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ヨーロッパの歌劇場巡り
1.フェニーチェ歌劇場(Teatro La Fenice)
見出しの写真は、イタリア・ヴェネチアのフェニーチェ歌劇場(Teatro La Fenice)です。1836年と1996年に大火に見舞われたそうですが、フェニックス(fenice)のように見事に甦った劇場です。
内装は思わず息を呑むほどの美しさで、自分がこんなところにいていいのだろうかと、思わず身震いするほどでした。
この劇場の特徴は、アクセスが徒歩かゴンドラしかないということです。どんなセレブでも、豪華なリムジンで乗りつけることはできないわけです。ほとんどの人が徒歩で狭い迷路のような路地を歩いて劇場を目指します。この島は車、バイク、自転車は禁止です。
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劇場のファサードはそれほど華やかではないですが、それとは打って変わって内部の華麗さは、ヴェネチアが全盛期にいかに繁栄していたかを物語っています。
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ここでオペラの大型舞台装置などは、どのように搬入するのだろうとふと疑問が湧いたのですが、それは水運でするそうです。劇場の搬入口が運河に面しているのも、おそらくフェニーチェ歌劇場だけでしょう。
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2.ウィーン国立歌劇場(Wiener Staatsoper)
ハプスブルク帝国の首都ウィーンの歌劇場ですから、帝国の威信をかけて建築されたオペラハウスですが、第2次世界大戦では甚大な被害を受けました。しかし、1955年に観客席2200名の劇場が現在の姿で再開されました。
1869年のこけら落しには、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世と皇妃エリザベートが出席されたという歴史ある歌劇場です。
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昼間の歌劇場の入口は、華やいだ雰囲気はありませんが、中ではリハーサルが進行中かもしれません。
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でも夜は雰囲気が別世界のようにガラリと変わります。建物のライティングも素晴らしいですね。
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この歌劇場は、19世紀の半ばに大規模に行われたウィーンの都市大改造の一環として建設されました。当時のウィーンに残っていた城壁を取り壊して、跡地を広いリング大通りにするなど、計画的に都市を整備・改造したわけです。
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ウィーン国立歌劇場は、フェニーチェ歌劇場と違って正面にリムジンで乗り付けることができます。ほとんどの人はタクシーかトラムで来ることになります。
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007シリーズやミッション・インポッシブルなどの映画で、ロイヤルボックス席の要人の暗殺を狙う場面が出てきます。貴賓席は、舞台の真正面で音響も良さそうですが、狙われやすい位置ですね。
ボックス席はほぼ個室のような席ですから、2列目や3列目であれば、周囲からほとんど見えなくて、好きなことなんでもできますね。それが貴族やお金持ちの人の楽しみなのでしょうか。もちろん、ボックス席を使う方がみんな、そんなことをやるわけではありません。
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オーケストラ・ピットは、文字通りほら穴(pit)のように深くて、演奏だけが聞こえてきて、客席からはその存在を忘れるような構造ですね。
オペラ歌手の歌声を観客に聴かせるために、オケを一段低い場所に置くという発想を最初に考えた人は、誰でしょうね。おそらくイタリア人でしょうか。
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オペラが始まる前は、緞帳(どんちょう)が降りていますが、これが防火の役割を果たしているのです。昔は舞台でガス灯やロウソクが照明に使われ、火災に見舞われたことがあったそうで、万一火災が舞台で発生しても、この鉄のカーテンと呼ばれる緞帳を下ろして、観客席に火が及ばないようにしたそうです。
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3.ウィーン楽友協会(Wiener Musikverein)
言うまでもなく、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地です。毎年正月に世界に中継されるウィーンフィル・ニューイヤーコンサートで有名ですが、協会主催のコンサートでは、ウィーン放送交響楽団のコンサートもかなり開催されています。
幸運にもオーストリア出身のフランツ・ウェルザー=メスト指揮のウィーンフィルのチケットが手に入ったので、スーツを着て出かけました。
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観客の髪の毛の色を見ると、ある程度客層がわかるのですが、地元の人が、それも年配の方がかなりの割合を占めているようでした。私のようなアジア系の一見さん観光客は少数派でした。
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このボックス席(partere logen)の1列目の座席からは、こんなふうにステージや客席が見えます。2列目と3列目までの座席がボックス席内にあります。椅子はフロアー席の固定式と違って、ダイニングチェアーのように動かせるのがいい点です。
はっきり言いますが、フロアーの座席からは当然ステージが正面に見えますが、脇のボックス席は2列目、3列目だとどの席も、ステージが見えづらいか全く見えません。
ステージがあまり見えないような座席では、音楽を十分に味わうことができないのではないか、と素人ながらに思うわけです。音だけ聞こえれば十分という考えなのでしょうか。
この疑問について少し納得したことがあります。
休憩時間に、ロビーのカフェ「ゲルストナー」で、ある二人の年配の男性に私は注目していました。二人はワインを飲みながら、音楽や世間話に花咲かせてる様子でした。
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後半の演奏が終わってゆっくりと劇場出口に向かっていたとき偶然、その二人の男性が私の前を歩いていたのです。
二人は別れ際に「来週も来る?」「来るよ。また会いましょう」というような会話をして別れました。おそらく音楽鑑賞もさることながら、楽友協会で会って話をすることが、彼らにとっては社交の一部になっているのだと感じました。二人は毎週通うことができる名誉会員のような人でしょうか。
毎週のように通って、知り合いと顔を合わせて付き合っていくのが大切であり、ステージがはっきり見える座席かどうかはそれほど重要ではないのではないでしょうか。
映画の中でも、着飾った貴族が歌劇場のゴンドラ席からオペラグラスで、向かい側のゴンドラ席の人を見ながら噂話をしたり、美人を探したりする場面が出てきますね。
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私は毎年2月に、ウィーン楽友協会のHPから12/30、31のコンサートも含めてニューイヤーコンサートのチケットの抽選を申し込んでいるのですが、ある事情通の知り合いから、死ぬまでに1回当たれば極めてラッキーだと言われました。誰か当たった人、いるのでしょうか。