芸術家 フンデルトヴァッサーを知っていますか?
黄金に光輝くネギ坊主のような煙突の建物は、いったい何でしょう?
答えは、オーストリアのウィーンにある「シュピッテラウ焼却場」です。デザインしたのは、フンデルトヴァッサーです。
フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー(1928ー2000)は、ウィーン生まれの建築家・画家です。また環境保護活動家としても活躍しました。
型破りな色彩、奇想天外なデザインなど、見る人をアッと言わせる作品ばかりですが、実は、自然からインスピレーションを受け、自然に溶け込もうという思想が根底にあったと言われています。
サクラダ・ファミリアで有名なスペインの芸術家ガウディの影響も受けていると言われています。
日本人の奥様を持つ彼は日本文化を愛し、百水という雅号を持っていて、浮世絵など日本文化に深い関心を持っていました。ドイツ語でフンデルトは「100」、「ヴァサー」は水を表します。
実は、大阪に3つも彼の作品があります。
1.舞洲工場(大阪市)
関西の方には「舞洲工場」(大阪広域環境施設組合舞洲工場)をデザインした芸術家として、フンデルトヴァッサーが馴染みがあるでしょう。
自然界には、定規で引いたような直線は存在しない、全く同一の物も存在しない、という考えから、小学生が手書きで画用紙に書いたような印象を受けるゴミ焼却施設ですね。
建物の周囲にはできるだけ、緑を配置して一体化を図るように設計されているとのこと、さらには自然に溶け込めるように、外壁に補修なども行わないという哲学だそうです。
舞洲は、今話題の大阪万博会場のある夢洲の隣ですから、もし万博見学に行かれた方は、ちょっと足を伸ばして、フンデルトヴァッサーの舞洲工場を見学されてはいかがでしょうか。
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大阪広域環境施設組合 舞洲工場
〒554-0041 大阪府大阪市此花区北港白津1丁目2−48
②
舞洲工場のそばにある下水汚泥処理場「舞洲スラッジセンター」のデザインもフンデルトヴァッサーのものです。赤は燃える炎、煙突の青は大阪湾の海と空の青をデザインしているのだそうです。建物内部の見学は事前予約が必要です。HPでご確認ください。
舞洲スラッジセンター
③
もう一つ、フンデルトヴァッサー作品が体験できる施設があります。大阪の扇町駅近くにある「キッズプラザ大阪」です。お子様がフンデルトヴァッサーの作品の中で楽しく遊べる施設です。
キッズプラザ大阪
2.シュピッテラウ焼却場(オーストリア ウィーン)
Fernheizwerk Spittelau
これを初めて見た時、美しい音楽の都ウィーンで、子どもの落書きでデザインされたような奇抜な建物が、よくも受け入れられたなあと感心しました。
しかし、デザインした芸術家フンデルトヴァッサーの考えを知るにつれて、むしろこの方が、地球環境に配慮した都市政策を実行しているウィーンには、ふさわしいのではないかと思うようになりました。
以前に使われていたごみ焼却施設は、1987年に火災が発生して破壊されてしまったそうです。そこで当時のウィーン市長ヘルムート・ツィルクが新たなデザインをフンデルトヴァッサーに依頼しました。
フンデルトヴァッサーは、環境に安全な最新のテクノロジーのみを用いるという条件で引き受け、1992年に完成しました。
美術の授業で小学生が、100年後の未来都市を想像して画用紙に描いてみましょう、と言われて描いた絵が現実になったような建造物ですね。
フンデルトヴァッサーは、一つ一つのデザインに何かしらの意味を込めていると言われています。
このエネルギー博物館によると、シュピッテラウ焼却場は、最新のテクノロジーを採用しており、地域へ発電や熱供給なども行っているとのこと。焼却熱によりウィーンの約5万世帯の電気、6万世帯の温熱を賄っているというから驚きです。
3.クンストハウス・ウィーン(オーストリア)
フンデルトヴァッサーの生まれ故郷ウィーンには彼の美術館があります。美術館内では彼の作品が常設展示されています。
美術館から徒歩5分ぐらいのところには、彼のデザインによるウィーン市営の集合住宅「フンデルトヴァッサーハウス」もありますので、合わせて見てみましょう。
美術館の中の展示を見て歩くと、彼の美術的な思想ばかりでなく、建築、芸術とエコロジーを融合させて、人間がどんな生き方を追求していくべきなのか、ということを提案され突きつけられている気がしました。
フンデルトヴァッサーは、芸術家や環境活動家といった呼び方では捉えきれない人であり、ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチのような多面的な能力の持ち主として、もっと評価されてもいいと思います。
美術館が、街の中心にあって自然のオアシスであるべきだというのが彼の考えだそうす。元々は閉鎖されていた家具工場だった建物を引き継いで、美術館として修復して、1991年に開館しました。これも建物の再利用ですね。
1階には、カフェ・フリードリッヒがあり、ドリンク類も料理もお手頃に楽しむことができます。
カフェ・フリードリッヒを出ると、クンストハウスの入り口の反対側になります。まっすぐ進んで、青紫色の門を抜けると、道路の向こうにドナウ川が流れているのですが、木々に隠れて見えませんでした。
4.フンデルトヴァッサーハウス(オーストリア)
フンデルトヴァッサーハウスは、ウィーンの市営集合住宅で、一般の住民が生活されていますので、内部の見学はできませんが、外観と中庭を見学することができます。十分に配慮をしながら見学しましょう。
彼の考えの中で、私の興味を引いたのは、「自然界には定規で引いたような一直線は存在しないし、真っ平な床も存在しない。それは機械が作り出すものだから、人間のための床はうねっていなければならない」ということです。ですから、彼の作品は、壁や床も曲線を多用したデザインになっています。
この集合住宅内には、プレイルームや温室、レストラン、診療所など様々な施設が入っています。
子供たちが自然と遊びたくなるような空間ですね。建物と公園が一体化しています。
ドラえもんで、のび太たちが遊ぶ空き地にドカンが並んでる風景を思い出してしまいました。
フンデルトヴァッサーのような、ちょっと見ると周囲から浮いてしまうようなデザインには、違和感を持つ人も多いと思いますが、斬新な建築物が登場した時は、どうしても異議を唱えられがちです。
でもどうでしょう。パリのエッフェル塔が登場した時も、パリに似合わないという声が上がったそうです。パリにしてもウィーンにしても伝統ある都市ほど、新しいものを受け入れるだけの度量や寛容さがあるのではないでしょうか。
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