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映画『ブルー・バイユー』
ジャスティン・チョン『ブルー・バイユー / Blue Bayou』(2021、米、118分)
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アジア系の主役は珍しいかな?と興味を惹かれていた作品。
主演は自身も韓国系アメリカ人であるジャスティン・チョン。それだけでなく、監督・脚本・製作も担う。
とりわけ脚本が秀逸で、誰一人として無駄な人物がいない。
それぞれの背景が細やかに描き込まれる分、物語が説得力を持ち始める。
何重もの、社会的立場の脆弱性
主人公はタトゥーを施す彫り師で、幼い一人娘を連れたシングルマザーと結婚している。
まだほんの小さな頃、韓国から養子に出され、以来アメリカで生活してきた。
安定しているようにはとても見えない仕事や、気は良いが荒っぽい仲間たちを通して、貧困や格差が町を覆っているのが見える。
それでも、妻とは人種を越えて、娘とは血のつながりを越えて、愛し合い信頼し合っている。
誰もが過去を懐かしく振り返れるわけではない
妻の元夫との、ちょっとした揉め事をきっかけに、あれよという間に自らの滞在資格すら危うくなってしまう。
それは彼自身の過失では全くないものの、見込みの薄い裁判にまで追い詰められる。
なぜ実母は、かつて彼を手放さざるを得なかったのか。
なぜ彼は、養母はもう亡くなっていると嘘をついたのか。
断片的に蘇っては彼を苛む記憶が、だんだんと形を明らかにしていく。
そして、たまたま知り合ったベトナムからの移民女性との交流も、この映画を重層的にしている。
彼女と父親の生き様や在り方に触れて、妻にさえ打ち明けなかったことを漏らす主人公。
どうしてそうしたのかの理由も、私は併せて考え込んでしまった。
自らの信念が法制度とぶつかるとき
突き詰めると、自分の本心をあくまで貫くのか、それとも涙を飲んで法を遵守するのか。
その葛藤の場面で、どう決断するのか。
映画はそのことを繰り返し今も描き続けているように思う。
自らを省み始めた元夫や、護送を買って出る移民局の友人、辛い過去を封じ込めていた義母の行動。
最後の最後まで二転三転する展開は、ここまで積み上げてきた細部があったからこそ、最大限の効力を発揮する。
「移民政策」というたった一語の裏に、一家族一家族、一個人一個人の、これだけの物語がある。
それは、決して米国だけの話ではない。