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道徳の時間の「考える」とは NO3

 本シリーズでは、道徳科の授業で子どもが「考える」とはどう言うことなのかについて迫ってみたいと思います。
 前号では、子どもが教材と自分自身のことを語り始める中間的モードを引き出すための3つ方略のうちの「多元的機能化」について述べました。
 本号では、二つ目の方略「モデル化」について述べてまいります。
*前号と合わせてお読みいただけると幸いです↓

1 モデル化とは

 前号では、物事の構造を様々な視点や観点から見直し、多様な機能があることを引き出すための「多元的機能化」について述べました。
 本号では、方略3の「モデル化」について迫ってみたいと思います。
 まず始めに、東京大学名誉教授である佐伯氏はモデル化を以下のように述べています。

 モデル化というのは、アナロジーや比喩、隠喩による理解の促進である。これも私たちの文化にはあふれんばかりに存在しているものである。そのようなアナロジーやメタファによって知識の転換を文化的に伝承してきたのである。( 略 )
 このようなはたらきかけによって「文化の中で意義を確かめられる活動や操作に結びつく」思考が活動しはじめるのである。

 つまり、物事を類推(アナロジー)したりや見立てたりして考えることができる材料や、それを促す状況・場面を設定することで、子どもの思考は自然に促され、「例えば〜」や「○○に置き換えると〜」と、教材の出来事と他の現象を繋げて説明したり、新たな視点を価値を捉え直したりすることができるのです。同時に、モデル化することは、価値の本質の部分と「どうでもいい部分」とを明確に浮き彫りにすることもできるのです。

2 モデル化を引き出す

 ではどうすれば、教材だけに捉われてしまい「これはこれ、あれはあれ」と物事を別々に考えてしまう子どもの見方や考え方の縛りを解き、価値の構造を見抜き、様々なことと関連付けて考えることができるようになるのでしょうか。
 そのためのポイントは・・・

「類似性の高い場面を提示する」です。

 教材の場面のみに捉われてしまった子どもの思考を、すでに経験済みのことや知識として持っていることと比較をすることで、子どもの理解を促していくことが大切のです。
 例えば・・・

教材「お母さんのせいきゅう書」内容項目:家族愛
(主なあらすじ)
主人公は、自分が家族のために行ったことに対してお母さんに請求書を渡しお金を要求する。その日、お母さんからお金をもらうとともに、全て0円のお母さんからの請求書を渡される。それを見て、主人公は涙を流す。
(授業展開の一部)
T:主人公はお金をもらってはいけないのだろうか。
C:それは、ダメだと思う。
C:家族のみんなが、家族のために働いているから、主人公だけもらうのは良くない。
T:でも、会社では働いたら給料をもらうというのが普通だよね。それと何が違うの?
C:会社はお金を儲けることが仕事の意味だけど、家族はそんな意味じゃない。
C:そうだよ。家族はみんなが支え合って楽しくする場所なんだから。
T:なるほど、会社と家族での一人ひとりの役割は違うんだね。

 このように、主人公が「家族でも働いたらお金を受け取るべき」という誤った考えに対して、子どもの知識として類似性の高い「会社での給料」を提示し比較することで、子どもの思考が働き始め、深い価値理解につなげることができるのです。
 このように類似性の高い場面を提示し比較させることが「モデル化」です。
 実は、中には無意識に、自分の身近な場面や知識と繋げて考えてられる子どももいます。
 そんな子供には「例えば、どんなこと?」「そんなことあるの?」と問い返してあげることも有効かと思います。
 そうすれば、その子どもの発言をきっかけに周りの子どもの「モデル化」が促進され、価値理解が深まっていくのです。
 教師が提示したり、すでに自分の身近な場面と比較して考えている子どもの発言をきっかけに考えたりすることを、何度も授業で取り扱うことで、段々と多くの子どもが「モデル化」できるように育っていくのだと思います。

*私のnoteでは、2週間に一度、「道徳科の授業づくり」について書いております。興味のある方はフォローして頂けると幸いです。

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