有機認証農家はこう見る「みどりの食料システム戦略」

品川区のオーガニック給食批判に絡めて、国が進める「みどりの食料システム戦略」に対する誤解と正確な把握ができてない人が多いので、其の辺をまとめたXでのつぶやきが勉強になるのでぜひnoteにまとめて欲しいという声がありましたのでまとめます。

今回のよもやま話は国が進めるみどりの食料システム戦略です。実はこちらの戦略、等の農家も関心が低く、何を目的とされているかを当時の事情を含めて把握している人が少なく、また有機の部分だけやたらクローズアップされて報道されたために、オーガニックトンデモ勢力に利用されていると感じます。そこでそもそもこの戦略の目的はなにか?を当時の状況から追っていきましょう!


農水省の大目標輸出5兆円

日本は人口減少が著しく食市場が縮むことが確定しているため、農水省は対策として農林水産物(含む加工品)の輸出高を5兆円にするという大目標があります。

輸出先として有力なのが欧州ですが、欧州は欧州以外は締め出すき満々の環境政策を取り基準に満たないものは関税爆上げか輸入禁止みたいにしました。今まで日本食フェアなどで地道に盛り上げてきた投資は無駄になり、日本食市場を失うと5兆円目標は遠くなります。そこで欧州のFARM to FORKの基準に合うようみどりの食料システム戦略を作り、この目標達成するから関税や輸入停止は勘弁してねということを始めますというかやらざるを得ません。
なお、当時のEUの姿勢は作目とか商品ではなく環境保全に取り組まない国のものはすべて環境税を取るみたいな国単位でした。それはすなわち我が国の基幹産業である2次産業を脅かします。ことは1次産業の話だけではなかったのです。逆に言うと国全体の利益のため1次産業に不当に多くの枷がはめられようとしていたわけです

参考 当時のニュース

もっとも現在EU自身が脱炭素自壊し始めてるのは何とも皮肉ですが

欧州の思惑をかわす制度

我が国の優秀な頭脳が揃った霞が関なので、当初より「みどりの食料システム戦略」の数字目標には玉虫色の言葉が散りばめられてました

わかりやすい例としては有機面積とは書いてあるけど有機JAS認証面積とは書いていないとか、我が国の定義をずらせば何とでもなりますし、官僚の得意技です
実際みどりの食料システム戦略当初、農水省から農家に説明がありましたが、この中で農水省職員に
「有機面積とは有機JAS認証の面積か?それとも環境直払いの有機の取り組みや、特別栽培農産物の農薬化学肥料不使用なんかもいれるのか?」
と問い合わせたところ、回答は
「有機JAS認証である」
でしたが、つい先日再度直接農水省に電話して聞いたところでは
「有機の定義は農水省が発表してる有機の定義に合致する面積である」でした

参考資料 農水省有機農業をめぐる事情 令和7年1月版

こちらでは生産者が有機栽培であると宣言していれば有機を満たすことになりますし、環境直払いの有機の取り組みも面積に入ります。当初とは言ってることが変わってますが、対外的な目標達成のための数字なら国内農家に負荷を増やさず達成していけるという意味で非常に良い取り組みです

そんな感じの目標で上手に欧州が狙うブロック経済をかわしながら、ついでに今まであまり農業分野では出せなかったムーンショット研究開発やスマート農業基礎研究にも予算を取ったりしていました

そこに来て戦争だ、コロナだで肥料や燃料高騰も重なり、人手不足もシビアになって肥料対応などの意味でも減肥技術(国内調達)とそれを実行する機械化に予算を割かなければならない状況もあり、みどりの食料システム戦略は予算取りとしては実によく出来た内容になってます

対欧州戦略がオーガニックトンデモを許した失敗

みどりの食料システム戦略最大の失敗はこういった外部環境要因とかを一切説明せず(専門誌の記事などではきちんと書かれてた)オーガニックとかオーガニック給食とかだけがクローズアップされてオーガニック宗教やトンデモ勢力により一般大衆の目に触れてしまったことだと思いますねー。
むしろ大事だったのは進む異常気象や資源枯渇に対応した技術への投資でしたが…こちらを本来マスメディアに報じてほしかったものです。

品川区のオーガニック給食批判にいっちょ噛みしてるインフルエンサー含め外部環境知らずに、オーガニック宗教だからで「みどりの食料システム戦略」を叩く人も出てきてしまってる印象で、有機JAS認証を取得している農家としても認証もなくオーガニックと自称している人たちをただ政治的な活動として推すという現状は残念でなりません。
当時の状況を合わせ読み、みどりの食料システム戦略をとりまく状況を考えたいものです。


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