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特別企画 いんくる座談会(4)

多様化する子ども・変わる学校

 医療ケアの必要な子どもが増えています。IQ(知能指数)は高くても社会生活に困難性のある発達障害のある子、外国にルーツがあり日本語や日本の慣習になじまない子も学校現場で目立つようになりました。「障害」ではくくり切れない多様性に特別支援教育がどのように対応していくのかが問われています。「インクルーシブ教育」「徳育」を理念に掲げる植草学園大学が果たすべき役割について話しました。

<参加者>
・佐川桂子(発達教育学部長)
・渡邉章 (図書館長)
・髙瀬浩司(特別支援教育コース主任) 
・野澤和弘(副学長)

変わってきた通常の学級

野澤 以前に比べると、特別支援学校は知的障害や身体障害の重い子どもたちだけでなく、軽度障害の子もやってくるようになりました。医療ケアや外国籍の子どもたちもいます。多様性に対応しなくてはいけないと思うのですが、その点はどうですか。

髙瀬 私が学校現場にいたとき、肢体不自由特別支援学校等には通常の学校に準ずる教育課程で学ぶ児童生徒が一定数在籍していました。ところが、先日別件で学校に問い合わせをしたところ、肢体不自由特別支援学校や病弱特別支援学校で、通常の学校に準ずる教育課程で学ぶ児童生徒数が減っていることに気づかされます。つまり、障害があっても通常の学校で対応できるようになってきたということです。以前であれば、何らかのハンディキャップがあれば、たいてい特別支援学校に在籍していた子どもたちが、地域の通常の学級で支援環境が整っていれば、学ぶことができるようになってきました。肢体不自由という障害があっても、支援が行き届き、通常の学級のカリキュラムで学べるのであれば、地域の学校に通えるようになりつつあります。

佐川 それは聾学校でも同じです。また、医療的ケアの子どもも、通常の小学校で学ぶケースが増えています。看護師などを配置して受け入れられるようになってきました。多様性への対応は、むしろ通常の小中学校の方がさまざまに求められているのではないかと思います。

佐川桂子 発達教育学部長

髙瀬 何らかの障害がある子どもたちではありますが、以前に比べると自分の通う学校を選べるようになってきたのだと思います。

野澤 どんな学校でも障害のある子に配慮した教育を提供できるよう、切れ目のない体制をつくろうということを日本のインクルーシブ教育は目指しています。文部科学省の「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」には次のような説明があります。「同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある『多様な学びの場』を用意しておくことが必要である」

野澤和弘 副学長

佐川 日本の特別支援教育の連続性ですね。そこがうまくいっていればいいと思います。

植草学園の学生の特徴は?

野澤 特別支援学校の先生になるためには何が必要でしょう。先生方がもしも校長先生だとしたら、どんな新卒の先生を迎え入れたいと思いますか?

渡邉 植草学園大の学生は、とても気持ちがある学生が多いと思います。そこは誇れるところです。子どもたちを大事にしよう、サポートしたい、そういう気持ちのある学生が多いです。どうやったらそういう学生の思いを生かすことができるかを考えたいです。

渡邉章 図書館長

佐川 無条件に子どもたちのことを好きだと思える人、一人ひとりの子どもの良さを見つけられる、認められる人です。勉強ができることも大事ですが、その子と一緒に生活をして、成長を喜ぶことができる人。その気持ちが大事だと思います。子どもたちにも親にも優しい先生がいいですね。植草で学んだ学生には子どもの良さを生かして子どもができる状況をつくっていってほしい。小出進先生(植草学園大初代学長)がずっとおっしゃっていたことです。その信念だけは持っていてほしい。そして、自分が何をやりたくてこの道に入ったのかを絶えず見直してくことが大事だと思います。

髙瀬 自分自身が大切にしてきたと思うのは、子どもたち一人ひとりにちゃんと寄り添うこと。知識やスキルは、後からいくらでも身に付けることができます。知識やスキルの習得に邁進し、頭でっかちな人よりは、子どもたちに丁寧に寄り添える感性を持った人を育てていきたいと思います。自然に、素直に、子どもたちに寄り添えるということです。若いころ読んだ灰谷健次郎さんの本にありましたが、「さりげなく寄り添う感性」、なかなかできるようでできないことです。
 今は表で議論せずに、裏で批判したり、誹謗中傷したりするような世の中です。しかも、教育の考え方や理念を議論するのではなく、人間性を否定したりもする。私が諸先輩方に言われたのは、「理念を持ちなさい」「意見をぶつけ合いなさい」ということです。自分もそのことをいつも心に、議論していたように思います。理念をもって、意見をぶつけ合えば、終わったらノーサイドです。陰で批判したり、誹謗中傷したりしていては、チームとして成り立ちにくいです。

野澤 植草学園大の特徴はどんなところでしょう。

渡邉 子どもをどうとらえていくか、どういう考え方で接していくか。そうした基本的なところを大切にしているのが植草学園大学です。それを学べる大学だと思います。

佐川 規模の小さい大学なのでそれぞれ顔が見える。学生が「おはよう」とあいさつをしてくれる。あいさつがちゃんとできることは、人と人の関係性を深めることにつながります。挨拶したときに「あれっ?今日は元気ないな」とわかる、この距離感がこの大学ならではだと思います。また、植草学園大を目指した人だから優しいのか、この大学にいるから優しい人になるのか…、周りの人に向ける視線がやさしいですよね。こうした感性を大学全体が持っていると思います。

髙瀬 二つあります。まずは、学校の雰囲気、イメージです。学校現場におりましたので、やはり教育・教員は現場が大切だと思います。現場主義に徹底して学生を指導しているのがこの大学の特色です。今後もそうあるべきだと思っていますし、自分もそうしたいと思います。もう一つは学生の一人ひとりの心地良さです。学生の一人ひとりのあいさつがその代表ですね。他大学の学生は、すれ違ってもあいさつをしないのが当たり前です。授業にいって「おはようございます」といっても反応が返ってこない。植草学園大学の学生は知らない人でもすれ違ったら、必ずあいさつをしてくれます。

髙瀬浩司 特別支援教育コース主任

野澤 子どもたちを取り巻く状況は大きく変わってきました。特別支援学校などの現場も変わっていかねばなりません。しかし、時代が変わっても大事に守っていかなければならないことも多いと思います。植草学園大の卒業生は優しい、まじめ、正直だとよく言われます。障害のある子どもたちの教育の現場ではとても大事なことですよね。これからも心の優しい、元気な先生を育てていきたいと思います。
                                    おわり

植草学園大学・短大 特別支援教育研究センター
障害者支援を学ぶことは、すべての支援の本質を学ぶことです。千葉市若葉区小倉町にキャンパスをもつ植草学園大学・植草学園短期大学は、一人ひとりの人間性を大切にした教育を通じて、自立心と思いやりの心を育むことにより,誰をも優しく包み込む共生社会を実現する拠点となることを学園のビジョンとしています。特別支援教育研究センターは、そのビジョンを推進するため、平成26年度に創設され、「発達障害に関する教職員育成プログラム開発事業」(文部科学省)の指定を受けるなど、様々な事業を重ねてきています。現在も公開講座を含む研修会やニュースレターの発行なども行っています。
                     tokushiken@uekusa.ac.jp



                                

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