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【映画感想】『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』で白ひげ(ONE PIECE)を発見!?

★★★
世界屈指の名作『ロード・オブ・ザ・リング』の前日譚(感覚としては一昨日譚くらい)となる本作は、『攻殻機動隊』などで知られる監督・神山健治さんが日本アニメの底力を世界に知らしめようと奮闘し格闘し生み出した素晴らしい作品だったと思う。ただどうしても個人的にはあのキャラクターのあの描写があまりにも気になってしまい・・・なんだか笑いがこみ上げてくるのでした。

※本記事では実写版のロード・オブ・ザ・リング『旅の仲間(正確には無題)』『二つの塔』『王の帰還』を本家3部作と称しています。

あらすじ

偉大な王ヘルムに護られ、騎士の国ローハンの人々は平和に暮らしていた。だが、突然の攻撃を受け、美しい国が崩壊していく…。王国滅亡の危機に立ち向かう、ヘルム王の娘である若き王女へラ。最大の敵となるのは、かつてヘラと共に育ち、彼女に想いを寄せていた幼馴染のウルフだった。大鷲が空を舞い、ムマキルは暴走、オークが現れ、金色の指輪を集める“何者”かが暗躍し、白のサルマンが登場…。果たしてヘラは、誇り高き騎士の国と民の未来を救えるのか――!?

映画『ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い』公式サイト

作品情報

『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』
原作:J・R・R・トールキン
監督:神山健治
出演:ブライアン・コックス, ガイア・ワイズ, ルーク・パスクァリーノ ほか
上映時間:134分
日本公開:2024年12月27日

以下、ネタバレを含みます。

▶ちゃんとロード・オブ・ザ・リング!

主人公・王女ヘラ
ワーナー ブラザース 公式チャンネル(YouTube)より

映画冒頭、真っ暗な画面に「ロード・オブ・ザ・リング」で聞き覚えのある楽曲が流れ、女性のナレーション(調べると本家3部作にもエオウィン役として出演していたミランダ・オットさんなんだとか)で物語りへと心地よくかつ仰々しく誘われていく。

画面にはいつものように地図が映し出されたかと思うと、実写と見紛うほどの雪山へと変化し(この流れは逆だったかもしれません)、草原を滑空する映像に2羽の大鷲が優雅に翼を羽ばたかせていく。

この、なんというか、言い得ぬ"荘厳さ”が、いかにもロード・オブ・ザ・リングらしく、ニュージーランドの壮大な自然を舞台に、重厚な神話を語るという気迫が、この作品からも充分に伝わってきてまずは胸が高鳴る。10数年前、初めて映画館で『ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間』を見たときの興奮が久しぶりに(程度の差こそあれ)蘇ったような感覚があった。

正直に言うと、物語はあまり本家3部作とは繋がっていない。『二つの塔』から登場する王国ローハンにおける200年ほど前の跡継ぎ争いが描かれていて、ロード・オブ・ザ・リングらしい「エルフ」とか「ドワーフ」とか「魔法使い」を想像していくと、少し拍子抜けする感は否めない。登場するのは、ほとんど人間ばかりだ。

ただそうは言っても、さすがは原作J・R・R・トールキン。人間の描写に一貫性があって、作中の言葉を借りるならば「絶望」に身を滅ぼす人間の性が目を背けたくなるほど残酷に描かれている。

主人公ヘラと敵対する幼なじみのウルフ
ワーナー ブラザース 公式チャンネル(YouTube)より

主人公である王女ヘラと敵対することになる青年・ウルフ。彼はヘラに求婚するが断られ、その夜に父を殺されてしまう。たった一夜にして大切な人を、大切な”繋がり”を失ったウルフは、絶望に駆られ復讐に取り憑かれ、ヘラへと戦争を仕掛けることになる。

個人的にはこのウルフからヘラへの求婚が、政略的なもののようにも見えるし、本心からの愛にも見えることが、物語を苦しくしていて素晴らしいと感じた。ウルフは終盤、ヘラに向かって「ひと目見たときから、お前は俺の"運命”だと感じていた」(記憶頼りなので微妙な違いはお許しください)と語る。

悲しいかな、きっとこれが彼の本音なのではないか。複雑な意味での”片想い”。そこには、恋心も、ライバル心も、出世欲も、羞恥心も、あらゆる感情が横たわっているような気がして、さすがは『指輪物語』だなと唸ってしまう。人間の、目を背けたくなるような、弱さや醜さや苦しさをロード・オブ・ザ・リングは本当に巧みに描いてみせる。

そして、その複雑な心境を見事にアニメーションとして描ききった神山さんをはじめとする制作チームは本当に素晴らしいと思う。あまりにも傑作すぎる本家3部作と比べてどうという話ではなく、ちゃんと『指輪物語』が描こうとする人間の性に、本作は果敢に挑戦していたと僕は感じた。

最後には実写版ファンも嬉しい魔法使い・サルマンが登場するというサービスもあったりして。

本家3部作でおなじみの魔法使いサルマン
ワーナー ブラザース 公式チャンネル(YouTube)より

▶アニメらしいスケールで

言わずもがなではあるが、本家3部作は実写映画では破格のスケールと描写力をもって、『指輪物語』の想像を絶するような世界観を見事に映画として結実させていた。小学生の頃に、初めて映画館で本家3部作を観たときには本当に圧倒されて、多少なりとも人生観を変えるような衝撃があったと僕は思ってる。

今回の作品では、アニメーションとして、『指輪物語』の世界観やスケールをどう表現するか、という難問に苦悶した軌跡が画面から伝わってくるような気がした。例えば、それは"動物”の表現にあらわれる。

劇中では、巨大なゾウ、それを食らうさらに巨大なタコ、主人公たちの救世主となる巨大な鷲と、とにかく巨大な動物がたくさん登場してくる。さながら「メガ・シャーク」の様相を呈していないでもないけれど、そこを物語の世界観のなかに描き生命を吹き込むのが、さすが日本アニメの真骨頂だというようにも思う。

巨大なゾウがとにかく暴れる
ワーナー ブラザース 公式チャンネル(YouTube)より
まるで『メガ・ゾウ VS ジャイアント・オクトパス』
ワーナー ブラザース 公式チャンネル(YouTube)より

荒れ狂うゾウには身を震わすような恐怖を、襲いかかるタコには混乱するような意味のわからなさを、崇高に舞う鷲には心からの敬意を、僕はちゃんと感じた。きっとこれはCGではなせない質感だと思う。リアルではない、だからこそリアルなのだという日本アニメの(ある意味での)”不気味の谷”的なリアリティを垣間見たような気がする。

冒頭のシーン、鷲のデカさにまずはびっくり
ワーナー ブラザース 公式チャンネル(YouTube)より

▶…白ひげ、ですよね?

で、だ。こうした『指輪物語』ならではの世界観やスケールが、ともするとコミカルにすら感じてしまう瞬間があった。それが、ONE PIECEに登場する白ひげ(らしき最強キャラクター)の存在だ。

ローハンの白ひげこと、偉大なヘルム王
ワーナー ブラザース 公式チャンネル(YouTube)より

その人物とは、舞台となる騎士の国ローハンの偉大な王ヘルム。槌手王という二つ名をもつヘルムは、物語の後半、寝室から抜け道を通って夜な夜なウルフ軍の野営地に奇襲をかけ、ひとり、またひとりと敵を惨殺していく。しかも素手で。敵の矢を受けて瀕死になっていたはずのヘルムの復活と最強すぎる戦い方に、ウルフ軍の兵士たちは次々と前線からの撤退を希望し、恐怖に慄いていく。

(おそらく)何日かそうした奇襲が続いたある日、抜け道を見つけて野営地へと迷い込んだ王女ヘラを救うために、ヘルムは娘だけを逃がし、自らは堅く閉ざされた門の前に立ちはだかり、「俺がここに立ち続けるかぎり、ローハンは負けることはない」とあまりにもかっこいい名言を叫ぶ。

それまでは、なんだか偉そうな王様だと思っていたのに。人の話を聞かない、自滅していく愚かな王様だと思っていたのに。突然あらわれるバチイケおじさんヘルムの勇姿こそ、きっと『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』で一番の見所だったと思う。白く蓄えられた豊かな髭。それはまさにONE PIECEの白ひげではないか!!「おやじ~」とエースでなくとも涙が出てくる。

強さランキング1位のヘルム
ワーナー ブラザース 公式チャンネル(YouTube)より

極めつけはその最期。門の前でウルフ兵を皆殺しにしていくヘルムだが、多勢に無勢、さすがに最期は力尽きてしまったようだ。しかし、その死に様が本当に白ひげ。「魂も膝も屈することな」く、立ったまま、剣を高々と掲げて、凍った姿で死んでいる。背中に傷はない。逃げ傷はゼロ。まさに白ひげ!!

王の威厳を誇示し、娘を守る父親の優しさが垣間見えるすごくかっこいいシーンのはず、なのに、僕はどうしても白ひげにしか見えずにツッコみたくなる気持ちが先行してしまった…。そんな邪な目で映画を観てはいけないと思いつつ、皆さんも観たらわかります、絶対に「白ひげだ!!」って目を見開いてしまうと思いますので…笑

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