ユダヤ人の受難のパワー(なぜロスチャイルド家が誕生したのか?)⑤
ユダヤ教を忘れるな
こうしてみればロスチャイルド家の祖先がフランクフルトのゲットーに押し込められて古物商を営み、マイヤーがそこに生を受けて一般の人々から蔑みの声を浴びせられたのは、ローマ教皇の教書のせいとも、あるいはユダヤ迫害の長い歴史のせいとも言える。
しかし、彼はこの境遇をバネに商売に励み、その息子たちはヨーロッパはおろか世界一の金融王国を築き上げた。
ユダヤ神学校に学んだマイヤーは、子供達に対しても宗教面では厳格で敬虔な信者に育て、息子たちがヨーロッパの主要都市に散ってからも手紙で商売上の指示を与えるとともに神との約束を思い出させた。
ユダヤ教はロスチャイルド家のバックボーンであり、一族の者は現在でも遺言の最後に「マイヤー・アムシェルの教えを守ってユダヤ教の忠実な信者であり続けるように」と書き記す。
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しかしユダヤ人をめぐる状況もいつまでも同じではない。
海運国家オランダで1657年、経済繁栄に貢献したユダヤ人が共和国市民としての地位を確保するなど、変化の波が寄せてきた。
18世紀に入ると、イギリスやフランスなどのキリスト教社会で啓蒙主義的考え方が提唱される。
個人としての人間を尊重し、歴史的所産としての社会的、宗教的くびきからの人間解放を目指すこの考え方が、ユダヤ人の権利回復にプラスに働いた。
呼応してドイツ在住のユダヤ人側にもモーゼス・メンデルスゾーン(1729〜1786)のようにユダヤ教の合理主義的解釈を行い、行政分離を主張する哲学者が現れた。
また経済活動が活発になったことからヨーロッパ各地で労働者としてのユダヤ人に対する需要が高まり、富裕なユダヤ人金融業者の活躍の場も広がって、北ドイツでは封建領主に取り入った宮廷ユダヤ人も出るようになった。
マイヤーの奉公先であったオッペンハイムなどがそうである。
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1789年には啓蒙思想の帰結ともいうべきフランス革命が起き、国民議会が「法が定めた公安を乱さない限り、人は誰であれ宗教をを含む信念のゆえに苦しめられてはならない」と人権宣言を採択する。
1806年にはユダヤ人が姓を名乗ることを認める法律が制定された。
一族の台頭はこうした時代を背景としていた。
・・つづく・・
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【参考文献】『ロスチャイルド家』横山三四郎(講談社現代新書)
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