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不思議な魅力を持った映画を観ながらウトウトするのは非常に気持ちが良い「ファースト・カウ」

最初に映るのは大きな河、あるいは湖だろうか、向こう岸が遠くに見える水の上、
かなり大きな船が画面の左側からゆっくりとフレームインして来て、右側へゆっくりと進んで行く。
右側にゆっくりと進んで行き、船体の半分ほどが画面右側にフレームアウトした辺りで次のショット(地面を嗅ぎまわる犬のショット)に切り替わるのだが、こののんびりした時間の進み方がこの映画のリズムなので、観ている自分をそれに合わせてチューニングしておかないと、ちょっと退屈してしまうかもしれない。

私はちょっと上手いことチューニングできなくて、中盤辺りで少しウトウトしてしまった。

最初のシーンはおそらく現代なのだが、場面はすぐに過去に移る。
舞台は1820年代のアメリカ西部。
1820年代のアメリカ、といってもあまりピンと来ないが、「大草原の小さな家」を書いたローラ・インガルス・ワイルダーの生年が1867年なので、それよりずっと前、西部開拓時代のかなり初期、ということになるだろうか。ちなみに日本だと江戸時代後期、文政年間にあたる。

この開拓時代の様子がすごく面白い。
一山当てようと集まって来た者たちの中にはロシア人もいれば中国人もいる。
この辺りではかなりの顔役らしい仲買商の男はインディアンの女性を妻にしている。
そして、「隊長」と呼ばれる軍人の男と最近のパリのファッションの流行りについて話をする。
仲買商は牛を一頭だけ飼っている。
本当は3頭(つがいの牛と子牛)取り寄せたのだが途中でオス牛と子牛は死んでしまい、メスの牛だけが生きて届いたのだという。
この地方で最初の牛(ファースト・カウ)だ。

× × × × × ×

この話の主人公はアメリカ人・白人・男性・料理人の、通称クッキー。
このマッチョな開拓時代で生きて行けるのか心配になるような心優しい男だ
このクッキーが野心家の中国人キング・ルーと出会うところから話は始まる。

すごく簡単にまとめてしまうと、この2人の友情の物語、と言っても間違いではないのだが、しかしそれではこの映画の面白さが全然伝わらない気もする。
「鳥には巣、蜘蛛には網、人には友情」
という詩句が冒頭に映し出されるので友情の物語であることは間違いないのだけれど。

クッキーが作る揚げ菓子(ドーナツ?)がとても美味かったので、キング・ルーはこれを売って儲けよう、とクッキーに持ちかける。
しかしドーナツをつくるのには牛乳が必要で、二人は仲買商の牛から無断で乳を搾ることにするのだが・・・、という話、なのだが、やっぱりこんな説明をしてもこの映画がどういう映画なのか全然伝わらない気がする。

× × × × × × 

どんな映画なのか、説明するのが難しい映画はだいたい良い映画だ。

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どちらかと言うと厳しさよりは穏やかさを感じさせる森の木立。
流れる川のせせらぎ。
その川の上をすべるように進んで行くインディアンの舟。
掘っ立て小屋。
優しげな眼をした牛。
どれもどこかで見たような、でも初めて見るような不思議な感覚。

「こんな映画見たことない!」
なんていうセンセーショナルな感じは全くしないのにもかかわらず、
こんな映画は見たことがないような気がする不思議な映画だった。

ま、ウトウトしながら見ていたのだけれども。

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