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レミニセンス【映画忘備録】

地球温暖化による海面上昇によって水没した都市を舞台にしたハードボイルド映画。
まず、ビジュアル面が素晴らしい。
水没した街とそこに暮らす人々。
未来世界を魅力的に見せてくれる、という意味では「ブレードランナー」に近いか。

これは観終わってから知ったのだが、この映画の製作にはクリストファー・ノーランの弟が関わっているらしく、それでクリストファー・ノーラン的なものを期待した人が観て、「思っていたのと違う」「がっかりした」的なレビューが割と多いようだ。

この映画は確かにクリストファー・ノーラン的ではない。
クリストファー・ノーランという映画監督は、「こけおどし」の達人である。
別に悪口を言っているわけではない。
映画の魅力の一つに「こけおどし」の魅力があり、特にSF映画でその魅力が最も発揮される。クリストファー・ノーランはその方面の才能がある、ということだ。
その「こけおどし」のやり方、意味ありげな風呂敷の広げ方、が「考察」とかが好きな人にはたまらない魅力に感じられる、ということなのだろう。
ぼくも嫌いではない。
今の映画界で最高の監督、とか言われるとちょっと鼻白んでしまうが、「こけおどし」の魅力は十分に伝えてくれる監督である。

しかし「レミニセンス」にそういう「こけおどし」的な仕掛けはほとんどない。
「水没した街」とか「記憶を再生して可視化する装置」とかSF的な道具立てはあるものの、物語の構造は現代を舞台にしても成り立つような話だ。
そしてそれは別に欠点にはならない。
変な「こけおどし」に頼らないまっとうなハードボイルド映画、という方向は悪くない。
〇過去に心の傷を負った元軍人の主人公
〇アル中だが射撃の腕はピカイチの相棒
〇失踪した謎の美女
〇かなりヤバいこともやっていそうな街の実力者とその愛人
〇中国系の麻薬の売人
〇暗躍する悪徳警官
もう教科書的、と呼べるような見事な人物配置である。
伏線の貼り方とかもきちんとしている。

ただ、この映画が素晴らしい出来か、というとそれもまたちょっと別の話で、ハードボイルド映画として、出来は今ひとつ、と言う感想を持った。

話の骨格は王道のハードボイルドで悪くないのだが、話の運びがまだるっこしい。
ハードボイルドの魅力は無駄のないストーリーと、じめじめした情緒を排除したクールさにあると思うのだけれど、この映画はメソメソと情緒的で無駄に長い(特に銃撃シーンや格闘シーン)。
116分と言う上映時間はいくらなんでも長すぎる。
90分で十分に語りきれるはずだ。

しかしそれでも、「クリストファー・ノーランぽくない」という的外れの批判をされるのはどうにも可哀そうだし、ビジュアル面は本当に魅力的だ。
ひとつの世界を提示する、というのがSFの魅力の一つであるならば、この映画はそれはちゃんと出来ている。
観て損は無かったな、と思う。

× × × × × ×

余談

この映画の中で「謎の美女」が歌う物語のキーになる歌があって、すごく耳になじみがある曲なんだがどこで聞いた曲なのか思い出せなかった。
映画を観終わって家に帰ってから調べると、「where or when」という曲だとわかった。
作者はロジャーズ&ハート。
「Babes In Arms」というミュージカルの中の一曲で、このミュージカルはジュディ・ガーランドとミッキー・ルーニー主演で映画化されている。
この映画は断片しか見たことがないが、ジュディ・ガーランドのCDは昔よく聴いたからそれで耳なじみがあったのかもしれない。
ちなみに有名な「My funny Valentine」もこのミュージカルの中の曲だということだが、映画版には使われていないとのこと。
なんでこんな名曲をカットしてしまったのかはわからないが、やはりジュディ・ガーランドの出た「オズの魔法使い」の挿入歌「虹の彼方に」も危うくカットされるところだった、という話を思い出した。

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