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◆不確かな約束◆しめじ編 第10章 古ぼけた雑居ビル
新宿に向かう電車の中は学校帰りの学生でいっぱいだった。あちらこちらから楽しそうな笑い声が聞こえる。僕はユキとの事を考えていた。
幼い頃、ユキはしっかりとしたお利口さんで、大人達からもいつも誉められていた。僕はそんなユキの後ろで、恥ずかしそうにしているだけだった。
小学生、中学生の頃も優等生だったユキ。一緒にいるのが照れくさくて、距離を置いた。でも、いつも見ていた。眩しかった。
高校生になって、付き合い始めた。彼女は僕だけのものになった。僕は精神的に、彼女に頼り過ぎていた。彼女を手放したくなかった。彼女が他の男子生徒と話しているだけでもムカついていた。だから僕はできる限り、彼女と一緒にいた。そしてふたりだけの世界をつくりあげていた。彼女もそれを嫌がってはいないのだと思っていた。
でも今思い起こしてみると、そうではなかったのかもしれない。彼女は途中から、他の世界を見て、体験してみたかったのだと思う。それを僕が、自分のエゴだけで潰していたのだ。僕はいつまでも、彼女に甘えていただけなのかもしれない。
7年前の今日、彼女が決断し、僕に伝えたかった事は、そういう事だったのかと、今では思っている。いつまでも一人前になれない僕への、成長するための機会。それから彼女自身も、もっと世界のいろんな事を知りたかったのだろう。そして、お互いに成長するための別れ。
僕は、そんな彼女に感謝している。取り返しのつかないような失敗もしてきたけど、これまでのあらゆる経験によって、少しはひとの事を思いやれるようになったと思う。確かにあのまま、ふたりだけの世界でなど生きられなかった。僕がユキまでダメにしてしまうところだった。だから、彼女の決断に、感謝している。
◆◆◆◆◆◆◆◆
18:08 新宿駅に着いた。あの日以来、新宿に来るのは自然と避けていた。7年ぶりの新宿は、あの頃と変わらず、雑然な雰囲気を醸し出していた。勿論、店が入れ替わったりはしていた。
んっ 店が入れ替わる⁉ 急に不安になった。あの約束の場所〈Promised Place 〉はまだちゃんとあるのだろうか?
足早に、店のあったはずの場所を目指した。
「ないっ!」
思わず声に出してしまっていた。
〈確かここのはずなんだけど〉
そこには古ぼけた雑居ビルがあった。ビルには誰もいないようで、そこだけ廃墟のようになっていた。
どうしようもないので、一応、2階へと上がる階段までの通路を入っていってみる。
階段の手前のポストに引っ掛けるように、見覚えのある模様が。
くしゃくしゃとした布。白地に黒い水玉模様。
〈ユキにあの日買わされた、目印のはずのシュシュだ〉
シュシュが掛けられたポストには Promised Place と書かれた紙が貼られていた。
僕は急く気持ちを押さえながら、シュシュを手に取った。
すると、丸められたシュシュの中から、一枚の紙切れが足元にヒラヒラと舞い落ちた。
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