できる状況づくりに意を注ぎます。教師は、どの子も力を発揮できるよう、子どもの活動を支援します。そうすることで、子どもは、自分の力を発揮し、自立的・主体的に生活できます。
力を発揮できない状況下では、力はつきません。力を発揮できれば、その力はますます確かに身についていきます。
今を主体的に生きる生活は、今を生きるための確かな生きた力の習得にも結びつきます。 最後に私の座右の銘である、戦後知的障害教育の父と言われる三木安正先生の言葉を紹介します。
「最も適切な生活の場が最もよい教育の場であるといえよう。」
私たちは、子ども主体の今の生活の充実を図ることが、最も良い教育をつくることになると考え、今日を歩んでいます。
植草学園大学・植草学園短期大学 特別支援教育研究センター
障害者支援を学ぶことは、すべての支援の本質を学ぶことです。千葉市若葉区小倉町にキャンパスをもつ植草学園大学・植草学園短期大学は、一人ひとりの人間性を大切にした教育を通じて、自立心と思いやりの心を育むことにより,誰をも優しく包み込む共生社会を実現する拠点となることを学園のビジョンとしています。特別支援教育研究センターは、そのビジョンを推進するため、平成26年度に創設され、「発達障害に関する教職員育成プログラム開発事業」(文部科学省)の指定を受けるなど、様々な事業を重ねてきています。現在も公開講座を含む研修会やニュースレターの発行なども行っています。 tokushiken@uekusa.ac.jp