平手友梨奈が打った”脱退”という終止符に誰も文句は言わないよなという話。
彼女の生き生きとした表情に魅せられたことを、この先ずっと忘れないだろう。
当時私は高校生だった。年下の14歳かそこらの女の子がアイドルという夢をつかみ、表現することの楽しさや、喜びを体いっぱいに溢れさせていた。それはあまりに美しく、純朴で、本当に見ていて清々しい程だった。初々しさの中に孕んだ本音や希望、透明な彼女の魅力に心奪われた。ここから先、どこまでも飛んでいける、そんな予感さえ感じていた。
あの年頃の子達が、「君は君らしく生きていく自由があるんだ 大人たち支配されるな」 と、歌い、精一杯隊列を整え感情をのせ伝えようとしていること。それ自体にすごく意味があるように思えた。初めてMVを見た時、私は泣いた。大人に言われるよりよっぽど響いてしまったからだ。それが策略であってもいい。彼女達が咀嚼し、口にすることでその意味が何倍にもなるのだった。
あまりに辛辣で芯を食ったことを、デビュー当時からやってきたことは明白だろう。『真っ白なものは汚したくなる』なんてアルバムタイトル、どう考えたっておかしい。ダークが過ぎる。あんなに澄んだ心の女の子たちが背負うなんて、あまりに重く残酷なこと。それ故に響いてくるのも皮肉だよな……。そこをパブリックイメージとして形づけたことが他のアイドルとの差別化で、欅坂46としてのブランドを構築する上で重要だったのは理解出来る。しかし、それはリアルすぎて、本音すぎて、隠したくなるような感情を具現化したようなこと。それもまたメディアによってより強化され欅坂46は形作られていく。耐えきれるのかなという疑念は当時から私の頭をよぎっていた。
今でさえ、そういったパブリックイメージの中でお茶の間に浸透し、絶対的センターとして知られる平手友梨奈。私は彼女が汚されていくことが、見るに絶えなかった。可哀想とも思った。なぜなら、彼女だって思春期真っ只中の女の子であるからだ。隠しきれるはずもないだろう。もう限界ということが露出の度に伝わってくる。デビュー当時から今の今まで、センター、エース、表現者 。そんなレッテルというか、代名詞の中で彼女は歩を進めてきた。それは、彼女が本当に凄い人だからこそ賞賛され、取り上げられ、有名になり、加速していくもの。現に、リリースの度に表現の幅は広がり、プロに相応しいパフォーマンスで幾度となくこちらの期待に応えてきただろう。メディアもこぞって取り上げる。そしてまたハードルが上がり、超えることのプレッシャーを隠しきることができなくなる。そこをまたメディアは写し取ってしまう。欅坂46に加え、平手友梨奈のコンテンツ化が進んでいくばかりであった。
あくまで私の意見として聞いてほしい。
私は彼女が死んでいくように見えた。
回を重ねる毎に、もう限界だということがひしと伝わってくる。選抜されても不明瞭な表情をいつもしていて。様子がおかしい中ギリギリの瀬戸際を走ってきた。「不協和音」は1番顕著にそれが出ていただろう。皮肉なことに、限界と比例して凄みを増し、パフォーマンスも並外れた仕上がりだった。平手友梨奈の才能をさらに感じさせられる。メディアはそれを放ってはおけない。その繰り返しで今日脱退の報せまで彼女は磨り減り続けたのだ。普通、ダイヤモンドは磨けば磨くだけ光る。しかしながら、光りながらも彼女は質量を失った。みんな気づいていたのに。なんならもっとはやく綺麗な形で終わらせてあげたかったと、個人的には強く思う。
傷口を見ているようで、本当に見ていられなかった。昨年の紅白歌合戦、一昨年よりも残酷に見えたのは私だけではないだろう。アイドルのパフォーマンスを見ていて、「大丈夫?」と口から出たのは、初めての経験だったので非常に鮮明に覚えている。
「僕は嫌だ」
生き血を流しながら凄まじい芸術を産んでいた。その特異的な芸術はもちろん素晴らしかったし、後にも先にも彼女しかやり得ないパフォーマンスだった。微かに聞こえた内村さんとの会話。私はまた目に涙を溜めていた。やり切った彼女が誇らしく思えた。もうここまでよくやったよ、終わらせてあげてよ。そんなことが胸にフツフツと湧いてくる。ひとりの女の子をここまでさせることになんの意味があるのだろうか。普通なら思うはずのない感情でいっぱいになった。そしてあの夜のことをこぞってメディアは取り上げる。 賛美として。もうやめてあげて欲しかった。
今日彼女が打った “脱退” という終止符。ショックというより、今までよく頑張ったと心から褒めてあげたくなった。抱きしめてあげたくなった。パブリックイメージの平手友梨奈で平手友梨奈を生き抜き、全うした彼女に盛大な拍手を送りたい。
心から、素晴らしいパフォーマンスをありがとう。
貴方が、生き生きと、はつらつと生きていけたアイドルシーンで、唯一無二の存在となり、その中で生きていく場所を失ったことが悔やまれる。自分で終止符を打ったこと、あなたの美学に花を。貴方を責めるファンは誰一人いません。
私は、二人セゾンの貴方の豊かな表情を忘れない。たくさんの感情を、衝動を、気づきをありがとう。
欅坂46の平手友梨奈を全うした彼女に、感謝と尊敬を捧げます。
貴方は紛れもなく素晴らしいアイドルでした。