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小さな坂

短く切った髪を風に揺らせながら歩くと、結構気持ちが良かった。線路の上を歩くのは本当は犯罪だけれども、あえて犯罪を犯してみようという気になった。白く波のように揺れるネルシャツも実に心地良かった。 朝の光はとても強く、私の足取りも結構強い。海の方に着くと、そこはコンクリートの黒と海の濃い青と、そして、空の淡い青が渾然一体となって降り注ぐ。私は軽くなった気がした。気持ちとか、体重とか。 麻布のトートバッグからグミを取り出して一口食べる。二口食べる。三口食べる。止まらない。硬くてこれ

    • 短歌②

      火をくれよ 俺の煙草に 灯を やめてくれよ 髭が焼けるよ 舞茸を よく煮て 食べる ガキンチョのころ 嫌いだったわ いま謝るわ 夜中まで 好きなことする お前とは 会わない時間も 波長は一緒 爪と爪 駆使して顎の 髭を抜く ティッシュに生えた 茎と球根 眠いのにまだ眠くない 動画観て ゲームしてから さらに本読む

      • 麻生

        今から適当に文章を書きますので、よく見ててください。登場人物に「麻生」と言わせます。 あなたがサヨナラと言った時、私はオハヨウと言った。あなたはナニイッテルノと言った。私はオハヨウトイッテルノと言った。あなたはワタシハワカレバナシヲシタノと言った。私はワカレバナシッテナンノコト、イマハアサダヨと言った。あなたはアサニワカレバナシシテナニガワルイ、モトハトイエバアンタガワタシノゴヒャクエンダマチョキンヲミギチチノホウキョウニゼンガクツカッタノガワルインジャナイと言った。私はゴ

        • ええなあ〜お盆ええなあ〜と思いながら大阪梅田のど真ん中をスーツ姿でふらへらふらへら歩いていると、なんか見知った顔がおったので、じっと見ておった。 それは確か、あの、あいつだ。マッテングアプリケーションで出逢っちまったあいつだった。 じっと見ておったので、向こうも不穏な視線に気づいたようで、訝しんでふらへらふらへらこちらへ寄って来た。 「なにしとん」 「なにもしとらん、仕事じゃ」 「あんた何もせんのが仕事かね」 「そじゃ、何もせんと人を見るのが仕事じゃ」 「そげに楽な仕事、わし

          読んで欲しい人

          読んで欲しい人が居なくなった。 読んで欲しい人が居なくなった。 居なくなると、俺は何も書くことができない。 何も、期待することができない。 そう言いながら、書いて書いて、期待している。 8月の夜中、私は泣くのだ。 一文字一文字綴るたびに。

          読んで欲しい人

          アイデアに飛びつくとき

          アイデアに飛びつくと失敗する、という題のnoteを読んだ。 なるほど。わかったわかった。 だけどうるせえ。こっちはアイデアだけでやってんだ。アイデアの一本足打法なんだ。軸足を殴ってくんな。痛え痛え。 今もアイデアに飛びつきまくってる。なんなら仕事もアイデア先行でやってる。どうすりゃいいんだ、おりゃあ。 アイデア、アイデア、アイデア。 こっち見んな。アイデアが寄って来ちまう。 痛え、痛え。 殺アイデア剤を身体に満遍なく塗り込んで、論理の林に潜り込む。 アイデアの草木を掻

          アイデアに飛びつくとき

          腸を潰してシュートを撃て

          腸を潰してシュートを撃て ちゃんと自分の世界を愛してあげな ちゃんと愛でてあげな 自分だけのオリジナル世界を熟成しな 2日でも3日でも煮込み続けな 練って練って練ろ 他人と比べるな もうその軸の世界には自分しかいなくていい あなたの海なのだから 読んだ本の量が少なくたっていい 好きだと思っている歌手の曲を必ずしも全て好きでなくたっていい 知っているものの量が少なくたっていい 経験が浅くたっていい あなたはずっと素人なのだから テレビに出ていようが出ていまいが素人なのだから

          腸を潰してシュートを撃て

          『正午、モスクワ郊外』に寄せて

          我々はこの長い道のりを歩いてきた。と言いたいところだが、グラウンドゴルフをしに近所の広場まで出かけていただけだった。 昨日までは雨だったので地面はぬかるんでいた。今日は晴天となった。 幼なじみの四人で一汗かいた後、正午の高い空の下、とぼとぼと歩いて帰る。涼しい風に晒されたススキは、金色に揺れている。 この時間が何にも代えがたく好きなのである。グラウンドゴルフをすることそれ自体が今日の我々の目的といえばそうなのだが、グラウンドゴルフをするための広場から帰る時間がどうしようもなく

          『正午、モスクワ郊外』に寄せて

          夏休み課題「相手の気持ちになること」

          テーマ: 「相手の気持ちになること」について体験をふまえたあなたの考えを800字でまとめよ。 「相手の気持ちになること」、はっきり言えば、それはできない相談です。 それは、相手の気持ちと私の気持ちをハーフアンドハーフのピザみたいに持ち寄って、相手が照り焼きチキンピザで、私はガーリックシュリンプピザだけれども、私の持ってきたガーリックシュリンプを全て生地の上から取っ払って照り焼きチキン一色にしちまうってことなんじゃないですか。 私は照り焼きチキンピザが別に好きでもないし、第一

          夏休み課題「相手の気持ちになること」

          油の憧れ

          寂れた駅前コープの上の3階の化粧品とか婦人服とか薬局が同じフロアにある俺のほかに客のいないコーナーで買った、新品なのか否かも怪しいような、変なクリーム色のフライパンにサラダ油を垂らす。 サラダ油は一度、俺から見てフライパン内の北側の壁面に衝突して砕け、円弧を描いて、全面に進出した。徐々に底面は熱され、油はヒーローショーを最後列で見守る小学三年生の子どものように、ぴょんぴょんと跳ね飛ぶ。あれが見たい、これが見たい、と油も言っているので、見せてあげよう。これが私の食べかけのポテト

          泡の建設

          今日もね、あっつい中、37度だか何だかって天気予報の姉ちゃんは言ってたけど、こりゃ37どころじゃねえ、と思いながら街道を歩いてましてね、仕事から帰ってきまして、扉をガシャンと開けて、すぐ裸になっちまって私は風呂に入ったんです。 きやあー、風呂なんて面倒くせえと思いながら、シャワーの蛇口をひねりましてね、身体から洗い始めるんです。ボデーソープをたっぷり出して、たっぷり出すと生来の「もったいない精神」というやつでしょうか、その精神が働き始めて、「お前、ボデーソープの量で、身体の綺

          抗体

          免疫ってやつがありますわなあ。身体ン中にわざとウイルスを打ち込んで、それでそのウイルスへの耐性を付ける、と。なるほど、言われてみれば、それもそうかという気がしますけれども、これを最初にやった人は大変な冒険家だと思います。だって、病気の素を直接身体に打ち込むわけですからねえ。カレーに味の素を入れてみるのとはワケが違います。 少し記憶を掘り起こしてみると、あれはいつですか、中学校のときか、高校のときか?テトリスみたいに色のついた抗体が、これまたテトリスみたいなウイルスにがっちりハ

          ソルト

          あるレトロな雰囲気のレストランで、数人のスタッフが立ち働いている。テニスコートくらいの大きさの店は、お昼時で繁盛している。男性客が一人でやってきて、ドアベルが鳴る。一人の新人女性店員が応対するところから舞台は始まる。 店員:いらっしゃいませ!何名様でしょうか。 客:えっ、何名様に見えます? 店員:・・・。何名様でしょうか。 客:いやいや、何名ですか?僕が聞きたいんですよ。僕にもわかんないんだから。 店員は困惑の表情を浮かべ、店長のいる厨房の方をちらりと見る。 店員

          虹色

          作るのが大変だし、どうしてもというのであれば、あなたはこれを買うことができるけれども、私としては、あまりオススメはできないなあ。そんなことを言う店員がここに居る。とても気に入ったモノがあるのにも関わらず、私は買うことができない。買ってほしくないなあ、気に入っているし、みたいなことを店員は言うのであった。財布の中には千円札が四枚入っていた。千円札三枚も出せば手に入るであろうそれを、熱った右耳を冷やす秋の空気の中で見つめ続けていた。見つめ続けているのは私だけでなく、店員も同じだっ

          日傘が偶然にも雨傘の役割を果たした、というように

          信号機の横に唐突に現れた温度計が、デジタルフォントで「37.2℃」を示している。僕は日陰になった口角を小さく上げ、人目にはそうと分からないほど薄く、けれど確かに爽やかな笑みを浮かべた。 ビルに囲まれた広い幹線道路は人通りが多く、内心の動揺を気取られてはならない、と思う。 「まあ、おそらく3年前くらいからですかね、日差しが強いなあなんて思った日には折を見て適宜日傘をさしているんですけどね」という顔を作って街を練り歩いてはいるが、手に持った日傘は今日からさし始めていて、家を出る前

          日傘が偶然にも雨傘の役割を果たした、というように

          怪文のような回文

          上から読んでも下から読んでも同じ文章を作った。多少の怪文になった。 *硬いハサミ使う、迂闊、ミサは居たか? (かたいはさみつかううかつみさはいたか) *長い柵越えて掴め、メカってエコ?臭いがな (ながいさくこえてつかめめかってえこくさいがな) *参加型なあ... あなたが監査? (さんかがたなああなたがかんさ) *抱く灯火、決まり次第、大体の位置に。日医の板 偉大だ尻 マキビシも特大。 (いだくともしびきまりしだいだいたいのいちににちいのいたいだいだしりまきびしもとく

          怪文のような回文