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今さら?今だから理解しておきたいOECD Learning Compass 2030

今回はOECD(経済協力開発機構)が2019年に公表したOECD Learning Compass 2030を解説してみます。
「何で5年前のコンセプトノートを今さら」って感じですが、本書は名称通り"2030年に向けた学び"がテーマになっています。今まさに全国で検討中の2nd GIGAもおおよそ2030年までのデジタル学習環境。
なので、今こそ改めて見るべき資料だと考えました。


5つのポイントに分解

「OECD Learning Compass 2030」は人によってはなかなか難しい内容なので、10分(=5000字)で読めて、ポイントを抑えられるものをチャレンジしてみます。
※最終的には原文が一番、読みたい人は以下を是非。

最初にポイント。以下の5つに分解してみました。

  1. 時代背景:国家・組織間の相互連携と個々人の充実が求められる時代に

  2. 目指すもの:個人・社会・地球規模でのウェルビーイング

  3. 必要となる力:3つの枠組み、特に現代必要な3つ

  4. 教育の新標準:学習者中心、柔軟で適応可能、多様性と包摂性

  5. 学びの方法:Anticipation(見通し)-Action(学び)-Reflection(振り返り)

1つずつ解説してみますー

①時代背景

時代背景として重要な点は、ざっくり以下の2つ。

グローバリゼーションと分断

2つの世界大戦を経て多くの国が独立。続く冷戦が終結した後、経済や文化などは自国で完結せず、国家間の相互依存の状態(≒グローバリゼーション)に。

How has education changed in response to social forces?

相互依存なので課題の要因も入り組んで複雑化。重大な課題は地球規模化のものになり(例. 持続可能な社会の実現)、解決には国家や組織間の相互調整が今まで以上に必要になってきています。
策定時の2019年時点では表面化していませんが、この相互調整が機能せず国家間・社会の中での分断も取り沙汰されることが多くなっています。
これはより一層に組織間の利害や感情の調整が必要な時代であることの証明とも言えます。

テクノロジーの発展

テクノロジーの発展も重要な時代背景の1つ。日本での流行り言葉で言うとSociety5.0。狩猟(1.0)→農耕(2.0)→工業(3.0)→情報(4.0)からの5段階目。
インターネットによって情報連携や個の発信が可能になった情報化社会から、AIやデータを用いて、さらなる個々人の充実と持続可能な社会を両立できる社会に向かいつつあります。

Society 5.0とは

まとめると、国家・組織間の相互連携と多様な個々人の充実が求められる時代になり、これまで以上に社会に対し責任を持ち、相互の対立を調整する力や、新たな価値の創出する力が求められ時代になっている、ということなのかと。

Society 5.0の実現に向けた 教育・人材育成に関する政策パッケージ

②目指すもの

ではそんな時代において、何を目指していくのか。
キーワードは「ウェルビーイング(well-being)」
また新たな横文字が、、って感じですが苦笑。類似概念として「ハピネス(Happiness)がありますが、違いは以下のようです。

ウェルビーイングとは、心身が健康で、社会的にも満たされた状態です。多面的に満たされている状態を維持できることや、多面的な幸せを表す考え方もあります。
ウェルビーイングは「幸福」とも訳せますが、Happiness(ハピネス)とはニュアンスが異なります。違いは、ハピネスは「瞬間的」に幸せな心理状態、ウェルビーイングは「持続的」というニュアンスが含まれる点です。

認識が広まりつつあるウェルビーイングとは?

ウェルビーイングの方が多面的で満たされた状態で、かつ持続的である、とのこと。

OECD Learning Compass 2030では、そのウェルビーイングを3つの視点、個人、社会、地球で充実させることを目指すもの、としています。

デジタル庁でも「地域幸福度 Well-bing指標」のダッシュボードを公開しています

教育基本法も、第1条 教育の目的で「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者…」とあるので、人格の完成=個人、国家及び社会の形成者=社会、なのである意味で相似形。
加えて、気候変動や資源の枯渇など地球規模の問題が表面化しており「地球」という視点が加わったのかと。

③必要となる力

そんなウェルビーイングを目指すうえで、必要となる力=コンピテンシーとはどんなものか。
コンピテンシー、、また新たな横文字かって感じですが、先生方からすると「資質・能力」と類似と思ってもらうと良さそうです。
コンピテンシーの枠組みとしての3つ、特に現代求められる3つ、が挙げられているので、簡単に補足します。

枠組みとして①知識 ②スキル ③態度と価値観

コンピテンシーの大きな枠組みとして、①知識、②スキル、③態度と価値観の3つが挙げられています。それぞれをざっと書くと以下のような感じ。

  1. 知識(Knowledge)
    学習者がさまざまな状況で必要とされる情報やデータの理解を指す。基本的な学問的知識(例: 国語、数学、歴史など)に加え、より実践的な知識(例: デジタルリテラシー、金融リテラシー)も含まれる。

  2. スキル(Skills)
    学習者が特定の目標を達成するために必要な実践的な能力を指す。クリティカルシンキング、問題解決能力、コミュニケーションスキル、チームワーク、デジタルスキルなどが含まれる。

  3. 態度と価値観(Attitudes and Values)
    学習者がどのように行動し、他者や環境に対してどのように関わるかを決定する内面的な指針。倫理、持続可能性、多様性の尊重、公平性、社会的責任感などの要素を含む。

ちょっと乱暴に、学習指導要領に概念を当てはめると

って感じでしょうか。ある意味で、学習指導要領は良く出来ているな、とも言えそうです。

現代に必要な変革的コンピテンシー

さらに、複雑で多様な課題一杯の現代において、必要なコンピテンシーとして以下の3つが特出しされて強調されています。

  • 新しい価値の創造(Creating New Value)

  • 緊張やジレンマの調整(Reconciling Tensions and Dilemmas)

  • 責任を持つ行動(Taking Responsibility)

この辺りは、最初に言及した時代背景との合わせ鏡の様相です。
この3つは、経済的(追いつき追い越せ)・文化的(和をもって尊ぶ)・政治的(統治は他人事で行政に依存)な背景から弱かった部分のはずで、日本の教育システムとしてはしっかり向き合わないといけない内容だと感じています。

④教育の新標準

そういった背景や目的を踏まえ、教育の新標準(ニューノーマル)はどのようなものなのか。
OECDのページで述べられている内容をまとめると以下の2つでしょうか。

学習者主導のアプローチ

従来は主に先生主導、ニューノーマルは学習者主導でのアプローチ。

従来は、先生が学習の内容やペースを決定し、指定された教材を学ぶ。標準的なテスト・試験をを通じて、理解度や能力を一面的に評価。

一方、ニューノーマルでは、学習者は自分の興味・関心に応じて学習目標を設定し、各々のペースで自律的に学ぶ。教師は学習者が学びを深めるためのサポートやリソースを提供。個々の進捗に応じてフィードバックし、形成的な評価、学習成果(ポートフォリオ)による評価も取り入れられ、学習者の理解度や能力をより総合的に評価していく。

以前記事にした「"環境を通して行う教育"とデジタル」もまさに学習者主導のアプローチを書いているものですので、興味ある方は是非。

ある意味で、社会的要請=外発的動機での学びから、学習者の意思=内発的動機へのシフトとも言えそうです。

「自分らしい学び」への移行の説明スライドから

柔軟で適応可能な教育システム

学習者主導のアプローチを行うには、教育システムが柔軟かつ適応可能であることが求められます。
標準化された一直線のカリキュラムでは対応できず、学習者個々に合わせた学びが必要になってきます。

実現するためには制度的な変革が絶必
加えて、一斉一律ではなく個々の学習者が別々に学び、それでも統合的に見取る必要があり、そのためにはデジタル技術をインフラとして機能させる必要があります。

OECD Digital Education Outlookにおいても、多種多様なリソースから学び、それらがデータとなることで統合的に見取ることができる、と言及されています。まさにGIGAスクール構想を通じて整備されたデジタル学習環境の意味もここで大きく発揮されてくることになります。

個別最適な学びの解像度をあげて、ICTやデータの意味を考える

さらには教育システムが柔軟で適応可能であることで、障害のある学習者や、文化的・社会的に異なる背景を持つ学習者へのサポートが行いやすくなります。教育現場での多様性と包摂性を担保にも繋がってきます。

⑤学びの方法

教育システムの新標準(ニューノーマル)が確立されていくなかで、学習者はどう学んでいくのか。
OECD Learning Compass 2030では、他の様々な学習プロセスを基礎とし統合したモデルとして「AARサイクル」が提示されています。
AARサイクルは、Anticipation(見通し)-Action(学び)-Reflection(振り返り)の3つの段階を繰り返し回してくこと学習モデルです。

類似概念でより一般的なのはPDCAサイクルでしょうか。主な違いをそれぞれの構成要素で比較すると以下のあたり。

  • Plan(計画)→Anticipation(見通し)
    PDCAがしっかり「計画」を立てる想定に対し、AARはサクッと「見通し」を立ててたら次のフェーズに移行。

  • Check(評価)&Action(改善)→Reflection(振り返り)
    PDCAが計画との差分を「評価」、評価をもとに「改善」を実行するのに対し、AARは学びの後にフィードバックされ、即自的に次の行動に反映。

PDCAが反復的なプロセスを中長期の継続的な改善に適しているのに対し、AARは即時フィードバックによる実践的で短期的な評価と学びに適している感じです。

このAARサイクルを解説するには、ジマーマンの自己調整学習あたりも併せて補足したいところですが、文字数限界っぽいのでこの辺にしておきます。

「自ら学ぶ力」、どうすれば育てられる? 自己調整学習の専門家に聞く」より

AARサイクルはもう少し掘り下げた方が良さそうな内容なので、次回、ここに絞って書いてみたいと思います。

まとめ

ということでOECD Learning Compass 2030の内容を解説してみました。ここまでまとめた上で、改めてラーニングコンパスの図を見て見ます。

左下にいるのが主人公である学習者。右上のゴール=Well-beingに、コンパスを駆使して向かっています。コンパスにはコンピテンシーの3つの枠組みと現代に必要な3つが示され、AARサイクルによって機能する。学習者はそれらを指標に、自らゴールへの道を選択していく。

この図の最大のポイントは、学習者が自らコンパスを駆使して歩みを進めていることじゃないかと思っています。
誰かに与えられた学びではなく、自らゴールへ歩む=学んでいること。

OECD Learning Compass 2030には「エージェンシー」という重要な概念が書かれています。この図の右下にも「Student agency」。
エージェンシーは「自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく力」とされています。
学習者の主体性であり、自らの行動が社会を変えられると信じ、責任をもって実行していく力

エージェンシーとコンピテンシーを磨き、伸ばしていくことが、OECD Learning Compass 2030の重要なミッションなんだと感じています。

おわりに

ここまででピッタリ5000字。この資料、むちゃくちゃ要素多くハイコンテクストなので、この長文でもめっちゃ圧縮に苦労しました。いつもの3倍ぐらい、書くのに時間かかってしまった…。

でも冒頭でも書いた通り、2nd GIGAのデジタル学習環境はおおよそ2030年まで活用します。
そしてOECD Learning Compass 2030は、世界の教育状況を見てきたOECDが知恵を結集してまとめた2030年に向けた学びの在り方です。

全ての学校設置者・学校が2nd GIGAでのデジタル学習環境を考えている今だからこそ、必読の内容だと思い、気合入れてまとめてみました。
是非、ご意見いただけたらと思いますし、シェアなりリポストなりで広めていただけると嬉しいです。

文字じゃなくて動画でおさらいしたい人は、公式の以下をご覧ください。
※日本語訳を豊福先生がやっていたの知りませんでした。びっくり。

次回は途中で言及したAARサイクルに絞って掘り下げてみようかと思います。ではまたー

付け加えで最後に宣伝を

OECD Learning Compass 2030も踏まえ、GIGAスクール構想「第2期」に向けて、8/29(木) 15:00-16:30でウェビナー実施します!
単にGIGA端末の選定というだけでなく、GIGAの環境を踏まえたAARサイクルやデータ活用についても話そうと思っていますので、興味持ってくださった方は是非、以下からエントリしてくださいー
著名なスペシャルゲストも呼ぶよう画策していますので、お楽しみにー


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