復興支援活動を続けるということ①~支え合いとしてのボランティア活動~
植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長
名古屋 恒彦
はじめに
今回と次回は、岩手県に在住する筆者が経験した東日本大震災の復興支援活動について書きます。
というのも、今年8月に岩手県沿岸の先生方を対象に、本センター事業として特別支援教育研修会を開催することになったからです。
発災13年を過ぎた今、教育現場になお存在する支援ニーズを、筆者の経験してきたことをふり返りながら、みなさまと分かち合えればと思います。
東日本大震災津波の発災
2011年3月11日、筆者は、当時勤務していた岩手大学で東北地方太平洋沖地震を経験しました。
筆者の研究室は5階にありました。早々にやや強い揺れを感じましたが、数日前にあった地震の余震と判断しました。すぐに収まるだろうと思い、デスクワークを継続しようとしたところ、経験したことのない強い揺れが襲いました。しかもこれまでの地震の経験からすればもう収まるだろうと思われた時間を過ぎても、収まらないどころか、ますます揺れが大きくなっていくこと(これがはじめて経験した連動型地震でした)に恐怖を感じ、階段を駆け下り、建物の外に避難しました。
その後、電気のない生活が始まりましたが、筆者の住む地域は2日ほどで電気が復旧し、テレビを通じて、東北地方太平洋沖地震に伴う津波の甚大な被害を知ることとなりました。
筆者の住む岩手県では、東日本大震災を東日本大震災津波と呼称します。甚大であった津波被害を忘れないためです。
発災後、岩手大学では、学生に沿岸でのボランティアをしないように指導しました。発災直後の時点では危険が大きいこと、実際に行っても適切な活動ができないことなどがその理由です。当時の状況をふり返るとき、筆者は、大学によるこの判断が今でも勇断であったと強く考えています。そして学生たちは沿岸に行くことができなくても、大学のある盛岡市内で可能な活動に積極的に取り組んでいました。
3月の後半、いよいよ沿岸にボランティアを派遣する準備が始まり、筆者は学生へのボランティアガイダンスを担当することとなりました。特別支援教育担当教員として、これまで特別支援の現場等でのボランティア活動を学生と行ってきたことからの抜擢でした。この役割につくにあたり、ボランティアガイダンスだけではなく、4月に予定されていた学生の沿岸派遣にも同行し、活動することを申し出ました。ここから、今日まで特別支援教育と並ぶ筆者のライフワークである震災津波からの復興支援活動が始まりました。
ボランティアとして大切にすべき留意点
ボランティアガイダンスでは、筆者の特別支援分野でのボランティア経験を踏まえた留意点を説明しましたが、その中で特に強調したことは2点でした。
一つは、ボランティアは、「困っている人を助けてあげる」というものではなく、人として当然の支え合いであるということ。
これは、筆者のボランティア経験からぜひ学生たちに知ってほしいことでした。筆者はそれまで特別支援の現場でボランティアを受け入れたり、ボランティア活動に身近で接したりしてきました。その中で気になったのが「・・してあげる」という上から目線のボランティア活動でした。それはボランティアのユーザーをボランティア自身より下の存在として固定し、「助けてあげる」という行為で活動を方向付けます。その種の活動は、ユーザーに息苦しい思いや気遣いをもたらすことが少なくありませんでした。
しかし、人は本来対等に互いを支え合っているものだと考えるとき、ボランティア活動は、ユーザーとボランティアの支え合う関係を生み出します。
実際に沿岸に向かうバスの中で学生たちの声を聞くと、「困っている人を助けてあげたい」という言葉が多く聞かれました。未曾有の大災害の前に、この言葉はまさに本音であり、「上から目線」などと安易に批判してよいものではない重みと真摯な思いを筆者は感じました。
しかし、ボランティア活動を終えて帰路にあるバスの中では、不思議なほどその言葉は、ほとんど聞かれなくなりました。筆者自身も学生と共に活動した一人としていうならば、そこには、自分たちを受け入れてくださった沿岸の方々への感謝や、これからも一緒にがんばらせてほしいという意志といった思いがより強くあったと記憶しています。もちろん想像を超える破壊の規模に自身の無力を感じる思いもありましたが、沿岸で出会った方々のお気持ちに支えられてボランティア活動をしていることが強く実感され、それが次の活動への力となっていきました。
ガイダンスで強調した二つめは、ボランティア自身が安全に帰ってくること、決して無理はしないこと、でした。
これは考えてみればどんなボランティア活動にも該当することではありますが、沿岸での活動ではいっそう強調しなければならないことであると、筆者自身は強く自覚しました。復興への強い思いがあればあるほど、そのことは各人が自覚しなければならないことでした。筆者自身も沿岸での活動では負傷をしました。そういった身体的なリスクを回避することに加え、学生一人ひとりの心を守ることもまたきわめて重要なことでした。ボランティア自身もまた、自らの心を守らなければならないほど沿岸の破壊は想像を超えるものでした。ただ、その中で、筆者たちボランティアの心を支えたのが、沿岸で出会った被災された方々の温かい心でした。
心を守るということと関連して、発災初期のボランティア活動では、学校全員で参加するという事例も他校にはあったようです。あれだけの災害規模であれば、その選択も理解できないことではありません。しかし、未曾有の事態でればこそ、いっそう「ボランティア活動は、あくまでも自発的な意思による」という原則に立ち返らなければならないと強く思わされたことでした。
つづく