見出し画像

かつての子供たちにもロジャー・ラビットは笑う / 映画『ロジャー・ラビット』感想

こんな記事を読んだ。わたしの敬愛する友人がディズニーランドでトラウマを克服した話で、この中に映画『ロジャー・ラビット』が話題に上がった。

彼女のトラウマを克服した『ロジャー・ラビット』はどんな映画なのか。気になってわたしも観てみた。これがとにかくおもしろかったので、感想を書いていこうと思います。以下、ネタバレを含みます。

アニメ映画のスター、ロジャー・ラビットは最近妻ジェシカが浮気をしてるという噂を聞き撮影中にNGばかり。一方、探偵のエディ・バリアントはトゥーンに弟を殺されて以来アニメを憎み、大好きだったトゥーンに関わる仕事を辞めて酒びたりの生活を送っていた。ある日、エディは映画会社の社長にジェシカの浮気現場を押さえるように依頼される。何とか証拠を掴みロジャーに見せた翌日・・・ジェシカの浮気相手が何者かに殺害された。容疑者になってしまったロジャーは、エディの協力を求め、真犯人を探し始めるが・・・。

Disney+『ロジャー・ラビット』あらすじより

ディズニーランドのトゥーン・タウンには何度も足を運んだことはあった。ロジャーラビットのカートゥーンスピンにも乗ったことはあった。あれほど楽しい乗り物はディズニーリゾートを見渡しても見当たらない。ウミガメのクラッシュだって降参のヒレを上げるにちがいない。

だけど、あのエリアに原作があるところまでは想像が届いてなかった。あのエリアの原作、この映画がどんな内容なのかは想像がつかなかった。

映画開始1分、矢継ぎ早に登場するトゥーン表現の数々。ロジャー・ラビットがユーモアのサンドバッグになってる。ロジャーがの頭上に冷蔵庫が落ちてきた頃には、がっつり心をつかまれてた。

そうそうこれこれぺしゃんこにつぶされて頭を鳥や星が飛んだり、飛び出した窓ガラスがロジャーラビットの形に割れてたり、カートゥン的ユーモアは見ているこっちまで自由になれる気がする。その自由さは彼らの性分のようで、逃亡の身にも関わらず笑わさずにはいられないというロジャーの衝動に不自由するところは、人間の無意識の癖のように感じて可愛らしかった。

トゥーンである自由に対する責任と取らされているようだし、そういう”設定”はトゥーンという生き物が抱える宿命のようだ。そう考えると、ドゥーム判事もまたそういう宿命を抱えた生き物であると言えるし、つまりどうしようもない悪役なのだろう。

作中には映画会社の社長・アクメ(名前が気まずい)やエディの弟が殺されたりDIP(トゥーンの溶解液)が使用されるなど、カートゥンではありえない”死”が存在することに観ていて気がついた。

ユーモラスな自由と現実的な死の同居とカートゥン絵柄独特の不気味さがだんだんクセになってきて、まるで自分がカートゥンにひっぱり込まれたような不思議な没入感があって、数年に一度思い出したときに見返したくなる。

一見無秩序にも見える実写とアニメの融合だがルールは明確に決まっているようで、エリア別で人間とトゥーンのパワーバランスが反転していたのがおもしろかった。当然といえば当然だが、実写世界では人間たちがロジャーたちトゥーンを組み伏せてるのに対して、トゥーン・タウンでは人間たちのほうがトゥーンに振り回される。この作品には実写には実写の、トゥーンにはトゥーンの、それぞれの世界に独自の秩序がある

この現実とトゥーンの関係性はわたしが生きてる現実に似ていて、つまりこの作品が描いているものは「アニメは子供が見るもの」という偏見に通じてる気がした

「子供が見るもの」を卒業させたがる大人たちの差し出口のような、トゥーン・タウンを消し去ろうと襲い掛かるドゥーム判事の一方で、トゥーン・タウンの命運を握っていたのは映画会社の社長・アクメ(名前が気まずい)の遺言状は示唆に富んでいる。そして、その間にいる当事者が本作の主人公・エディ・バリアントとロジャー・ラビット。

笑わなくなったエディをロジャーはいつだって笑わせようとお道化てみせた。その関係は卒業と引き換えに大人になったしまった元・子供たちに対するけなげさのようにも見える。

卒業させたい大人と守りたい大人の板挟みにあったエディは、あれだけトゥーンを嫌いながらもロジャーのために奔走し、窮地に立たされてもイタチたちをDIPではなく笑い死にさせた。この彼の迎合こそ『ロジャー・ラビット』のメッセージだと感じた。アニメーションはいつか卒業しなくてはいけないネバーランドではなく、トゥーン・タウンなのだと。あのトンネルのようにいつでも開かれているんだよ、と。

映画が公開された1988年から時は経ち2024年。いまさら「アニメは卒業しなさい」なんて言われることもないだろうけど、もしそんな小言に困ってる人がいるのならロジャー・ラビットを頼ってほしい。彼は全身全霊であなたを笑わせてくれるはずだ。

おしまい。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集