フリーライターはビジネス書を読まない(4)
図書館のビジネス書コーナーには、株式に関する入門書から専門書に至るまで、じつにさまざまな本が並んでいた。
こういうのも、じつは新たな発見だった。
原稿を書くというミッションを与えられなかったら、おそらく図書館とは無縁のまま生きていたに違いない。
仕事の合間を縫って、図書館通いが1週間続いた。さすが大阪市立中央図書館には蔵書が豊富で、類書に事欠くことはなかった。
問題は、私が書く原稿だ。
1項目あたり1200字を5本、なんとか書き上げたけれど、これが本当に本に載るのか?
とにかく送ってみよう。
この当時、原稿を版元へ送る手段は、まだ郵送が主流だった。マス目の原稿用紙に書いているライターもいたし、ワープロで打った原稿でも、プリントアウトして大判の封筒で送っていた。
編集者から「データで送ってください」といわれたら、3.5インチのフロッピーディスクにデータをコピーして、さらに「データが再生できなかったときの保険」としてプリントアウトも添えるのだ。
なんせワープロは、同じメーカーでも機種ごとにデータ形式が微妙に異なっていたから、版元で再生できるかどうかはほぼ賭けに近い状態。
版元では各メーカーのワープロデータを再生できる「コンバーター」というソフトを用意して、ライターごとに使用機種が異なるデータに対応していた。それすらも、しばしば最新の機種で打ったデータを再生できないという事態に遭うものだから、プリントアウトは欠かせなかったのである。
さらに、この時代を通過した物書きしか理解できない感覚に、締め切りの概念がある。
締め切りとは、原稿が編集者の手元へ届くリミットのこと。郵送していた時代は、郵便が到達するまでの日数込みだったから、締め切りの2日前には完成させて発送しなければ間に合わない。
今は「○日の○○時まで」と時間単位で締め切りが設定され、しかもその時間ギリギリまで使える。できあがった原稿は、メール添付やWEB上でサクッと送れてしまうし、まさに隔世の感がある。
1週間の期限だったから、5日目にはフロッピーとプリントアウトを編プロへ送った。
もともとパソコン通信をやるために買ったワープロは、プリンターを搭載していない安価な機種だった。原稿をプリントアウトするために、プリンターだけわざわざ購入した。
つづく