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【書籍紹介】リジェネラティブ・リーダーシップ―「再生と創発」を促し、生命力にあふれる人と組織のDNA by ローラ・ストーム, ジャイルズ・ハッチンズ, 小林泰紘 (訳)
「豊かで、持続可能な社会づくりを目標に掲げていたとしても、リーダー自身が内なる生命と調和していなければ、本当に必要な変容は起こっていかない。」
冒頭(訳者まえがき)の言葉です。
実際にリーダー自身が内なる生命と調和する "リーダーシップ" を実践し続けること自体が挑戦となる時代が今なのかもしれません。
この "リジェネラティブ・リーダーシップ―「再生と創発」を促し、生命力にあふれる人と組織のDNA" という本もまた挑戦的です。
課題は
資源の枯渇、職場での高いストレス、予測不可能かつ頻繁に生じる破壊的イノベーション、蔓延する社会格差、絶え間ない人材獲得競争、変動性の増大とステークホルダーの期待の変化、急速のデジタル化とグローバル化、大量の移民と難民の発生、脆弱なサプライチェーン、社会不安の高まり、政治における過激派や急進派の台頭、社会的弱者への差別や暴力、イギリスのEU離脱、トランプ大統領の出現、世界的な債務水準の上昇・・・あげればキリがないですが、こうしたことが次々と波のように押し寄せてきています。
そしてご存知の通り、現在の社会システムが抱えるたくさんの課題の背後から、さらに決定的に押し寄せている波が、予想超える速さで進行している気候変動と、人類史上かつてないペースで失われている生物多様性です。
さまざまな課題は、500年ほど前に始まった 分離・分断 に端を発するそうです。
「人と自然」「男性性と女性性」「内面と外界」「左脳と右脳の意識」
です(詳細はぜひお読みください)。
そしてそれたは繋がっています。
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訳者まえがきによれば、本書のテーマは2つ。
「生命のつながりを取り戻すこと」
「内と外の再統合」
だそうです。
21世紀最大の躍進(ブレイクスルー)は、テクノロジーによるものではなく、人間存在の意味が拡張されることによって起こるだろう。
私たちが大切にしていることは、新たなリーダーシップのパラダイムを提示し、命を吹き込むことです。
これからの時代に必要とされるリーダーシップの在り方やビジネスモデル、協働や価値創造の方法に関する新しい考え方を促すことです。蝶へと変貌していくさなぎのような、メタモルフォーゼ(変態)の時代のさなかに立ち上がる多くの開拓者たちのうねりを刺激し、方向を示し、支えたいと思い、執筆しました。
リジェネレーション とは:
「人と自然」「男性性と女性性」「内面と外界」「左脳と右脳の意識」
これらの分断・分離やアンバランスを統合していくこと。
だそうです。
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機械論(還元的思考=分離・分断)から生命システム論へ(再統合)とも書かれています。
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そしてさらに問いが投げかけられます。
人間という生き物は、地球で一体何をしているのか。
どこに向かおうとしているのか。
p88-90
外的因子(プッシュ) :
変化の大きい大海原で沈没しない+単に生き残るだけでなく躍動する組織に
と
内的因子(プル):
私たち自身の中にある、内面性や在り方、心理的な状態
「リジェネラティブ」とは:
p119
「リジェネラティブ」とは、生命そのものを育み続ける状態を生み出すことです。生命が絶えず生まれ変わり、新たな形態と進化し、変化する環境のなかで繁栄していく状態です。
このことを「生命の繁栄を志向する(ライフ・アファーミング)」と呼んでいますが、これは私たちがまとめた「ロジック・オブ・ライブ(生命の論理)」の第一原則です。
生命 を ど真ん中に据えて、ビジネスを根本からリジェネラティブに変容させる。そんな意志を感じます。挑戦です。
「ビジネスはもはや、お金を動かして権力や富を手に入れるための手段ではなく、時間とリソースと創造力を注いで、大いなる生命に仕えていく営みに変わろうとしています。」
そしてそれは外になる何かを操作コントロールするだけではなく、自分自身を手放し、変容させること。そんな内的な、自身もいける存在であるがゆえの、挑戦でもあります。
それには 1人ひとりが 当事者として問われます。
p122
今こそ1人ひとりが恐れを手放して、新たな実践に自らを開いていくことが問われている。
p123
船を作りたければ、木を切るために人を集めたり、仕事や作業を割り振ったりするな。広大な海への憧れを教えよ。
by アントワーヌ・ド・サン=テグジェペリ
p127 間奏 そして改めて
ビッグバンから振り返ります。
ビッグバン
わたしたちは、もうそこにいました。
〜 46億年を46歳の今までとして振り返ります。
そしてほんの60秒前に産業革命が起こります。そして
わずか数世代の間に、人類は地球の生態系を破壊し、自らが依存している生命維持システムそのものに致命的な傷を与えてきました。「なぜそんな愚かなことをしてしまったんだ」と思う人もいるでしょう。
ですがこれは、分離に伴う副産物であり、自然と人の分離、女性性と男性性の分離、内面と外面の分離、そして右脳と左脳のアンバランスが生み出した結果なのです。
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機械論を脱し、生命システムとしての組織へと変態していくためには、リーダーは分断からつながりへと意識を移行させ、分断から再統合への旅路を歩んでいくことが求められます。その際に必要になるのが、成人発達理論のリーダーシップへの応用です。
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146 問い
どうすれば、私たちは、生命の繁栄を志向するビジネスを集合的(コレクティブ)に営んでいくことができるだろうか?
どうすれば、文明化された現代の暮らしの中で、内なる自然や取り巻く環境とのつながりを取り戻すことができるだろうか?
どうすればいいのか?
生命をど真ん中に置いてアプローチします。
🌟「ロジック・オブ・ライフ(生命の論理)」の原則
①生命志向性(ライフ・アファーミング)」~生命は、生命そのものを育み続ける状態を作り出す
②絶え間ない変化と応答~変化は、生命が本来的に備えた特性である
③関係性と協働~生命は世界との関わりを通じて繁栄する
④多様性とシナジー~多様性は新たな生命の息吹をもたらす
⑤周期とリズム~季節のめぐりは自然の知恵の核心である
⑥エネルギーと物質の流れ~生命は流れ中にある
⑦ 生命システムフィールド~生命は相互につながりあう全体である
深い(詳細はぜひお読みください)。
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リジェネラティブ・リーダーシップのDNAモデル
ロジック・オブ・ライフを生命のDNAにあやかってモデル化しています。
リジェネラティブ・リーダーシップには、様々な学問分野の知見が横断的に活用されています。例えば、複雑系理論やサイバネティックス、発達心理学、システム理論、ホリスティック・サイエンスなどです。何十億年もの進化の過程で磨かれてきた自然界のコミニケーションや協働の知恵を土台に、複雑適応系におけるエネルギーの循環、成人発達理論の組織への応用、システムで生じるフィードバックループの力学といった近年の科学的理論を組みあわせています。こうした領域横断型アプローチを通じ、人の組織も(蟻塚や土中の菌糸ネットワーク、ハチの群れと同じように)、多層に重なり合う大きな生命システムに内包された生命システムであり、人間関係の複雑な絡まりあいを通じて繁栄しているという私たちたち自身を理解するための豊かな視点を得ることができます。
ヒントとして 世界中の伝統や古代の叡智があります
コア・シャーマニズム
あらゆるものはエネルギーから成り立っており、すべてが相互につながりあっている
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DNAを構成する2つは、ライフダイナミクス(生命・発散と収束>創発)とリーダーシップ・ダイナミクス(意識・個と組織>リーダーシップ)です。
🌟ライフダイナミクス 生命の力学
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発散 と 収束 のリズミカルな緊張構造(テンション)によって創発(エマージェンス)が生じます
🌟リーダーシップ・ダイナミクス 意識の力学
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セルフ・アウェアネス と システミック・アウェアネス(>私システムの自覚と私たちシステムの自覚 my解釈)
「出現する未来を感じとる」未来は今ここで展開されており、この瞬間に私たちが世界にどう関わるかにかかっている。アブセンシングからプレゼンシングへ オットー・シャーマー
そして
・生命システムデザイン:(リジェネラティブ・Mind:ビジネスの外面的な身体. my解釈)
・生命システムカルチャー:ハート(リジェネラティブ・Heart:組織の内面的なハートや文化 my解釈)
・生命システムビーイング:(リジェネラティブ・Will:個の心身 my解釈) 3つがDNAモデルの内実です。
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(リジェネラティブでは生命システムビーイングを大切にしています。他は他のビジネス的な書でも扱っているためもあるようです。 Mind,Heart,Will はU理論から引かれています)
生命システムデザイン
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廃棄物は次の栄養へ あらゆる資源は、リサイクル、アップサイクル、リユースされ、バリュー・チェーンへと再び循環させる事が可能な次の栄養であると捉える
理にかなった形状や構造 自然が長い年月をかけて生み出し、検証された姿、形、構造から着想を得る
リジェネラティブ・マテリアル あらゆる設計と資源の調達において、再生的な材料と製品を使用する
バイオフィリック・デザイン 人々が内なる自然や周囲の自然とのつながりを取り戻す
エコシステミック・デザイン ステークホルダーのネットワークに潜在している活力を引き出し、生命繁栄と向かう
私たちはバイオハッキング(自然盗用)ではなく、自然界の本来備えているつながりの環の中に戻っていくための気づきや学びを深めていく必要があります
生命を、むしばむディジェネラティブデザイン→生命繁栄に向かうジェネラティブデザイン(機械論に基づく還元主義的な思考→生命システム論に基づくエコシステミック思考及びアウェアネス(部分最適・サイロ化)→相互のつながり・全体性
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私たちは誰もがデザイナーであり、生命システムに参与しています。
一人一人が意志を持って選択すれば、自分自身が活動するシステムに本来備わっている創造性や関係性への認識を深め、共創の担い手となることができます。
自分自身を消費者としてみなし、無意識の思い込みや、潜在意識の気まぐれ、エゴの衝動、機械的な管理基準、時代遅れの社会的影響などに振り回されるのではなく、今この瞬間にも絶えず展開し、発達し続けるこの豊かな生命システムの担い手として自分自身と出会いなおすことができるのです。
そして、このようなリーダー自身の在り方の変化は、個人や集団に謙虚な応答能力(レスポンシビリティ: 生命の営みを阻害し、搾取し、衰弱させるのではなく、生命の流れ呼応するようにダンスし、より豊かに世界を育んでいく方向に参与していく能力) をもたらします。
進化の"ための"デザインは、進化"を"デザインすることではありません。進化は創発的なプロセスであり、生物とその環境の複数相互作用から生じるものであり 〜
私たちにできる事は、進化を迎え入れるための状態を作り出すことです。
大切な事は、設計から利用、そして新たな生まれ変わりへと連なるあらゆる面において、生命のインテグリティ(全体性)をたたえ、絶えず変化する流れを感受し、呼応していく能力(キャパシティ)を高めていくこと、これがロジックオブライフを礎にしたエコシステミックデザイン思考の核心です。
生命システムカルチャー
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生存と繁栄 ビジネスが繁栄していくための健全な資金循環
ミッション & ムーブメント 組織を超えた大いなる何かへの貢献
発達指向性と尊重 お互いを尊重しながら、自分自身や他者が学び、成長し、発達していくためのスペースの確保 (①フィードバックと共用のための安心安全な場 ②透明性の徹底的な追求 ③誰もが弱さを開示できる ④絶え間ないゆらぎ ⑤失敗の奨励 )
多様性とインクルーシブな文化 背景や視点の違いを尊重し、多様な価値観を受容する企業文化の実現
自己相関化と局所適応 自己組織化を通じた、組織のレジリエンスとアジリティーの解放
エコシステック・ファシリテーション 組織を取り巻くシステム全体への配慮(ケア)と理解
リジェネラティブ・ビジネスの鍵は、健全な収益性を大事にしながらも、事業を取り巻く生態系全体が活き活きとした状態であるかどうかを常に企業哲学の中核にすることです。
>問います。
その意思決定は、生命を育むのか?
それともむしばむのか?
長い目で見たときに、とりまく生態系にどのような影響を及ぼすだろうか?
生命システムビーイング
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リジェネレーションの時代に私たち一人ひとりがいかに世界に参与していくのか
プレゼンス 内なる自己(内なる自然)及び他者や世界(外界の自然)との深い関係を育む (内なる超自然性 私たちは誰もが生きることを通じて世界を想像しています)
一貫性(コヒーレンス) 自分にとっての真実と調和した在り方及び内なる導きに従って行動する
待つ 生命の本質が立ち現れていくことを心穏やかに待つ態度。物事に対して衝動的に反応・判断したり、自己防衛をしたり、何かを無理やり為そうとすることを手放す
静けさ 静寂の中に身を委ね、自身や周囲との内なるつながりを養う
豊かさ アバンダンス 満ち溢れる世界の可能性に自らをひらき、好奇心や創造性、慈愛(コンパッション)を持って生命の豊かさの中に生きる心の器を育む (どのように応答していくのか)足るを知る
ダンス 変化を楽しむ遊び心や季節の巡り、創発、深淵さに溢れた生命世界のリズムと呼応する
プレゼンスとダンスが肝と思いました。
p336
上なるものは下の如く、下なるものは上の如く。
内なるものは外の如く、外なるものは内の如く。
宇宙は魂の如く、魂は宇宙の如く。
by ヘルメス・トリスメギストス
実践編
生命搾取型(ディジェネラティブ)ビジネスから
生命再生型(リジェネラティブ)ビジネスへ
集団の10%が振る舞いを変えるだけで、システム全体が変容しはじめることがティッピング・ポイントの研究で証明されています
システム変容のためのノウハウ・ツールが提供されています。
・DNA診断ホイール
・エコシステミック・マッピング
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あなたを取り巻く生命システムが持つ、溢れだすほどの生命力や可能性や変化を解き放っていくつツボはどこにあるでしょうか。どうすれば本当の意味で生命の繁栄を指向していくシステムヘと変容していけるでしょうか?
ワークとして取り組んでみると、鏡のように自身に気づくことができました!
🌟道具箱
個人編
ジャーナリング
静けさの確保
ディープリスニング
心のプレゼンス(心の呼吸 心の同調)
ボディスキャン
自然への感性を開く 木など
組織編
会話における静けさの習慣
建設的なフィードバック
未来からの洞察を深めるフューチャーバック
ダイアローグによる問いと応答
ウェイ・オブ・カウンシル トーキングピース
ストーリーカフェとワールドカフェ
オープン・スペース・テクノロジーOST
スウォーム
最も重要な自由とは、あなたが真の自分でいるということです。役職と引き換えに本当の自分を偽り、うわべの行為と引き換えに感性を失い、感じることを諦めて、マスクをかぶっている場合ではありません。外側の世界での大いなる革命は、個人の革命なしには起こりえないのです。内側から発生しなければなりません。
ジム・モリソン
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(章間は美しくアーティスティックで生命的な写真がふんだんに使われています。)
訳者あとがき
中間とは決して中庸ということではなく、逆に物事が速度を増す場所なのだ。事物のあいだとは〜はじめもおわりもなく、両岸を侵食し、真ん中で速度を増す流れなのだ。
by ドゥルーズ・ガタリ
これを読んだときに、本書に書かれている創発の川ーライフダイナミクスにおける発散と収束のあいだを流れる川ーを思い出しました。流れに委ねるとは、ただコントロールを手放して、ゆっくり進むことではありません。混沌(発散)と秩序(収束)を往来しながら、急がずにゆったりと構えて、生命の流れに委ねることで、逆に物事の速度が増す「あいだ」の場所へと入っていくことなのです。逆に言えば「手放して委ねている」だけでは、流れが滞ってしまう可能性があります。そう、やはり生命システムビーイングの「ダンス」が不可欠なのです。
そうした創発の流れを体験すると、先に書いた「わからなさや混沌の中で立ちあがっていく、創発的な生命世界への「確固たる信頼」を育む大きな契機となります。その信頼を含めれば、人と人、人と自然、場やシステムへの関わり方を生命システム論のパラダイムへと転換していく実践の旅路に、勇気を持って踏みだしていきやすくなるのではないでしょうか。
関連情報
ローラ TED
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https://youtu.be/gOAse2G_nmE?si=TMt5tKTw4KUTLjnI
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英治出版
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読後感:
生命、ビジネス、内面外面、システム、ホリスティック・・・様々なことを網羅しようとしているので、幹が見えなくなりがちな印象も若干ありました。一方で実践面は、実際にはまさに生きたセッションとなるでしょうから、メソッドにしづらい面もあるだろうと思います。
とはいえ、生命をど真ん中において、人類史の規模間で分離・分断を再統合する方法論を創造しようという、まさにリジェネラティブな挑戦と思います。
そこかしこに叡智が散りばめられていました(^ ^)
著者や訳者のお子さんたちが書かせたのかもしれませんね。
執筆に感謝いたします m(_ _)m
自分でも挑戦してみようと思います。
※英治出版の読者モニタープログラムにより無料で書籍を受け取りました。このサイトにレビューを書くよう求められてはおらず、上記はあくまでも個人としての見解です。