大河『太平記』の史跡探訪記②悲劇の皇子「大塔宮 護良親王」を祀る鎌倉宮
後醍醐天皇の実子なのに土牢に...
日本史の中で悲劇の皇子と言えば、『平家物語』の安徳天皇が筆頭に挙げられます。平清盛の孫であり、平家滅亡の象徴的存在。1185年、源氏に追い立てられて数え年8歳で壇ノ浦に入水し、海の藻屑と消えました。唯一戦いで命を落とした天皇と言われています。
しかし、大河ドラマ『太平記』や歴史書物を見ると悲劇の皇子は安徳天皇だけではなさそうです。例えば、『太平記』の主人公、足利尊氏と壮絶な覇権争いを繰り広げた後醍醐天皇の皇子、「大塔宮 護良親王」(だいとうのみや もりよし しんのう)などは尊氏の弟・足利直義(あしかが ただよし)によって土牢に押し込められ、28歳で直義から差し向けられた淵辺義博に首を切り落とされるという悲惨な最期を遂げています。
また直義に不利な情報をもたらした後醍醐天皇の側室、阿野廉子(あの れんし)が産んだ皇子達も直義に毒殺されてしまうのです。(*廉子の生んだ七番目の皇子が後村上天皇になりました)
護良親王は皇族であり、僧侶であり武将であり、自ら兵を率いて北条氏と戦う功績を残しながら尊氏との権力争いに敗れ、斬首され、激動の鎌倉末期に命を散らした”異色の皇子”でした。(1308~1335)
『太平記』は感情的なヒーローが周囲を翻弄する話
何故そんな事に?天皇の息子が?と、不審に思うかも知れません。しかも、護良親王を土牢に入れる手引きをしたのが父である後醍醐天皇だった、と知ると二度びっくりです。簡単に説明すると鎌倉時代の英雄、足利尊氏を描くドラマ『太平記』は、後醍醐天皇と尊氏の「ヒステリックな感情のもつれ」から騒乱が起きています。(さっさとどっちか殺っちゃえばこの話早く終わるのに...)と何度思った事か。ドラマの中盤ではあろう事か、尊氏を怒らせたくない余り、後醍醐天皇は護良親王を尊氏に引引き渡してしまうのです!
護良親王は父の「公家一統」で征夷大将軍に
もともと、『太平記』の戦乱の起こりは北条氏の横暴から来ています。
源頼朝が開いた鎌倉幕府をいわば乗っ取る形で頼朝の妻・政子の一族である北条氏が武家の棟梁として莫大な所領を有し、栄華を極めました。
栄華を極めただけなら良かったのですが、皇室の跡継ぎにも口を出すようになり、これを不快に思った後醍醐天皇が公家だけで国を統治する「公家一統」を掲げ、倒幕を計画し、反幕府勢力を集めていました。
これに呼応して第三皇子である護良親王が挙兵します。護良親王は比叡山延暦寺の大塔にいて寺の元締めをしていたので大塔宮(だいとうのみや)と呼ばれました。他にも後醍醐天皇に助太刀したのが楠木正成や新田義貞が有名です。不思議な事に、『太平記』では後醍醐天皇に心から尽くし帝の為に矢を取り、刀を振るった武士達は皆、悲惨な最期を遂げています。
尊氏と征夷大将軍を争う
中でも皇子でありながら、武家によって牢屋に閉じ込められ、首を切り落とされる最後というのは痛まさしさでは群を抜いています。
『太平記』では護良親王は比叡山で「仏教の修行は行わず武芸を好み僧兵と訓練に励んだ」され、武器の取り扱いは免許皆伝であったとされます。
まあ、この物語の中でも『ツワモノ』という位置付けで、山伏に身を隠して北条氏を滅ぼす為に獅子奮迅の働きをします。それで配流先の隠岐から都に返り咲いた後醍醐天皇は、公家一統なので戦功のあった武将ではなく、息子の護良親王に「征夷大将軍」の位を与えるのです。
そもそも征夷大将軍とはなんでしょうか。「東方の蛮族(蝦夷)を討伐する役職」で征夷、の名前がついてその後、武家の棟梁の称号になりました。
そう、征夷大将軍とは武家の最高栄誉職であり、武家の総元締めなのです。
これを皇子がもらうと面白くないのは足利尊氏です。元々北条氏を打倒して武家の棟梁の座を手中に収めたいと後醍醐天皇の倒幕に力を貸していた尊氏。
朝廷で二人の征夷大将軍が並び立つはずもなく、また自分の子供を帝の位につけたい阿野廉子も護良親王が邪魔。ついに護良親王は利害が一致した尊氏一派の讒言によって謀反の疑いがあると信じた後醍醐天皇から尊氏に引き渡され、悲しい最期を遂げるのでした…
明治になってから親王を祀る神社が建てられます。それが鎌倉宮です。護良親王が閉じ込められた土牢も公開されています。
宮司さんに聞くと、本当にここに閉じ込められていた訳ではなく、土壁で作られた座敷牢のような所にいたようです。切り離された親王の首を置いたと言う伝説の場所もあります。
護良親王の墓はまた別にあり、機会があれば訪れたいと思っています。
お昼は鎌倉宮すぐ近くの「宮前」で。
ぶっかけ蕎麦がとても具沢山で美味しかった。
【鎌倉宮】
神奈川県 鎌倉市 二階堂154
JR 鎌倉駅東口5番バス乗り場から「大塔宮」行き。徒歩1分。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?