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愛の総量が増えてゆく。
家族が増えた。
50過ぎて妊娠したわけではない。
犬が我が家にやってきたのだ。
実家で飼っていた犬を
我が家で引き取ることになった。
九州の実家から我が家まで
1,000キロを超える旅路を
彼は陸路でやってきた。
すでに10年を超える老犬の柴。
飛行機による輸送は体力的に
非常に不安があった。
調べてみれば
車で輸送してくれる専門の業者さんがいる。
費用はかさむが、致し方ない。
年が明けてまだ間もないある日の深夜1時、
彼はランドクルーザーに乗り、
我が家にやってきた。
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もともと犬を飼うつもりはなかった。
日々の高齢育児や家事で、
もはや体力は使い果たしてしまっている。
これ以上、ルーティンが増えるなんて
とんでもない話だ。
だが今回はさすがに見捨てることができず、
半ば強制的に飼う羽目になった。
彼が来て実際、食事の給仕や散歩、
とにかくやることがめっぽう増えた。
それらが面倒くさいとも思う。
だが、これはあんまり言いたくはないのだが、
予想以上と言おうか、
想定していた以上に、
彼はすごくすごく可愛いかった。
なんなんだ?
この溶けるような可愛さは。
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あまりの可愛さに、
朝から晩まで「かわいいねえ」を
連呼する日々。
とうとう我々は一緒に旅をしてみたくなり、
先日、犬と同泊できる軽井沢の宿へ
喜び勇んで行ってしまった。
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犬も泊まれるホテルというところに
泊まったのは、人生初だ。
同じ宿に泊まっていた
ワンちゃんの飼い主たちは、
みな完全にじぶんちの飼い犬に溶けていた。
溶けている我々から見ても
ものすごくドロドロに溶けていた。
気持ちはわかるが、あれは溶けすぎだろう。
そう夫婦で話した。そして
「ねえ?あなたもそう思うよねえ?」
と我が家の犬に私は顔をくっつけ、
スリスリした。
犬はちょっと迷惑そうな顔をした。
こういうのをいわゆる
“ドングリの背比べ”と言うのだな、きっと。
と、冷静な自分もちゃんとまだいる。
彼のおかげで、
家族の会話の総量は増えた。
笑いの総量も増えた。
今度はどこに行こう?という
未来への楽しみも増えた。
愛の総量がどんどん増えてゆく。
我が家に来てくれてありがとう、
今は心から言いたい。
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ちなみに私の名前を「Yu_ma」としたのは
私の氏名に「ゆ」と「ま」が
含まれているから、という理由もあるが
彼の血統証明書に書かれた正式な名前が
「悠真(ゆうま)号」だと知ったから、
という理由が決定打になったのは、
言うまでもない。