Bd.7: 身と心 ととのう空間 =探訪記 初台・fuzkue=
諸先輩方からイチオシされていたこのお店を
訪れることが、ようやくかなった。
運よく一つだけ空いていたソファ席に座り、
皮の下敷きに綴じられたおしゃれなメニュー帳を眺める。
コーヒーを飲むつもりで来たけれど、アルコールメニューに目移り。
ここは……、 うーん やっぱりビールかな。
そっと店員さんと目を合わせ、そっと手をあげて一杯を頼んだ。
はるばるベルギーからやってきた「シメイブルー」。
私はビールには目がないのだけれど、あくまで浅学で
海外のものはほとんど履修できていない。これもまた以て然り。
「脚、伸ばせるようにできますけど、どうします?」
ビールの配膳とともに訊いてくださったので、
それならばと、レッグレストを出していただいた。
改めて腰を下ろす。
あ゛ー… これすごい
身体の身体という部分を、ソファが全力で受け止めてくれている。
ゆりかごってきっとこういうことなんだろうな。
ゆりかごならばもういっそ、このまま墓場まで運んで行っておくれ……
注文したビールを一口。
口当たりがやさしい。
一から十まですべてのものが「存在を全肯定してくれる」感じ。
もはや私はこの空間に圧倒されていた。
すごい店に来てしまった。
かくかくしかじかの理由から、
初台には幼少期からなじみが深い。
改めてこの町に、愛着のような感情が割り増しに湧く。
時間がゆっくりと流れる。
持って行った本に目を落としながら、
時折思い出したようにビールを口へ運ぶ。
ソファに身をゆだねて、天井から吊り下がる明かりをぼーっと眺めながら、
私は一つ回文をこしらえた。
音がしないように、そっと万年筆のキャップをとって、
つい初台へ こころ動く 夢ゆく航路 ここへ居立つは いつ?
(ついはつたいへこころうこくゆめゆくこうろここへいたつはいつ)
知らないことはまだまだ多い。
ひとつずつ、好きなもの・すてきなものと出会っていきたい。