読書感想文 世の中を変えるトリガーとはなんなのか
この先「ステラ・ステップ」(作、林星悟さん)のネタバレを含みます。
この本を購入した最大の理由は帯についていた入間人間先生という文字だった。電波女と青春男や安達としまむらを愛読していた私にとっては見過ごせない一文だった。
なのでろくに背表紙のあらすじすら読まずに勢いで手に入れたので表紙の可愛い女の子のイメージとはかけ離れたSFのような作品で驚いた。
隕石が落ち一度ゼロになった世界で新たな国が誕生した世界で国同士の争いに使われたのは少女達アイドルだったという話だ。
さらに掘り下げると、この世界でいうアイドルは現代の日本のアイドルとはかけ離れている存在で完璧にプログラムを遂行できるかということが命であり、笑顔や愛嬌は必要とされていない。アイドルが行うステージは戦舞台と呼ばれるものでここでの勝敗が国同士の戦いになるので当然アイドル達にはとてつもないプレッシャーがかかっている。
そんなプレッシャーに全く怯むことなくというかむしろ感情を失ったかのように、常に完璧にプログラムを行う無敗のアイドルが主人公のレインである。そんなレインがアイドル志望のハナと出会い変わっていく話だ。
私の幼少期はAKB48が全盛期だった頃なので自然とアイドルに対するあこがれは芽生えて行っていた。可愛い衣装を着て笑顔で歌って踊って観客やファンをしあわせにする素敵な仕事だと思っていた。
年齢を重ねてからあまり見たくはなかったアイドルという職業の辛いところを多々知ることになり、自然とその夢は無くなっていった。
この物語は私があまり見たくはなかった現代のアイドルと同じ問題が透けて見えてくるようだった。
国をかけてのパフォーマンスになるためもちろんアイドルにのしかかる責任や言葉の数々は現代の地下から地上まで見渡しても似たような場面はよく見かける。
もっと大きなところで言えば隕石が落ちたという人類の非常事態の後にまた武器の形を変えたとはいえ人間同士で戦い合う。現代だって未知のウイルスが蔓延していたり地震などの人間の手ではどうしようもない自然災害が後を絶たない中新たな戦争が始まったりしている、人間という生き物の成長のしなさをひしひしと感じてしまう。
そして私がこの本の読了後考えたもうひとつの事に感情というテーマがある。
感情に乏しいレインと彼女と同じアイドルの少女達を比べると感情がないというのは絶望的な状況ではもしかしたら1番の強みになるのかもしれないと思うシーンたくさんあった。感情を持っているから傷ついてしまって感情があるせいで涙を流してしまう。でも、感情があるから楽しくて感情があるから幸せを感じられる。絶望的な世界だったらどっちの方が比率として多くなるのだろうか。
どうせまだ生きなければならないのなら楽しさを感じられる方がいいのだろうか?
この物語には底抜けに明るいハナという少女が登場する。この物語のトリガー的な立ち位置だと思っている。レインとは対象的な存在だ。
現代を生きる私からみたこの世界は絶望的な状況で個人では私たちと変わらない生活をしているけれど社会的な雰囲気として暗い暗雲立ち込めた世界は容易に想像できる。
ハナがトリガーになれたのはこういった状況でも変わらず人間らしい幸せ、そして憧れを追い求めたからなのではないかと私は思う。
どんな時代にもどんな世界にもどんな人間にも寄り添って笑顔を分けてくれるような人がいたらこの世はもうちょっとは生きやすくなるのではと思う。ハナのような底抜けた無垢さはもうないけれど感情を持って生まれた人間ならば幸せを感じて伝えて生きていきたい。
突飛な設定に見える物語で先が気になりすぐに読み終わってしまうくらい面白くて、読んでいる最中は可愛い女の子達をまるでアイドルのファンになったかのように応援できて読み終わってからしっかり物語を考えると先の未来の話とはいえ現代にも通じる人間らしさが溢れていて余韻に浸れる素敵な作品だった。単行本の最後に続編を匂わせるような見開きがあったのでぜひ続編も購入したいと思う。