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「街のレストランから考えるフードロス削減」
プロジェクト90% #1
取材日:2024年6月6日
取材先:タヴェルナ・イル・メルカート・アンジェロ
お茶碗一杯分の食料
お茶碗一杯分の食料。これは何の数字だろうか。現在日本では1年間に612万トンもの食品を廃棄しており、これは東京ドーム約5杯分もの量である。つまりお茶碗一杯分の食料とは日本のフードロスを日本人一人当たりに換算した場合に、1日に廃棄する食品の量である。現在世界では10人に1人が飢餓に苦しんでいる状況であり、深刻な飢餓問題は現在も続いている。その一方で、日本も含め先進国では毎年大量のフードロスがあり、食べられることできるはずの食品が大量に破棄されている。この不平等な現実に私たちはどのように関わっていくべきなのだろうか。そしてどのようにかかわることができるのだろうか。このような問いから私たちの取材は始まった。
イタリアンレストラン「イル・メルカート・アンジェロ」
国連・外交サークルでは、SDGsに取り組む人材を増やすために「project90%」という企画を立ち上げた。その第一回取材として、心斎橋にあるイタリアンレストラン「イル・メルカート・アンジェロ」を訪れた。西洋の食文化をコンセプトとする株式会社かめいあんじゅの系列店として開店し、今年で25周年を迎える。同社が発足した約半世紀前、当時主流ではなかったフレンチを、庶民価格で食べることができるレストランとして「ビストロ・ダ・アンジュ」を開店。この店舗を契機に系列店を増やしていき、1999年に今回取材させていただいた「イル・メルカート・アンジェロ」を開店した。同店は手頃な価格で本場のイタリアンを味わえる店となっている。食の都、大阪でレストランが四半世紀も存続している秘訣は、そのサステイナブルな戦略と料理に対する向き合い方にあった。
結果的にサステイナブル!?
端材から作った生ハムのパテ。野菜の端材をも溶け込ませる出汁。ワインの量り売り。まさに、そうした無駄のない取り組みからフードロス削減についてインタビューすることばかりを考えていた私たちの取材指針をメンバーのある一言が大きく変えた。「特段フードロス削減を目指しているわけではないらしい。」それではこれらの取り組みはどのような意図から生まれたのだろうか。なぜサステイナブルな経営することができているのだろうか。
イル・メルカートでは、生ハムとして出すことができない端材の部分からパテを作り、普通なら使われない美味しい食材を新しい形で提供している。月間7キロ出る生ハムの端材はお金にして1か月約2万円。一つの料理であっても、何もしなかった場合にこれだけの損失が出てしまう。その他にも、日が経って提供できなくなったワインを保存し煮込み料理に活用したり、使われなかったお手拭きを掃除用として再利用したりと様々な取り組みをしているが、これらの取り組みをしなかった場合は、それぞれにおいて損失が生まれる。食品ロスを減らすこと、それは利益を出すために欠かせないことなのである。
チェーン店ではないからこそ...
イル・メルカートは、イタリアの郷土料理を提供している。イタリアのワイナリーと直接つながっており、現地のワイナリーコミュニティで購入するワインは日本で仕入れるものよりも安い。また、料理で扱う野菜や魚介類などは、生産者のもとに直接足を運び交渉するという。このように現地に直接足を運ぶことで、いわゆる「B級食材」と呼ばれる農協や市場には出すことができない形状でもおいしく使える部分が多い野菜を、安く生産者から仕入れることができる。生産者と長くかかわることで、独自の販路で食材を安価に仕入れることが可能になるのだ。
またイル・メルカートでは、キッチンで料理をする人がメニュー考案をする。その日仕入れた食材をお客様に提供したり、食材を捨てないために日を追うごとに別の調理を施したりなど、状況に応じた形で柔軟に料理を提供している。
これらは、イル・メルカートのような、料理する人と、仕入れる人、またメニューを考案する人などが繋がっているからこそできる取り組みであり、チェーン店で見られる、販売効率を上げるために部門化したシステムでは実現することができない。生産者と直接つながり、その日の食材を思いながらお客様に提供する形態は、食品ロスを防ぎ利益を生み出すシステムとなっているのだ。
実は身の回りにあったSDGs
常に余ったもので何か料理を作れないかと考える姿勢。原価をできるだけ抑えるために、素材を十分に使う工夫。私たちが取材を通して、幾度となく感じた考え方だ。
一つの素材を一回の料理で終わらせるのではなく、使える部分はないか、どのように有効活用できるかと考え,メニュー生み出す。そして、どのようにしたら美味しい料理を1番安く、無駄なく使うことができるのだろうか。 イル・メルカートでは、シンボルである巨大なオーブンを生かし、大きくカットした肉をローストすることで端材を減らす。もちろんすべての部分を使うことはできないが、それでも使える部分はミートソースに溶け込ませるなどの工夫をしている。
決して予算が十分にあるわけではない。だからこそ、考え、工夫することで利益に直結する仕組みなのだ。SDGsという観点から取材した私たちから見るとこれらは持続可能な社会形成につながる取り組みだが、実際の現場においては単純に利益を追求し原価を抑えようとする姿勢が結果としてフードロス削減につながっているということに私たちは驚かされた。今回は一レストランを取り上げたが、日々様々な工夫を行っているレストランは数多くあるだろう。そう確信させる取材であった。私たちは時として、SDGsという17のゴールを前に何をして良いか分からなくなる。問題があまりに大きすぎてどこから取り組めば良いか見当がつかないからだ。しかし、実は身近なところでたくさんの人々が各々の課題に取り組んでおり、私たちの知らないことが無数にある。今回の記事を通して読者が身の回りで行われているSDGsの取り組みについて考えるきっかけになれば幸いだ。(守屋耕平・﨑山寛也)