「アイデア創造」の現場を観察して分かったこと 第1回
1.プロジェクトのはじまり
「UCI Lab.のお仕事」
私が所属するUCI Lab.はクライアントであるメーカーの商品開発や新規事業開発のサポートが主な仕事です。
「ほどく:作り手の思い込みを解く」
「共感する:生活者や世の中に共感する」
「つくる:アイデアやコンセプトの創造」
「届ける:市場ポテンシャルや実現受容性等の検証」
といった4つのプロセスをクライアントと協働しながらプロジェクトとして進めています。
「事前説明の難しさ」
私たちがプロジェクトについて事前に説明するとき、前半の「ほどく」「共感する」といったパートは、調査を中心にしていて、するべきことがある程度体系化されているため最適な手法や必要な工程もクリアに説明できます。
一方で難しいのが「つくる」のパートです。
”何かを生み出す”ということに対し、事前に「ワークショップを何回すればできます」「このやり方なら大丈夫です」とはなかなか言いにくいのが現実です。
というのも、実際にアイデア創造をしたことのある方ならお分かりいただけると思うのですが、「つくる」プロセスの実施にあたっては以下のように、個別柔軟な対応が求められます。
〇『設計』に関わる個別性の検討
・プロジェクトのテーマ(ユーザー・カテゴリーなど)
・最終的にアウトプットするもの
・プロジェクトのメンバー構成
(プロジェクトの慣れ・メンバー同士の関係性)
…etc.を考慮
〇『運営』における柔軟性
・前半の調査の結果
・プロジェクトメンバーの理解度や参加度
・プロジェクトの進行状況、アウトプットのレベル感
…etc.を考慮
これまでも数多くのプロジェクトでアイデア創造を行ってきたので、その時の流れを事例として説明すればイメージはしてもらえるかもしれません。
でも、先ほどお伝えしたように必ずしも毎回同じようなやり方ということではないのです。
私たちの経験上は「こういう工程をたどれば必ず素晴らしいアイデアが出ます!」というものではないと考えています。
とは言え、プロジェクトとしてお仕事を受けるからには、事前の設計(スケジュールやお見積りなど)が必要となります。
このプロジェクトごとの事前設計の精度をもっと向上できる余地があるのではないか?
「プロジェクトの発端」
そこで、私たちはあえて”第三者”としてアイデア創造の現場を観察してみるというプロジェクトを思い立ちました。
そうすることで、アイデア創造の現場で何が起きているかということを明らかにでき、言語化できるようになるのではないかと考えたのです。
ご協力いただいたのは、これまでもプロジェクトやインタビューでお世話になっている、京都工芸繊維大学 デザイン・建築学系櫛勝彦教授(以降:櫛先生)、畔柳加奈子助手(以降:畔柳先生)です。
「アイデア創造における精度アップのプロセスの可視化の研究」という研究題目を立て、共同研究を行うことにしました。
今回のプロジェクトには2つの側面があります。
オモテの目的はテーマに基づいてアイデア創造を行うこと、そしてウラの(メタ的な)目的は「そのプロジェクトがどのように行われていたのか記録し分析していく中で、先生方ですら気付いていないこと(アイデア創造のポイントやテクニック)を明らかにしていく」ことです。
2.オモテプロジェクト
「子どものいる朝食風景」
前述した通り、オモテプロジェクトの目的は、テーマに即したアイデア創造を行うことです。
事前の議論の結果、前半の調査はUCI Lab.で行い、アイデア創造の部分を櫛先生、畔柳先生率いる櫛研究室で行っていただくことにしました。
概要は以下の通りです。
プロジェクト概要
〇テーマ「子どものいる朝食風景」
〇被験者:未就学児がいる子育て家庭7件
〇調査手法:平日の朝食準備~片付けまでを、
リビング&キッチンに設置した
2台のカメラで撮影
事前に食事に関する悩みなどに
ついての簡易アンケート実施
そして出来上がったのが成果物、プロダクト5種です。
そして、この最終成果物が出来上がるまでをドキュメンタリーのように見ていったのがメタプロジェクトです。
3.メタプロジェクト-『アイデア創造』の現場を観察する-
メタプロジェクトとは
実は今回の醍醐味はこちらのメタプロジェクト。
まず実際にアイデア創造が行われるプロセスを動画、slackで記録します。
それを元に、各プロセスで実際に起こっていたことをUCI Lab.がリアルタイム&事後観察して整理しログ化します。
最後にそのログを元に櫛先生・畔柳先生に振り返りインタビューを実施した後、分析していくというものです。
「観察してこそ見えてきたいくつもの発見」
その中で明らかになってきたのは、プロセスをひとつひとつ丁寧にたどると言うこと自体の意味であったりプロジェクトとして進行するために大事な要素であったり。
それは、「先生はどうやっているのですか?」というQ&A形式のインタビューでは出てこないような(あるいは意識していないので敢えて説明することすらされていなかった)ものでした。
でも、私たちはこういったことにこそ「アイデア創造」における重要なカギがあるのではないかと考えます。
これから10回に分けて、「アイデア創造」の現場を観察して
見えてきたポイントをご紹介していきたいと思います。
大石瑶子 プロフィール
UCI Lab.所長補佐(株式会社 YRK and)。
チーム内では「共感する人」として主に定性調査やワークショップを担当。
■全米・日本NLP協会認定マスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー、ワークショップデザイナー、リフレクションカードファシリテーター