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馬力と登坂能力
【はじめに】
自転車で坂を登ると平坦な道では考えられないほどの力を要します。
車も同じで坂を登る時には途端に力不足を感じます。
では坂を登る時にどれだけの馬力が必要なのか。
具体的な例で考えてみたいと思います。
【例題】
質量1000kgの自動車が、10度の勾配の路面を100km/hの速度で登坂するには最低何馬力のエンジンが必要か?
但し、空気抵抗や駆動系の抵抗やタイヤの転がり抵抗などの各種抵抗要素は無視する。
【考え方】
エンジンの出力(馬力)は仕事率なので、重量キログラムメートル毎秒(kgf·m/s)が単位としてあります。
まずはこの単位で考えてみましょう。
そして後で馬力に変換します。
この単位は1秒間に何キログラムのものが何メートル持ち上がるかという物差しです。
この場合傾斜が10度なので、sin10°ぶん持ち上がります。
100km/hは使いにくいので、m/sに直します。
100×1000÷60÷60m/sです。
そして車は1000kgなのでこれを全て掛け合わせたものが、このケースの仕事率です。
(1000kg)×(100×1000÷60÷60[m/s])×sin10° が求める仕事率[kgf·m/s]
計算すると約4823.6[kgf·m/s]
あとはこれを馬力に変換するだけです。
1[kgf·m/s]≒0.01333[ps](仏馬力)なので、0.01333をかけるだけです。
計算すると約64.3[ps]になります。
【具体例に当てはめてみる】
車重1000kgくらいの車というと、重い軽自動車かコンパクトカーくらいです。
販売台数の多い軽自動車を考えてみると、アクセル全開で最大出力64[ps]なので、走行抵抗がなくても必ず減速する計算になります。
現実的に10°の坂はあるのでしょうか?
日本の道路は道路構造令という政令に従って作られているので、これを見ると100km/hで走行する道路の勾配は通常3%、特例で6%が最大斜度となっています。
出典:道路構造令 第20条
http://www.mlit.go.jp/road/sign/pdf/kouzourei_2-4.pdf
斜度というのは坂の水平距離に対する垂直距離の比率で、最大斜度6%の場合は、水平100mに対し、6m上昇するという坂を意味します。
6%の斜度はtan^-1(アークタンジェント)で角度に変換することができます。
計算すると約3.4°になります。
先ほどの例の10°と比べるとだいぶ緩いですね。
6%の仕事率を計算すると約22.2[ps]になります。
最大出力64[ps]からすると、1/3強を踏み増さないと速度が低下することになります。
最大斜度は少しやりすぎなので規定値の3%で計算すると約11.1[ps]になります。
この場合1/6強を踏み増さないと速度が低下します。
車が高速道路を走っていて登坂に入るとこれだけの馬力を余分に必要とするわけです。
1/6っていうと17%です。
速度調整のための微弱な操作よりは大きく踏み増す必要があります。
サグで速度が低下して自然渋滞を起こすわけですな。
渋滞に関しては下記のノートを見てください。
【あとがき】
坂道は予想よりも大きなアクセルの踏み込みを必要とします。
下り坂では逆にそれだけ楽に加速するので、速度が出がちになり、ブレーキへの負担が増えます。
学生を乗せたスキーバスの悲惨な事故はエンジンブレーキを活用しなかったのが原因だと言われています。
坂が及ぼす物理的な影響は普通に想像するよりも小さく無いので、登りも下りも油断せずに対応して下さい。