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私の居場所を見つけたよ

ホテルの部屋に入り客の顔をチラッと確認すると、すぐにそれが中学までの同級生だった菅原哲太君だと気づいた。
中学の時、初めて他人に対して自分の気持ちを制御できずに行動してしまった、その切っ掛けとなったイジメられ役の当人だ。
あの時の事は、自分のとった行動にとても驚いた出来事だったので、よく覚えている。
彼の少し怯えたような瞳は、その当時のままで可愛らしく思えた。
こんな事をしている事が彼にバレたって、私は別に平気だと思っていたが、彼の方が気にすると悪いと思い、黙っていた。
でも、結局はじきに気づかれてしまった。
哲太君の顔つきは昔とたいして変わっていないように感じるが、体はすっかり大人の男性らしくなっていた。やや細めながらも腕や背中の筋肉は硬く、中学生の頃のひょろひょろで弱々しいイメージではなかった。

哲太君と裸でじゃれ合っていると、何故だかとてもリラックスした気分になれた。彼の方も段々と緊張が解れてきたようで、次第にアソコも正常に反応するようになり、私はそのまま彼のモノを私の入口に導いた。
座位のまま、向き合う形でふたり抱き合う。
「あったかい」
目を閉じてそう呟く彼に、私も「あったかいね」と返した。
私たちはゆっくり、ゆっくりとお互いの反応を確かめ合うように腰を動かした。
こんなに穏やかに心が満たされるセックスは初めてだった。
そしてなにより、哲太君との行為中、あのひとの幻を頭の中で現像することは無かった。あのひとが残した呪いの言葉はもう消えたのだ。

思い起こしてみればこれまでは、思いが強すぎて激しく求める事や、最近ではただ男の欲求に合わせてプレイする事ばかりだった。
それでも体の快楽は得られていた。
でも哲太君との行為は、これまでのどの行為とも違っていた。
私は哲太君との行為を通して、この落ち着いた穏やかさをずっと心の中で望んでいたという事に、この時はっきりと気づく事ができた。

終わったあと、私は彼に礼を言った。
彼は何の事かわからずに不思議そうな顔をしていたが、私にはこれから自分の進むべき道が見えた。
いずれ、哲太君とはまた逢う時が来るかもしれない。
自分はこれから新しく生まれ変わり、本来あるべき姿で彼との再会を果たすのだと、それが既に決定事項のようにその時、私は考えていた。

私を気に入ってくれていた上客のひとりに、もう会うことは出来ないと連絡をすると、これまで世話になったから好きに使えと、纏まった金を渡してくれた。
私はその金でインドに渡った。
ガンジス川のほとりで2ヶ月滞在し、帰国した。
インドでは純粋に〈生きる〉という事にスポットを当てた生活が出来た。昼間は濁ったガンジス川の、夕日を映した時の壮大な景色が瞼の裏に焼きついている。

帰国後、私はすぐに引っ越しをした。
以前、父と行ったあの釣り堀のある川沿いのもう少し上流の方にちょっとした観光スポットになっている滝があり、そこで仕事をさせてもらうことになった。
その滝の近くに今は使われていない、別荘として小金持ちが建てたログハウスがあり、そこを安価で買い取った。
私はそこを冬でも暮らしやすいように改築してから住み始めた。

預金の残高は殆ど無くなったに等しいが、私は代わりに理想の生活を手に入れた。
夜になると内緒で神聖な滝の付近まで泳ぎ、その水で心身を清めた。
何ヵ月か前までは考えられぬ程、いま私の心は静まり安らいでいる。
自分の本当の居場所を見つけたのだ。
私は、この心の平穏が永久に続くことを、滝に棲む神に願い、そして祈るのである。



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