「あっ!写ってる」
2024年10月の中旬、夕刻、西の空。
『紫金山・アトラス彗星』を見たくて、
小高い山から、陽が沈んだ空を眺める。
ほんのり紅く染まった空が、
徐々に暗闇へと変わる頃、
シャッターを切る音とともに、
気配をわずかに感じるほどの距離から、
ざわめきが聞こえ始めた。
「見え始めているのかも」と
急いでウエストポーチの中に手を入れ、
手探りでレリーズを慌てて掴むと、
シャッターボタンにセットする。
ひと呼吸して、ボタンを押し切らないように、
そっと力を加え、モニター越しに
ピントと露出を合わせ、視線を空に戻す。
そして、見えなくなってきた風景と
入れ替わるように、彗星が見え始める。
…と思っていた。
なんとなく、微かにぐらいは
見えるものだろうと思い込んでいたが、
確かにあるはずの彗星は、
じっと見つめていても、私の目には、
広がった夜空が映っているだけだった。
だけど、カメラは私たちが
目で見えているもの以上に、
写し取ってくれる。
それは、写真には露光時間があり、
シャッターが開いている時間の長さによって、
被写体の軌道を撮影することができるので、
思いもよらない形が創り出される
こともあれば、見えなかったものを、
写し出してくれることもある。
写真には、見えないものを
カタチにする力がある。
だから、見えないけれど
何か感じるものがあれば、シャッターを切る。
ということは大切なのかもしれない。
見えているものだけが、すべてではない。
見えないけれど大切のもの。
そんな写真が撮れたら、と思う。