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ドキュメンタリー『国境の夜想曲』
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ジャンフランコ・ロージ『国境の夜想曲 / NOTTURNO』(2020、イタリア・フランス・ドイツ 、104分)
この監督の前作『海は燃えている ~イタリア最南端の小さな島~』でもそうだったが、ただ静かに映し出すという手法が採られている。
それだけ、カメラが捉えている目の前の日常が、すでに大きすぎる意味を裏に含んでいるからなのだろう。
前作では難民が命懸けで目指す島を、今作では紛争やテロが続く国境地帯を取材。
夕焼けのように見える赤色の強い光は、爆撃や照明弾なのかもしれない。
わずかな手間賃のために夜明け前から起きて待つ少年の顔はまだ幼い。
何の説明もされないので、こちらにも想像する余地が与えられる。
精神病棟内での演劇の台詞や、スマートフォンに残された娘からの音声、息子を失った母親の嘆き、そして子どもたちの癒えることのない記憶。
おそらく世界が耳を塞いできた種類の声なのだろう。
丘から見下ろす町の夜景はゆらめいて美しいが、常に遠くで響いている銃声が不穏だ。
国境を警備する部隊は全員が女性だったりする。
戦争に勝者はいない。ありきたりで当たり前の言葉が頭に浮かんでくる。
カメラが入り込み、外に現状を伝えているという事実こそが希望なのだと思う。